超辺境の領主アローの生活~濡れ衣を着せられ追放されましたが、二人の女神と新生活を送ります~

さとう

第一章・【追放】

第1話辺境貴族の長男アロー


 この大地は、貴族によって管理されてる。

 中心王国バアルによって、大陸は72に分割され、72の貴族が管理してる。

 俺ことアローは、そんな72の貴族の1つである、セーレ家の長男坊だ。


 72の貴族なんて言ってもピンキリで、強い力を持つ貴族もあれば、俺んちみたいな弱小貴族もいる。

 現に、セーレ領なんて小さい。

 大きな町もないし、自慢できるのは雄大な自然くらい。

 

 だけど、俺は現状に満足してる。

 婚約者もいるし、可愛いメイドもいる。

 辺境とはいえ貴族だし、将来も安泰だ。


 楽しいこともいっぱいあるし、やりたいこともたくさんある。

 学ぶこともたくさんあるし、領主として期待もされている。


 だけど、あんなことになるなんて思わなかったんだ。

 全てを失い、1人路頭に迷うことになるなんて。



 俺の人生は、始まったばかりなのに。



 **********************



 「ほら、起きなさいアロー!! かわいい許嫁が起こしに来たわよ!!」

 「う、うぅ~……」


 寝てる俺を揺り起こし、楽しそうな声が聞こえる。

 俺は寝ぼけたまま目を擦ると、そこには見知った顔が。


 「……おはよ、リューネ」

 「おはよ、アロー」


 俺を起こしたのは、幼馴染みで許嫁のリューネ。

 長いブラウンの髪を括った、元気な少女だ。


 「今日は釣りに行くんでしょ。早く支度して行くわよ」

 「おい、起きたばっかだぞ……メシくらい食わせてくれよ」

 「ああ、モエがお弁当作ったから、みんなで食べましょ」

 「そっか……レイアは?」

 「だーかーらー、外で待ってるの、アンタ待ちなの!! ほら脱いで!! さっさと着替えて!!」

 「おい、ちょ、わかったわかったっての!?」


 リューネは俺の服に手を掛けようとする。

 ちょっと待て、そういうのは結婚してからっていっただろ。


 今日は勉強はお休み。

 なので、幼馴染みで許嫁のリューネとその妹レイア、そしてメイドのモエと一緒に近くの川で釣りをする約束をした。

 

 俺はリューネを追い出し、動きやすいラフな服に着替えて外へ出る。

 すると、3人の少女が俺を出迎えてくれた。


 「おはようございますご主人様。よく眠れましたか?」

 「ああ、やっぱお前かよ、リューネを部屋に送ったのは」

 「はい。私より許嫁のリューネ様が、ご主人様を起こすべきかと」

 「いやいや、普通はメイドのお前だろ? まだ嫁入り前の女が男の部屋に来るなんて」

 「それは私も同じですが」

 「あー、お前はメイドだし」

 「そうですか」


 メイドのモエはにっこりと……むくれた。

 長い付き合いだからわかる。コイツは怒ると笑うんだよな。

 モエは俺の家の専属庭師の娘だったが、庭師である父親が病死、母親はモエを産んですぐに亡くなったことから、俺の専属メイドとして父上が屋敷に住まわせてる。

 10歳のころから7年間一緒にいるから、メイドというよりは姉弟みたいな感じだ。


 「おはようお兄ちゃん、いっぱい釣れるといいね」

 「おはようレイア、そうだな、今日はいっぱい釣ろう!!」

 「うん!!」


 リューネの妹のレイア。

 1歳年下の16歳で、俺から見ても可愛い妹だ。

 リューネと同じブラウンの髪だが、レイアはセミロングの長さ。姉妹だから顔立ちはよく似てる。

 

 「さ、行くわよ」

 「ああ、メシは?」

 「川に着いたら食べましょ。ちなみにお昼は釣った魚だから」

 「マジで!?」


 俺の婚約者のリューネ。

 レイアの姉で、俺と同い年の幼馴染み。

 貴族は貴族同士で結婚するのが普通だけど、このセーレ領みたいな田舎貴族と結婚したがる貴族はいない。

 それに、なんだかんだで俺とリューネは愛し合ってる。

 夜の営みこそまだだが、町でデートしたり、お互いにプレゼントなんてのも送ってる。


 「よーし、じゃあ行くか。いっぱい釣ろうぜ」


 道具はモエが準備済み。

 あとは釣って釣って釣りまくればいいだけだ。



 俺たち4人は、近くの川に出発した。



 **********************

 


 セーレ領。ハオの町。

 そこが、このセーレ領の中心であり全てだ。

 

 人口は2000人ほどの小さな町であり、それ以外は小さな集落がいくつかあるだけの領土で、唯一自慢できるのは大自然くらいのものだ。

 セーレ領に限らず、発展のしていない領土はいくつかある。

 それでも、このセーレ領は、72の貴族の位でいえば、最下位に近い階級だ。

 

 だけど、そんなことどうでもいい。

 俺は幸せだし、現状に満足してる。

 だから、町を拡張したいなんて高望みはしないし、野望があるわけでもない。


 それよりも大事なのは、現在の状況だ。


 「来た来たっ!! モエ、手伝って!!」

 「はいリューネ様、今行きます」

 「お、お姉ちゃん、こっちも来た!!」

 「………」


 現在、俺の釣果はゼロ。

 リューネたちは釣りまくってる。なんで?

 

 「お兄ちゃんっ、助けて~~っ!!」

 「今行く、待ってろレイア」


 俺はアタリのない竿を置いて、レイアの背後へ。

 レイアを後ろから抱きしめるように、竿に手を添える。


 「お、お兄ちゃん……」

 「ほら、竿に集中」

 「う、うん……えへへ」


 レイアの頭が、俺のアゴに来る。

 フワリと甘いシャンプーの香り。レイアも女の子だな。


 「いくぞ、ちゃんと掴め」

 「う、うんっ……」


 暴れ回るウキを見ると、獲物は相当デカい。

 俺はレイアとタイミングを合わせ、一気に竿を引いた。


 「来いっ!!」

 「やぁぁっ!!」


 引いた糸の先には、巨大な魚が掛かってた。

 どうやら大物だ。食い応えがある。


 「やったなレイア!! さすがだ」

 「ううん、お兄ちゃんのおかげだよ!!」

 「いやいや、レイアが頑張ったからだって。偉いぞ」

 「あ……うん」


 俺はレイアの頭をポンポンとなでる。

 すると、レイアは顔を赤くして俯いてしまった。


 「ちょっとアロー!! レイアに何してんのよ!!」

 「リューネ様。ご主人様はレイア様を褒めてるだけですが……」

 

 どうやらあっちも釣れたようだ。

 それにしても、俺は釣果ゼロ、レイアは数は少ないけど大物ばかり、モエとリューネは小さいけど数が多い。

 なんか俺が1番情けなくね?


 「さ、そろそろお昼にしましょ。アロー、火を起こして」

 「はいよ」


 モエに魚を捌いてもらい、俺はかまどを作り火を起こす。

 何度もやってるので簡単だ。

 魚を網で焼き、シンプルに塩味で食べるのは絶品だ。


 

 こんな日常が、俺たちの青春だった。



 **********************

 


 食事が終わり、町へ帰る。

 今日はリューネたちを誘い、屋敷で食事する予定だ。

 

 リューネと俺は17歳。

 18歳になったら式を挙げ、晴れて夫婦として一緒に暮らす予定だ。

 そのため俺は、残り少ない独身の時間、自由に過ごすことを認められていた。

 もちろん、勉強はする。だけど、結婚すれば川で釣りしてその場で焼いて食べるなんて出来ないだろう。


 「なぁ、あと何ヶ月だ?」

 「あと9ヶ月です、ご主人様」


 モエにそう聞くのは、何度目だろうか。

 結婚式が楽しみでもあり、独身の終わりが淋しくもある。

 

 「あと9ヶ月かぁ……」

 「お兄ちゃんとお姉ちゃんの結婚式……いいなぁ」

 「ははは。何ならレイアも一緒に結婚するか? 俺は大歓迎だぜ?」

 「え……えぇぇぇっ!?」

 「ちょ、アロー!?」

 

 レイアは仰天し、リューネは憤慨する。

 

 「じょ、冗談だって、冗談」

 「あ、当たり前でしょ!! 全くもう……」

 「…………冗談、かぁ」

 

 4人で冗談を言いながら歩き、セーレ家の屋敷に到着した。

 

 「……ん? なんだアレ?」

 

 そこには、見たことのない豪華な馬車が停まっていた。

 見るからに貴族の物だとわかり、馬車には紋章が刻まれていた。


 「お客様ですね…………あの紋章、まさか」

 「モエ? 知ってんのか?」

 

 俺はモエに聞く。

 モエは俺より頭がいいし、いろいろなことに詳しい。



 「あれは4大貴族の1つ、アスモデウス家の紋章です」



 この時はまだ、わからなかった。

 このアスモデウス家の客が、俺の人生を狂わせるなんて。



 俺の物語は、静かに動き始めた。

 

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