第2話サリヴァン・アスモデウス
大貴族の来客ということで、リューネとレイアは家に帰ろうとしたが、タイミングが悪かった。
屋敷の門が開き、貴族と思わしき男性が出てきたのだ。
そして、貴族の男性を送る父上の姿が、俺たちを捉えた。
「帰ったか、アロー」
「はい、父上」
俺は一礼し、リューネたちも続く。
すると貴族の男性は、俺を一瞥して父上を見た。
「ふむ、ハイロウ殿のご子息ですかな?」
「そうでございます、サリヴァン様」
貴族の男性は俺を見てる。
まずいな、服装はラフだし、川遊びの帰りだから汚れてる。
大貴族の心証が悪いと、父上に迷惑を掛けてしまうかも。
「………ほぅ、そちらのお嬢さんたちは?」
「え、あ、その……わ、私はリューネと申します。セーレ家次期当主アローの婚約者です」
「わ、私はその妹のレイアです」
モエはメイドなので挨拶はしない。
2人とも緊張してるけど、挨拶はキチンと……って、俺、挨拶してない。
「ふむ、次期当主殿の婚約者とその妹か……」
なんだろう、リューネたちを見る視線が値踏みするような感じだ。
モエのことも気にしてるような。
「おっと失礼。私は4大貴族の1つアスモデウス家の次期当主、サリヴァン・アスモデウスだ。よろしく頼むよ、アロー・セーレ殿」
「は、はい」
「ははは、緊張しなくていい。こんな美しい婚約者とメイドがいるなんて羨ましいね」
サリヴァン・アスモデウスと名乗った貴族。
身長は高く、顔もイケメンの20代前半程度の男性だ。
少し値踏みするような視線は感じたが、それ以外は普通の貴族にしか見えない。
「ハイロウ殿。予定通り参りましょうか」
「はい。ではアロー、留守は任せる」
「はい。お気を付けて」
どうやら町を案内するらしい。
2人が馬車に乗り込むと、ゆっくりと進み出す。
この狭い町なら、数時間もあれば回れるだろう。
「サリヴァン・アスモデウス……か」
「ねぇ、なんか格好良かったわね」
「そ、そうだね」
「ご主人様、まずはお着替えを」
「あ、ああ」
4大貴族の訪問に、俺は何故か不安を感じていた。
**********************
サリヴァン様はどうやら、視察の名目で各貴族が治める地域を回ってるらしい。
次期当主として、他の地域を治める領土を回って挨拶をするなんて、俺には思いつきもしなかった。
これが辺境貴族と4大貴族の違いだろうか。
父上に仕えてる執事が言うには、数日屋敷に滞在し、それからアスモデウス領へ帰還するようだ。
どうやらセーレ領が、72番目の地域みたいだ。
リューネたちは帰ろうとしたが、次期当主の婚約者ということで夕食に同席することになった。
ちなみに、レイアも同席させる。本人は乗り気じゃなかったが、リューネが頼み込んだ。
「一応、父上に確認してからな」
「お願いね。さすがに1人じゃ可哀想だし」
「わ、私はべつに」
俺の部屋に集まり、みんなでお喋りしてる。
モエは夕食の支度があるので居ない。
すると、父上とサリヴァン様が帰ってきた。
俺は迎えるために玄関へ。
リューネたちも着いてくる。
「父上、お帰りなさいませ」
「うむ。サリヴァン様、こちらへ」
「ああ、ありがとう」
するとサリヴァン様は、俺たちに微笑みかける。
「アロー、キミとはゆっくり話がしてみたいな」
「あ、はい……恐縮です」
「ははは、緊張しなくていい。年も近いし、気軽に接してくれ」
「は、はい……」
いや、ムリ。
だって4大貴族の1つ、アスモデウス家だぞ。
「それと、お嬢さんたちも」
「は、はい」
「はい……」
リューネもレイアも緊張してる。
仕方ないよね、うん。
「夕食まで時間がある。よかったらアロー、話でもしないか?」
「話、ですか」
「ああ。同じ次期当主として、いい機会だしね」
「で、でも」
「構いません。アロー、応接室を使いなさい」
「わ、わかりました」
「ああ、お嬢さん方も是非」
父上が言うなら仕方ない。
緊張する……でも、同じ次期当主として、恥ずかしいとこは見せられないな。
俺はサリヴァン様を連れ、応接間へ向かった。
**********************
応接室に座り、モエがお茶を運んできた。
お茶を1口啜ると、サリヴァン様がにっこりと微笑む。
「そう緊張しないでくれ、もっとリラックスしてくれよ」
「で、ですが……」
「話せば紛れるかな? じゃあ質問だ。キミは領主となってなにがしたい?」
「え……」
領主になってしたいこと。
そんなの考えてない。変わらなければそれでいい。
「変わらなければそれでいい………そんなところか」
「っ!?」
「私は72の貴族の次期当主と挨拶してきたが……皆、変わらないことを望んでる。与えられた領土を守ることを第1に、改革などは誰も望んでいない」
「……そ、それが普通なんじゃ……」
「確かにね。正直……失望したよ」
「………」
なんだ、コイツは。
思ったことが顔に出ないようにするのが難しい、どうやら気付かれたようだ。
「気に入らないようだね。まぁそれが普通だが……あからさまな表情を見せたのは、キミが初めてだよ」
「……申し訳ありません」
「いいさ。それより……キミ達に聞いてもいいかな?」
「え!? あ、はい!!」
サリヴァン様の視線はリューネとレイアに。
「キミ達は若く美しい、この領土を出ようと考えたことはないのかい?」
「……仰る意味が」
「いや何、辺境の町より、発展した王国へ興味は沸かないのかい? 例えば私の王国などは、最新のファッションやスイーツ、それに鉱石産業が盛んだから、美しい宝石やアクセサリーがたくさんある」
「……いえ、特に興味はありません。私はこの町を愛してますから」
「……私もです」
なんだコイツ、ケンカ売ってんのか?
そして、言ってはいけないことを言いやがった。
「よかったら私の領土へ来ないか? キミ達ほどの美しさなら、私の妃に……」
最後まで言わせなかった。
この野郎、ふざけやがって。
俺はサリヴァンの胸ぐらを掴み、本気で睨んだ。
**********************
「ははは、冗談に決まってるだろ? 離してくれよアロー」
「……申し訳ありません。つい感情的に」
「構わないよ。そもそも、自分の婚約者を奪われそうになって立ち上がらない方が異常だ。だが、72の貴族で、私に掴みかかったのはキミが初めてだがね」
「……申し訳ありません」
こいつ、まさか他の貴族にも同じことをしたのか。
こんな敵を作るようなマネをして、何の意味がある。
「アロー、忠告しよう。その短気はいけない。私が4大貴族の1つだということを忘れたのかい?」
「………」
「だが、その度胸は認めよう」
何様だコイツ。
はっきりと分かった。俺はコイツが嫌いだ。
「さて、冗談はここまでにして……キミに頼みがあるんだ」
「……頼み、ですか?」
「ああ。実は、いくつかの次期当主をアスモデウス領に招いて、親睦会を開こうと思ってね。そこでキミとキミの婚約者に出席して頂きたい」
「し、親睦会?」
「ああ。ちなみにハイロウ殿の了解は頂いてる。私の領土への帰還に合わせて出発したいが、いいかね?」
「それは、一緒に行く……ということですか?」
「不満かね? わざわざ別に行く理由もあるまい」
「……」
読めない。
この人、何が目的なんだ?
「お嬢さんたちも、それでいいかな? ああ、もちろんそこのキミも」
「わ、私もですか……?」
レイアは、かなり困惑してる。
そりゃそうだ、リューネは分かるけど、レイアは関係ない。
だけど、4大貴族の次期当主が言えば、問題ないんだろうな。
「……わかりました。では、出発はサリヴァン様に合わせます」
「そうか。では3日後に。この領土の空気は美味しいからね。たっぷり味わっておきたい」
こうして、俺とリューネ、レイアはアスモデウス領へ行くことになった。
この時、俺はまだ気付いていなかった。
このサリヴァン・アスモデウスの本性に。
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