第28話・ニケの集落
新たな仲間のミネルバを加え、ニケの集落に向けて進む。
ルナのおかげなのか、全くと言っていいほど魔獣と出会わず、出会ったとしても弱い上に珍味として有名な貴重魔獣ばかりだった。
アテナは不満そうだったが、ルナを連れた状態で魔獣に会いたくなかったし、それ以上に珍味としての魔獣がすごく嬉しかった。
「よっしゃぁーーーッ!!」
「お、おいアテナ、気を付けろよっ!!」
そして現在。俺たちの前に出て来たのは真っ黒い牛の魔獣。
コイツは俺も知ってる。戦闘力はないが肉が超高級食材の『黒毛魔牛』だ。その個体の少なさもさることながら、詳しい生体は不明で、どうしてこんなに美味しい肉なのか分かっていない。だが、その肉の旨さは聞いたことがある。
肉の色味、締まりなど肉質が大変良く、最高峰の牛肉と呼ばれ、肉はキメの細かく光沢があり、よく締まった赤身で歯ざわりも滑らか。旨味の効いた脂肪が赤身の間に緻密に入り込んで、細かな霜を降らせることで、柔らかく、口の中に入れると舌の上でとろけるような、まろやかな味わいらしい。
「いいか、絶対に仕留めろ!! 頼むぞ!!」
「おーけーおーけー、はっはっはーーーッ!!」
俺はルナを抱え後ろに下がり、アテナは剣を抜いて獰猛な笑みを浮かべている。
実際、俺は恐怖よりも味への好奇心でいっぱいだった。
「ステーキ……あ、そうだ。ニケの集落にお土産持って行くのも良いな」
「あぅ?」
「ん~……ありがとなルナ、お前はホントに幸運の女神だよ」
「あぁ~う」
アテナが黒毛魔牛の首を両断した瞬間を見ながら、俺はルナをなでた。
**********************
肉の解体は、たっぷり1日かかった。流石に俺も牛は解体したことがない。手探りで何とかこなした。
解体用のナイフでは足りず、俺は護身用の剣で解体し、アテナにも手伝って貰った。
勿体ないが食べる分と保存用、ニケの集落への土産用だけを解体し、残ったのは地面に埋めた。こんなに勿体ないと感じたのは初めてだ。
「アロー、今日はステーキステーキっ!!」
「もちろんだぜ!! 最高級の部位を使った高級ステーキだ!!」
「やっふぅっ!!」
アテナも俺もご機嫌だ。さっきまで血塗れで内臓の処理してたのに。
近くの川で服を洗ったため、俺もアテナも薄着のままだ。
「ねぇアロー、私はこんがり固めで!! 二枚目は血の滴るレア!!」
「おう、って……」
アテナはフライパンを持つ俺にじゃれつく。その拍子に柔らかい胸が背中に当たり、薄着なので大きさや形がモロに伝わってくる。
「あ、アテナ……」
「何よ。あ……」
ヤバい、耳まで赤くなってるかも。アテナも気が付きパッと離れた。
お互い気まずくなり少し黙り込む。俺は誤魔化すようにかまどの火力を上げる。
「あ、あのさ……」
「な、なによ」
「いや……ありがとな」
アテナが、ルナが居る。
1番の幸運は、きっとこの2人との出会いだと今なら言える。
俺は分厚いステーキを焼き、アテナを喜ばせた。
**********************
「どう言うことだーーーッ!?」
翌日。俺は大声で叫んでいた。
朝ご飯を食べて出発しようと準備を終えた途端、巨大な魔獣が現れた。ルナのおかげで魔獣には遭遇しないはずなのに、目の前には中型魔獣がいる。
「どうやら黒毛魔牛のニオイに引かれたみたいね。ほら」
「ほ、ホントだ……地面を掘ってる」
魔獣は硬そうな外皮をした灰色の馬で、大きさは5メートルほど、俺たちに気が付いてるのか居ないのか、昨日埋めた黒毛魔牛を掘り返し、土まみれ骨のままモグモグ食べてる。
「も、もしかして……気付いてない?」
「そんなワケないでしょ。アンタのデカい声でとっくに気付いてる。ほら」
『ブルルルル……』
バケモノ馬は食事の続きと言わんばかりに俺たちを見てる。おいおい、黒毛魔牛の残りじゃ足りないって顔してるぞ。
「あああ、アテナ……だ、大丈夫なのかよ……」
「当たり前でしょ。腹ごなしに丁度良いわね」
俺はルナを抱っこしたまま後ずさり、アテナは腰の剣を抜く。
バケモノ馬は雄叫びを上げアテナに向かう。
『ブォォォォォォォン!!』
「ふん、私にケンカを売るなんて……」
アテナは不敵な笑みを浮かべてる。馬の突進なんて気にならないのか、構えらしい構えも取らない。だけど慌てず、勝利を確信していた。
「千年早いわ」
突進に合わせたカウンターで、馬を縦に両断した。
アテナの両脇に馬の身体が割れ、内臓も外皮もスッパリ両断。あまりにもあっけなく馬は死んだ。頼もしすぎる。コイツに勝てるヤツなんていないだろ。
「ねぇアロー、こいつって食える?」
「どれどれ……う、くっせぇ……ムリだな、内臓も肉も臭すぎる」
「あぅぅ、あーーっ!!」
「ルナ?」
「あう、あぅあ」
「ん……?」
ルナが指さした馬の内臓の中、心臓の付近に光る塊があった。
俺は枝を拾い内臓を掻き分けると、こぶし大の薄黄色のゴツゴツした石を見つけた。
「なんだコリャ? ルナ、これか?」
「あぁー」
「おっと、汚いから待ってろ。川で洗うから」
「あう」
川で洗うと、少しはまともになった。
軽いが鉱石の類ではない。むしろ柔らかく力を入れて握れば割れそうな気がする。
「よくわかんないけど、持って行けば?」
「……そうだな。ルナのお導きだ」
「あぅぅ」
俺はポケットに石を入れ、改めて旅の支度をした。
**********************
それからは何事もなく歩き続け、ニケの集落まで間もなくのところだった。
『ぴゅいーっ!!』
「あ、おかえりミネルバ。お腹いっぱいになった?」
『ぴゅい』
「そっか、よかったわね、うりうり」
『ぴゅぅぅ……』
ミネルバを手のひらにのせ、頭をうりうりしてる。正直羨ましい。俺もやってみたいけど。
『ぴゅいっ!!』
「アンタにはやらせないってさ」
「何も言ってないだろ……」
どうやらダメみたいだ。残念だけど仕方ないよね。
集落まであろ少しだし、さっさとお使いを済ませて我が家に戻ろう。
そして歩くこと半日。
地図には魔獣避けの林を抜けた先に集落があると書かれ、目的の魔獣避けの林が見えてきた。ここを進んで行くと集落の入口が見えてくるはず。
林の中を進み、集落の入口が見えてきた。
「ふぅ。やっと着いたか」
「ここがニケの集落だっけ」
「ああ、ここで発掘作業の手伝いと鍛冶をお願いする」
ゴン爺の書状を見せれば手伝ってくれるだろう。手土産に高級肉もあるし、歓迎こそされても追い出されはしないと思う。いざとなったらアテナもいるしな。
俺たちは集落の中に進んだ。そして。
「……おい、何だこれ」
「う……ヒドいわね」
集落からは、恐ろしい異臭がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます