第67話・アロー、アテナの結婚式①

 結婚式当日。

 俺ことアローは、ジガンさんの家で結婚式用の衣装に着替えていた。

 着付けを手伝ってくれたのはレナちゃん、ルナ。そしてローザさんだ。

 まあ、ほぼローザさんだが、子供たちの気持ちが嬉しい。

 着付けを終え、髪も軽く櫛で梳いてもらう。


「うん、かっこいいわよ」

「ぱぱ、かっこいい!!」

「お兄ちゃん、かっこいいよー!!」


 ローザさん、アテナ、レナちゃんに褒められて照れる俺。

 俺は、鏡の前に立つ……ちなみにこの鏡も村の新しい産業だ。この土地は良質の『銀』が取れる。その銀を薄く伸ばし、特殊な薬剤を塗ってさらに伸ばして作るらしい。

 鏡は、セーレにいた時もあった。が……あまり上質なものではなく、姿がぼやけて見えることもあった。

 でも、この鏡はすごい。俺の姿が綺麗に映る。ちなみにこの鏡も、交易で使う予定だ。本当に、カナンに合流した集落の人たちは、凄まじい技術を持っている。

 と、話が逸れた。


「……おお、これが俺かぁ」


 俺は、魔獣の皮で作った特別な衣装に身を包んでいた。

 ローザさんたち『婦人会』のお手製だ。魔獣の皮だが綺麗になめしてあり、さらに染色した糸で刺繍が施してある。

 アクセサリーも、カナンで採れた鉱石を加工して作った物だ。

 男の俺がアクセサリー? とも思ったが、合流したいくつかの集落にいた男の人たちも、アクセサリーとして魔獣の骨を加工したブレスレットや首飾り、耳輪を付けていた。

 俺は、少し長いローブである婚礼着をさする。


「ローザさん、こんな立派な服、本当にありがとうございます」

「なーに言ってんの。結婚式はこれからじゃない」

「あはは、そうでした」


 頭をポリポリ掻くと、ミネルバが俺の肩に止まった。どうやらルナと一緒にいたらしい。

 今日はミネルバも、首に綺麗なリボンを巻いている。どうやらルナの仕業らしい……よく似合っている。


「さて、アテナちゃんはもう少し準備がかかるわ。アローくん、結婚式の手順、おさらいしましょうね」

「はい」


 結婚式。いろいろな集落の「やり方」を混ぜ、新しく作った方法も混ぜた、『カナン式』の結婚式。

 これからは、このカナン式のやり方が結婚式の基準となるだろう。

 女性たちが、朝から食事もとらずに意見を出し合い、その日の深夜にまで考え抜いた方法だ。覚えたつもりだが、きちんと確認しないとな。


「えーっと、村に新設した『教会』が結婚式の舞台となる」


 結婚式の舞台。

 建築組が突貫工事で建てた、結婚式を行うための建物だ。

 中には、女神の銅像が設置され、結婚式に参列する人たちが座る長椅子もある。

 結婚式だけで終わるのはもったいないので、普段は『女神』に祈るための神殿として開放するらしい。集落の中には信心深い人もいるようだしな。


「えーっと……『愛と幸運の女神フォルトゥーナ』に、永遠の愛を誓う儀式を行う」


 そう、安置されている銅像だが……なんと、『愛と幸運の女神像』である。つまり、ルナだ。

 ルナをチラッと見ると、「?」と首を傾げた。まさか、自分の銅像があるとは思わないだろうな。


「進行役は、女神の祝福を受けた神官が行う。女神へ祈りの言葉を紡ぎ、俺とアテナで永遠の愛を誓う」


 進行役は、カナンに合流した集落で最も信心深い人たちが集まった『プレギエーラ』の集落のリーダーである、オラシオンさん。

 結婚式場である『教会』の管理を一手に引き受け、毎日ルナの銅像を磨いているとか……まあ、いいけどね。ルナが綺麗なら俺も嬉しいし。


「女神フォルトゥーナに愛を誓い、えっと……誓いの口付けをする。あの~……やっぱこれ、なくてもいいような気がしますけど」

「駄目」

「は、はい」


 有無を言わさない声だった!! こういう時のローザさんマジ怖い……ジガンさんでさえ怯えるくらいだしな。

 

「口付けのあとは、参列者たちから祝いの言葉をもらう。で、アテナが花束を投げる……あの~、この花束を投げるってどんな意味が?」

「オラシオン神官さんが言うには、幸せいっぱいの新婦さんが、その幸せを参列者たちにお裾分けするって意味で、花束を投げるらしいわよ。その花束を受け取った女性は、素敵な出会いがあるとか」

「へ~……いろいろ考えあるんですね」

 

 ウンウン頷く俺。まあ、みんな幸せになるならそれでいいか。

 と、ローザさんが補足する。


「あ、そうだったわ。アローくん……ドンガンから指輪を作ってもらったんだってね」

「う、まあ、はい」

「安心して、アテナちゃんには内緒にしてるから。で……婦人会のみんなと話したんだけど、キスの前に指輪交換しましょ、ってことになったの」

「はい?」

「アローくんがアテナちゃんに指輪をはめて、アテナちゃんがアローくんの手に指輪をはめるのね」

「え、え……マジですか?」

「マジです。ふふ、アテナちゃんもびっくりするでしょうねえ」


 びっくりするとは思うけど、ノリノリで交換しそうだ。

 とまあ、復習を終えた。

 結婚式が終わると、あとは大宴会となる。婦人会の方々は朝から大忙しで料理の仕込みをしているし、狩り部隊はこれ以上ないくらい張り切って獲物を狩りに行ってる。

 

「よし。じゃあアローくんは休んでてね。私、アテナちゃんを見てくるから」

「あ、わたしもいくー」


 ローザさんとレナちゃんは行ってしまった。

 残ったのは、俺とルナとミネルバ。

 ルナは、俺の恰好をジッと見て言う。


「ぱぱ、あてなとケッコンするんだよね」

「ああ、そうだよ」

「いいなー、るなも、ぱぱとケッコンしたいなー」

「ははは! 嬉しいなあ。俺もルナと結婚したいよ」


 ルナを抱っこして膝に乗せ、頭を撫でる。


「ルナ。いつかルナにも、好きな人ができて、結婚したいって気持ちになる。その時は、俺やアテナがやるみたいな結婚式をやるんだぞ」

「うん!! ぱぱとのケッコンシキのために、しっかりベンキョーするね!!」


 なんか違うが、可愛いし別にいいか。

 さて……いよいよ、結婚式が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る