第62話・領主として
他領土と交流をすると言ってから、一年が経過した。
一年。実に長かった……渋る区長たちを説得し、カナンの開拓と街道の整備を進めた。
カナンは、とても大きく発展した。
住人たちの間にわだかまりはなく、それぞれの区画で協力し合って暮らしている。
ウェナさんとゲンバーさんの間に四人目の子供が生まれた。
しかも、ウェナさんは狩人に復帰……子供の世話は専らゲンバーさんの仕事で、どうやら尻に敷かれているようだ。
医者のドクトル先生だが、なんと嫁を二人もらった。
医師見習いだったカミラさんと、看護師のミシュアだ。どうも二人ともドクトル先生と仕事をしている内に惚れてしまい、ドクトル先生と関係を持ってしまったとか。
二人が妊娠していると発覚したときは、けっこうな騒ぎになった。だが、ドクトル先生は静かに「責任は取る」と言って、二人を嫁に迎えた。
ジガンさん一家は、相変わらず仲良くしてもらっている。
ジガンさんの娘レナちゃんは、ルナを妹のように可愛がってるし、俺たちも一緒に夕飯を食べたり家族ぐるみの付き合いをさせてもらっている。
俺は領主という立場でこのカナンの中心的存在だが、命の恩人で第二の父親でもあるジガンさんには頭が上がらないし、頼りにさせてもらっている。
長老のゴン爺だが……もうけっこうな歳なのに元気いっぱいだ。
ルナに勉強を教えるたびに「孫にならんか?」というのは未だに続けてるし、毎日の薪割りやトレーニングのせいで八十を超えているのに筋骨隆々だ。あと五十年は生きるとか言ってたが……たぶん生きるな。
そして、俺とアテナとルナ。
夫婦として仲良く暮らしている。
ピンク豚のファウヌースや、白フクロウのミネルバも変わらない。狼一家も成長し、アテナの部下として狩りでは欠かせない存在だ。
それと、カナンの守護獣という名目で、ファウヌースが何匹か魔獣を手懐けた。
トカゲだったり、巨牛だったり、大鷲だったり……カナンの護衛と、他領土へ続く道の護衛をさせるために仲間にしたのだが、どうもアテナが「自分の軍団にする!」とか言いだし、いろいろ命令して部下にしていた。
カナンは、もっともっと大きくなる。
どこから聞いたのか、カナンに加えてくれと、マリウス領土の集落がこの一年で続々と集結……俺がかつて住んでいたセーレ領のハオの町より大きくなった。
ゴン爺曰く、まだまだ増えるとのことだ。
だからこそ、もっともっと資源が、資材が必要だ。
だからこそ……他領土との交流が必要だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺が他領土との交流をするために行ったのは、カナンの町から他領土へ続く街道の整備だった。
まず、このマリウス領土は他の領土と比べても異質で、領土そのものが孤立している。
俺がここに来たのも、一本の細い橋を渡ってだ。
その橋もすぐに上げられてしまい、完全な孤立状態になっている。
まず、カナンから他領土までの街道を重点的に整備しなくてはならない。
そのために、アテナの協力が必要だった。
俺は、家でアテナに話をする。
「……魔獣狩り?」
「ああ。街道を整備するにあたって大事なのは安全性だ。このカナンの町はお前や狩人のおかげで安全性を保っているけど、国境までの道のりは安全じゃない」
「で、危なそうな魔獣を狩ればいいの?」
「そうだ。できれば、街道に魔獣が近づかないようにしてほしい」
「んー……あ、そうだ! ファウヌースに魔獣を手懐けてもらって、警備部隊作れば? もちろん私が隊長ね!」
「……いいかも」
というわけで、警備部隊を設立。
街道整備をしている間、アテナとファウヌース、魔獣たちによる護衛を務めてもらった。
街道は横幅を広くし、一定間隔で魔獣除けの樹を植えていく。あまり凶悪な魔獣には効果がないが、中型魔獣なら寄せ付けない。
馬車が五台並んで走っても問題ないくらい幅を広くし、国境までの道を作った。
この街道を作るのに、四十日……その間、カナンにはいくつかの集落が合流。人手も増え、畑も拡張し、交易に必要な各集落の特産品なんかも作ってもらった。
街道だけでなく、橋を架ける準備もした。
マリウス領土側から可動式の橋をいつでも掛けられるようにする。
橋は頑丈さを徹底的に追及……ドンガンを中心とした技術班が作り上げた、木と鉄を融合させた特注橋が完成した。
ここで一つミス。
橋をカナンで完成させたせいで、運ぶのが大変だった。
交易品も準備が整い、街道の整備も終わり、橋も完成した。
アテナや狩人たちによる警備班も、街道の警備を行い、近づく大型魔獣を狩り、肉とする。
アテナたちの評判が魔獣の間で噂になっているのか、大型魔獣が近づくことが少なくなったとか……これにはアテナが大いに胸を張った。
「さすが私!」
「はいはい……」
「アテナ、すごい!」
「ふふん。ルナ、もっと褒めていいのよ?」
調子に乗るアテナは可愛いが、ルナに悪影響なので止めておく。
こうして、交易準備が整った。
まずは、俺を含め数人の使者を派遣し、挨拶しよう。
挨拶する先は……セーレ領。
ある意味、因縁の土地だ。
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