解決?

 

 シディはカレンをなだめて寝かせた後、手紙をくすねてカーケル(持ち主の元に帰っていく)魔法をかけた。

 だが持ち主の元から離れて時間が経ち過ぎたのか動く気配はない。

 なら、ここからは自分の妄想で考えるしかない。そこだけでもスッキリはさせておきたい。

 まず事件を整理すると一月前にクリンが行方不明だったワルレスと何かしらの理由で見かけたとするその後に、カレンがクリンとカルトがワルレスを殺す事を企画する。そして次にスレイヤかマリネットの店に行く、順序は分からないがまあいい。そしてワルレスが死んだ後、カルトはまたマリネットの店に行きカンパネラを買う。

 その後、クリンはカルトにカンパネラをかける、そしてカルトは死ぬ。

 その後にクリンは家に大金を残して行く。


 まとめるとこんな感じだが明らかに矛盾点が多過ぎる。


 まずはクリンの殺害理由、ただカルトは復讐に否定的だったと聞くだから邪魔になって殺したと考えられるがわざわざカンパネラで殺す必要はない。

 地下水路に閉じ込めるなら撲殺や刺殺で済む、それにだ、一月前にワルレスは死んだというのに何故今から三週間前にまたカンパネラを買いに行った?


 そう考えるとそもそもあの死体は本当にカルトのものだったのか? 死体と決定付けてるのも手帳が落ちてたからだ。確実にカルトのものだと決めつけれる理由はない。

 まず、呪われたと考えてしまったのが間違いだった、あれはカンパネラにやられたからではなく、カンパネラを使ってしまったからああなったとも考えられる。

 ならあの死体は誰のものだ? もしカルトでなくクリンの死体だとしたらどうなる?

 

 最後に残したい手紙には黒い血とミミズのような字で書かれてあった。カレンに父親は右利きか、それと本当に父親の字か確認すると父親は右利きで恐らく父のものだと反応した。

 被害者は右腕が巨大化してとても書けるような手では無かった。なら左手で書いたと考えられないか。


 そしてワルレスが死んだ後にまたカルトがカンパネラを買った理由だ。

 まずワルレスを殺せたとしてもクリンが代償を負って苦しんだと思うとどうする。最初は殺したいと考えていたが不死の怪物として苦しませてやろうと考え直したか、そもそも最初からマリネットの売っていたカンパネラがデッドコピーで中途半端な怪物のまま死んでしまうことを知っていたか。

 もし知っていたとすれば、苦しむクリンを楽にさせるためにカンパネラを使ったとも考えられる。

 外傷はなかった、餓死ではなく呪われて死んだとも考えれる。


 ただその後の死体を入れ替えた理由が分からない、そこは解釈によるだろうがカルトとクリンを知らない俺からすれば何故そんな事を考えたのか理解できない。

 ただ、この推理も一種の想像の域を出ないものだ。なにが真実かはカルトが見つかるまでは分かるはずがない。



 一週間後、カルトと思わしき半魔獣化した謎の死体が見つかった。


ーーーーーー

ーーーー

ーー


「これで解決か」


 俺の奢りでヨダに酒場で酒を飲む。

 学生時代からの行きつけの店だが店主が変わってからは料理の腕は落ちた気がする、ウインナーを焼きから茹でに変わったからかもしれない。俺は焼く方が好きだ。


「第一発見者がお前の部下だったから表沙汰にならなくて良かったな」


「まあな」


 最初にカルトを発見したのはモルトだった。そこから俺が殺害理由を少しだけ変えてある意味隠蔽させた。


「俺も、人の事を言えないぐらいの悪人だな」


 これでは横領をしたクソ上司と同じである。ヨダはウインナーを齧りメガネを外してテーブルに置く。


「貴様の場合はまだマシだ」


 意外な事を言われ俺は目を丸くした。


「そうか?」


「貴様は自分の為ではなく他人の為にやったのだろう、同じ穴の狢でもマシな方だと俺は思うがな」


「そう言ってくれるだけ助かる」


「なら貴様は俺に奢れ、あとさっさと出世しろ」


 そこからいつものセリフが始まった。

 しつこい性格さえなければいい奴なんだが、本当にしつこくて困る。

 話を変える為に俺はある質問を出した。


「ヨダ、最近お前彼女できたらしいな」


「何ぃっ!? 何故貴様がそれを知っている!?」


「お前女の爪傷が多いんだよ、腕や背中にな、彼女に爪切れって言っとけ」


 そう指摘するとヨダは少し恥ずかしくなったのか黙って酒を飲んだ。


ーーーーーー

ーーーー

ーー


「少し飲み過ぎたか」


 酒に強いはずだが少しだけ酔った。だが意識はハッキリしてるし酔ったうちには入りないと俺は思っている。

 今日は酒を飲むだけ飲んであまり飯は食わなかったせいか小腹は空いている。

 ふと、カレンと食べに行ったポトフの美味い料理店が目に入る。あれからカレンとは一度も会ってない。彼女はどうしてるだろうか、事件の真相は知ってなければいいが。

 少し迷った挙句入る事にした。


「いらっしゃいませ」


 可愛い声で客を出迎えてくれたが女性の店員なんていただろうかこの店に。


「あっ」


 顔を見るとカレンだった。痩せ細った身体ではなくなり年相応の女性の体型に戻っている。


「あー……」


 俺は少し反応に困った。


「ポトフ一つ」


 取り敢えず注文してテーブル席に座る。

 するとカレンの方も席に座った。


「あの……」


 向こうも反応に困ってるそうだ。ならこちらから助け舟を出す事にしよう。


「ここで働いてるんだな」


「はい、あれから何かしないといけないと思って」


「だからってこの店か、店長鬼だぞ」


「知ってます」


 そう反応に俺は皮肉的に笑った。


「あの……ありがとうございます、お父さんの事や呪いの事を解決してくれて」


 解決した気持ちにはなってないが。


「ああ感謝しろ」


「そう言われると感謝の気持ち消えますよ」


「そうだな」


「事件の事で話しておきたかった事があるんですけど多分、父は私に生きてるって思って欲しかったんだと思います」


 やっぱり事件の真相は知ってしまったか。呪いの事だけでも隠せただけ上出来と思う事にしよう。


「つまり、自分の死体を誤魔化したのもそういう理由か?」


「私はそう思ってます、カルトおじさんと父ってそういう人達ですから」


「そういうものか」


 ポトフのスープをスプーンですくい飲む。


「はい」


 カレンは笑顔で答えてくれたがそれでも無理して笑ってる感じがあった。彼女の胸は空っぽになった状態なんだろう、そもそも胸はないが。

 胸を見ると睨まれた気がするので目をそらす。


「父親としては良いお父さんでした」


「羨ましいな」


 これは本心だった。いつからだったんだろう、両親に興味が消えていったのは。

 いつからだったんだろう、両親に評価されても息子として評価されてないんだと気づき始めたのは。

 とはいえ今更嘆くつもりはサラサラない、婆やさえ元気でいてくれたら俺は良い。


 ポトフを食べ終え、俺は代金を払う。

 今のうちに伝えておこうか、他人に取られるのは正直嫌だ。

 

「なあ」


 カレンは俺の掛け声に首を傾げた。


「どうかしましたか」


「断っていい、これは俺が恩人だからって無理に聞く必要のない話だが」


「…………?」


「もし良ければ付き合ってくれ」


 















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