第16話・出会い~サリヴァン~
サリヴァンは、セーレ領主の屋敷で、執務を行っていた。
やることはいくらでもある。
アスモデウス領土から信頼の置ける採掘業者の手配、セーレ領の鉱山位置の把握、採掘のために資金繰りなど、手を付けられる場所から順に手を出す。
「……ふぅ。忙しいな」
「はい、サリヴァン様」
アスモデウス本家から連れてきた、サリヴァンの執事。
かつての執事や使用人は、スパイ疑惑がある前当主の使用人と言うことで全員をクビにし、屋敷の使用人は全てアスモデウス本家から連れてきた。
サリヴァンが一時的に赴任してから、ハオの町は混乱した。
前領主であるアローを慕う者はスパイ容疑など信じなかったし、アスモデウス家を不満に思う者も確かに居た。
だが、それらを無視してサリヴァンは鉱山開発を優先した。
サリヴァンの目的はあくまで鉱山。それ以外のことは、後にここを任せる者に引き継げばいいと考えてる。
サリヴァンは、自分に確認するように執事に言う。
「ここでの作業が終わり次第、一度アスモデウス領へ帰還する。その後、採掘業者と打ち合わせをしたら、本格的に採掘業務を始めよう」
「はい。サリヴァン様」
「くくく……アスモデウスはまだまだ発展する。このサリヴァン・アスモデウスの手によってな」
アスモデウスは、鉱石業では72の地域でトップクラス。
サリヴァンの読みでは、宝石の原石だけでなく、武器や防具に使われる銅や鉄鉱石などの採掘も視野に入れている。
それこそ、アスモデウス領土とは比較にならないほど、このセーレ領は鉱石の産地と言えた。
サリヴァンは、アローに感謝していた。
面白いくらいサリヴァンを信じ、その手の上で躍ってくれた。
命を奪わなかったのは、本当にただの気まぐれだ。
マリウス領に送ったアローがサリヴァンの命を脅かすことなど不可能だったし、魔境と言われてるマリウス領でアローが生き抜く可能性はゼロに等しい。
この時は気が付いていなかった。
「ゼロに等しい」は、ゼロではないという事に。
**********************
その日から数日の執務を終え、サリヴァンは一度、アスモデウスに帰還していた。
執務の疲れもあり、道中の馬車はゆっくりと進む。
「ふぅ……」
ため息を吐き、外を眺める。
帰ったら愛人たちを可愛がりご機嫌を取ろうとサリヴァンは考える。
愛人たちは、サリヴァンのストレス発散のために欠かせない。何故なら、溜まった欲を吐き出す捌け口として、女というのは最適な存在とサリヴァンは考えているからだ。
だからこそ、美しい女には価値があると考える。
磨けば光る女は、サリヴァンの中では宝物だ。
だから、これからも出会いがあれば、サリヴァンは女を愛人にする。それだけの権力や金はあるし、これからいくらでも手に入る。
いずれは権力を更に拡大し、四大貴族のトップに立つ。
同じ四大貴族のバルバトス・グラシャラボラス・アスタロト家とは優良な関係を築きつつ、優位に立つ方法を模索する。
サリヴァンは、楽しくて仕方なかった。
「ふふふ………ん?」
すると、馬車が停止した。
休憩はしたばかりだし、停まるのはおかしい。
不信に思い窓を開けると、1人の護衛の傭兵がサリヴァンの元へ報告した。
「申し訳ありません、どうやら……行き倒れのようです」
「ふむ、珍しいな。こんな街道の真ん中でか?」
「は、はい。どうやら若い女のようで……」
「……どれ、見せてみろ」
「は、はい」
サリヴァンは馬車から降りて、傭兵たちが包囲してる女性の元へ向かう。
その姿は薄汚いローブを着て、顔は隠れていた。
どうやら、気を失っているようだ。
「どれ、顔を見せてみろ」
もしかしたら、サリヴァンを狙う暗殺者の可能性もある。
傭兵に指示し、顔を覆う布を外した。
「………ほぉ」
「……う」
女性は、多少の汚れこそあるが美しかった。
ウェーブの掛かった長い黒髪に、整った輪郭と容姿、苦しそうに呻く姿がなんともそそられた。
野暮ったいローブを外すと、その下は胸と下半身を辛うじて隠す、薄い布しか身につけていなかった。
「ふむ……武器は持っていたか?」
「い、いえ、それらしき物はありませんでした」
「全て確認したのか?」
視線は、胸と腰布に。
だが、傭兵は首を振った。
「確認しろ」
有無を言わさぬ一言で、女性の布が外される。
乳房が零れ、下半身が露わになる。
「どうやら暗殺者ではなさそうだ、私の馬車へ運べ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、話を聞こう。なぜこのような場所で、このような姿なのかをな」
執務疲れか、サリヴァンも溜まっていた。
布を巻き直すことなく女性は馬車へ運ばれ、身体を清めベッドへ寝かせる。
サリヴァンは、女性の肢体を眺めつつ呟く。
「さて……話次第では助けてやってもいい。礼は貰うがな」
**********************
「………う、ん」
女性はゆっくりと目覚め、周囲を見渡す。
「起きたか。気分はどうだ?」
「え……あれ? ここは? ふわっ!?」
「おっとすまない。悪気はないんだ、勘弁してくれ」
女性は裸体にシーツのみを掛けた状態だったので、起き上がったと同時にシーツがパラリと落ちた。
顔を赤くしつつ、女性はサリヴァンを見た。
「み……見ました?」
「あ、ああ。すまない、着てた布はボロボロだったし、取りあえず身体を清めて、近くの町で服を買おうと思って……」
「あ、その……す、すみません。助けてもらったのに」
「いや、気にしないでくれ。嫁入り前の女性の身体を……」
「いえ、いいんです。その……助けて頂き、ありがとうございます」
女性はシーツを被ったまま、にこりと微笑んだ。
サリヴァンは苦笑し、さっそく事情を聞く。
「ところで、どうしてあんな場所で行き倒れていたんだい?」
「………わかりません」
「え?」
「その……何も覚えてないんです。どうして倒れていたのか、どこから来たとか……」
「そ、そんなバカな。じゃあ名前は?」
「名前……」
女性は少し考え、思い出したように言った。
「名前……アミーです」
これが、サリヴァンとアミーの出会いだった。
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