第八章・【謝罪の行方】

第63話・調査隊

 マリウス領土への調査隊が結成された。

 調査隊リーダーは、マルパス領土の領主、リアン。

 自称、アローの友人。一度会っただけだが、彼の人となりを気に入っていた。

 いつかセーレ領と交流し、友人として酒を酌み交わしたいと思っていたところで、アローの追放となった。

 セーレ領領主代行・・・・のアーロンに挨拶したリアンは言う。


「アーロン殿。この度、私を調査隊の指揮に命じて頂き、感謝します」

「いえ。私は、あなたこそ適任と考えただけです。他領土の領主に指揮を任せるなど、何を考えているのか……と、いろんな方に怒られましたけどね」


 アーロンは苦笑する。

 リアンも苦笑した。だが、その決断に後悔は微塵も感じられない。

 そもそも、調査隊に同行すると言い出したのはリアンだ。


「マリウス領土への架け橋ですが……」

「許可は取りました。行きと帰り、一度ずつだけですが」


 マリウス領土への架け橋。

 マリウス領土は、断崖の孤島でもある。渡るには架け橋を架けねばならない。

 その許可を取るのに、すごく時間がかかった。

 アーロンは、ため息を吐く。


「全ての費用はこちらで持ちます……万全の態勢で」

「承知しました」

「それと……同行させてほしい子が、四人ほど」

「?」


 リューネとレイア、モエとアミー。

 リアンは、リューネとレイアの件を知っているだけに複雑だった。

 やや渋い顔をして言う。


「……正直、まだ許せません」

「わかっております。アロー様が追放された原因の一つですから……ですが、あの子たちも大いに反省し、罰も受けました。アロー様に謝罪する機会を、お願いします」

「…………」


 アーロンにとって、リューネたちは孫娘のような存在だ。

 アローにしたことは許されることではない。だが……反省し、土下座をして涙を流す姿を見せた。その謝罪に噓はないと見える。

 謝罪し、新しい人生を歩ませる。

 その後押しをするくらいは、いいだろう。


「……わかりました。個人的な感情は置いて、あなたの頼みということで受けましょう」

「ありがとうございます……」


 アーロンは頭を下げた。

 こうして、マリウス領土への調査隊が、マリウス領土へ出発した。


 ◇◇◇◇◇◇


 領主邸にて。

 マリウス領地に向かうのは、調査隊の準備が終わってから。

 その間、アーロンはリューネたちを屋敷に呼んだ。


 部屋の一つを与えられたリューネ、レイア、モエ、アミーの四人。

 リューネとモエは極度の栄養失調で、まずは身体を治すことから始めた。

 栄養を取り、しっかり睡眠を取り、身体を動かす。

 一か月もすると、二人は肉付きも戻り、二十一歳の若々しい身体に戻っていた。

 髪や肌も艶が戻り、健康的な美女と言っても差し支えない。


「お姉ちゃん、モエ、すっかり健康だね」

「そうね。体力も付いたし、いつでもマリウス領地に行けるわ」

「……」


 モエは複雑そうだ。

 ショートヘアだったが、今は髪を伸ばしている。長く伸びた髪を後ろで縛っていた。

 すると、アミーはモエにこっそり言う。


「あなた、何を気にしているの?」


 リューネ、レイアは二人がこっそり話しているのに気付いていない。

 モエは、アミーが《女神》だと知っている。この妖艶な喋り方をする方が、本当のアミーとも知っていたので、正直に言う。


「……恐いの。アロー様に会う日が近付くにつれて、私の中で《会いたくない》って気持ちが強くなっている。謝罪するって決めたけど……その気持ちも、揺らいでいる」

「アロー、だっけ? ふふ、死んでいたらいいのにね」

「……ッ」


 モエは、アミーを睨む。

 アミーは「ああ、怖い」とクスクス笑い、モエの背中を手で擦った。


「アミー、モエ、アーロンさんのところに行くわよ」


 リューネが言うと、二人は「はい」と返事をする。

 ちなみに、モエとアミーはメイド服を着ている。二人とも、この恰好のが落ち着くらしい。

 アミーは、モエに言った。


「イヤなことほど、すぐに来ちゃうのよね……ねぇ、モエ」

「…………」


 アローとの再会まで、そう遠くないだろう。

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