第17話・アミー
アミーを連れ、サリヴァンの馬車はアスモデウス領土へ帰還した。
途中、道を外れて寄った村で服を購入し、しきりに頭を下げるアミーに着せる。
サリヴァンは、アミーを娶るつもりだった。
記憶も身元も知らず、自分の名前しか覚えてない。しかしアミーは美しく、どの愛人にもない何かを感じさせた。
馬車はアスモデウス本家に到着した。
アミーを促し馬車を降りると、新しく愛人となったリューネとレイア、そしてメイドのモエが出迎えてくれた。
「おかえりなさいサリー、会いたかった······」
「ただいまリューネ、レイア」
「おかえりなさい······そちらの方は?」
リューネとレイアの視線はアミーへ。
サリヴァンに寄り添う美しい女性の姿に、2人は嫉妬を覚えた。
「ああ、彼女はアミー。記憶を失い行き倒れていた所を保護したんだ。しばらく本家で静養させてあげようと思ってね」
「ふぅん······」
「記憶を、ですか」
「ああ」
もちろん、記憶が戻れば開放する。
戻らなければ、サリヴァンの愛人として娶るだけだ。
「モエ、彼女に部屋と湯を用意してやってくれ。それと着替えを」
「畏まりました。それではアミー様、お部屋へご案内します」
「お、お願いします」
モエは、アミーを連れて屋敷内へ。
その後ろ姿を見送り、リューネたちはサリヴァンへじゃれつく。
「ねぇサリー、疲れてるでしょ?······マッサージしてあげる」
「皆さんお待ちです。ですから······」
「······仕方ない、世話になるよ」
3人は、愛人たちの待つ専用大浴場へ向かった。
********************
モエは、アスモデウス本家に建つ、サリヴァンの愛人用の館へアミーを連れて行く。
何も言われなかったが、ここで間違いないとモエは確信していた。
愛人たちと同等の部屋に案内し、まずは湯を用意する。
部屋に設置されてる風呂に湯を貯める。
キョロキョロと部屋を眺めるアミーにお茶を淹れ、モエは風呂の支度をした。
「ふぅん······」
値踏みするような、そんな声。
少し不審に思ったが、モエは湯の支度を済ませ部屋へ。
「アミー様、入浴の準備が······」
「·········」
「あ、アミー様?」
アミーは、ゆっくりとモエに近付き、その瞳を覗き込んだ。
何故かモエは抵抗出来ず、アミーの瞳に魅入られる。
「·········貴女、いい顔と目をしてるわね」
「······え」
アミーは、妖艶な表情を浮かべた。
「絶望、虚無······それと、諦め。ふふふ、大事な人を殺しでもしたのかしら?」
「っ⁉」
「貴女の気持ち、よくわかる······ふふ、|美味しそうね(・・・・・・)」
「ヒッ⁉」
アミーは、モエの首筋をペロリと舐める。
まるで別人のような雰囲気に、モエは恐怖を覚えた。
だが、身体が動かない。
足が竦み、されるがままになっている。
「貴女が望むのは罰? それとも······死?」
「い、いや······」
「ふふ、可愛いわね······冗談よ」
開放されたモエは、床にへたり込む。
アミーは微笑み、少女のような笑みを浮かべた。
「いい館ね。|お腹いっぱい(・・・・・・)|食べられそう(・・・・・・)」
「え······?」
「これから世話になるわ。それと、いい事教えてあげる」
へたり込むモエの傍にしゃがみ、アミーは言った。
「アスモデウス家は長くないわ」
そう言ってアミーは、浴場へと消えて行った。
********************
モエは立ち上がり、アミーの後へ続いた。
世話を任された以上、一人で入浴させる訳にもいかないし、今の発言も気になったのだ。
もしかしたら彼女は、アスモデウス家を崩壊させるためのスパイの可能性もある。
脱衣場には、脱ぎ散らかされた衣服が落ちて、浴室には既にシャワーの水音と鼻歌が聞こえてきた。
「失礼します。アミー様」
「あら、貴女も入る?」
「い、いえ。お身体と髪を」
「あぁ、じゃあよろしくね」
最後まで言い切ることなく、アミーは了承する。
アミーの肢体を清め、髪を洗う。
くすぐったそうに笑うアミーは、先程とはまるで別人だ。
「私のこと………気になる?」
「はい」
当然だ。
最初のしおらしい態度は、猫を被っていたということだ。
恐らくは、サリヴァンに近付くスパイか、それとも暗殺者か。
「ふふ、別にアスモデウス家に······というか、人間に興味はないわ。私はただお腹が空いただけだし、満たされたら出て行くから」
「······つまり、自分はスパイや暗殺者ではないと?」
「当然よ。私に人を殺すなんて出来ないわ」
モエは意味が理解出来なかった。
アミーの真意が読めず、身体を磨く手を止めていた。
「心配しないで。貴女は貴女の仕事をすればいい。それに、もしもの時は私が連れて行ってあげる」
「え······連れて行く?」
「ええ。貴女は可愛いし、私のお世話係にピッタリだしね」
「は、はぁ······」
「いい? これは私と貴女の秘密。私の本性は、貴女しか知らない。いいわね」
「······はい」
モエは頷いた。
アミーという女性が、このアスモデウス家にとって、災いとなる予感がした。
だが、モエはそれを受け入れた。
モエは、傍観する。
余りにも勝手な、自分の都合で。
このアミーの言葉が真実なら、アスモデウス家は崩壊する。そしてそれが、大事な人を失ったモエにとっての復讐にもなる。
アローの無念を晴らす。
自分がしたことを棚に上げ、身勝手な復讐をする。
モエは、この屋敷に来て初めて微笑んだ。
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