「父親が好きなんだな」


「?」


 カレンは突拍子な質問を出されたせいか目を丸くしている。


「どうかしたんですか?」


「いや? 単にアンタが頭下げてまで止めたいのを見て思っただけだ」


 俺は淡々と言って見せたがカレンは首を傾げた。


「ただ一人の家族ですよ、そう感じるのは普通だと思いますけど、それに……カルトおじさんもまだ生きてるって信じてます」


 確かに死体の身元は不明だ、だがどっちにせよ加害者か被害者ではある。

 それを言うとカレンは泣き出しそうなので敢えて言うのをやめるが。


「俺の親父はクソ野郎だったからな、そう感じた事は一度もない」


「そうですか」


 マリネットの店前に着き、俺たちは足を止める。


「無駄話してる暇はないな」


「話しかけてきたのはそっちでは」


「うるさい、入るぞ」


 カレンに背中を叩かれながら店に入り、店内を確認する。

 マリネットと魔道書を揃えた棚がいくつか並び部屋の面積を締めくくる。

 

「いらっしゃい、何か用でも?」


 ここはどう言おうか、面倒なのでストレートに言うか。

 

「ここで禁術を売っていると知り合いに聞いた、俺も興味が出たから見せてもらってもいいか?」


 するとマリネットは知らないフリをしながらこう返す。


「さて……何の事か…………」


 その数秒の間に杖を取り出して魔法をマリネットにかける。


「カンターレ」


 カンターレ、魔法の効果は自白なのだが強力すぎる故に精神に支障をきたす可能性もある面倒な魔法である、恐らく自白剤の方が使われているだろう。誰だこんな魔法を作った奴は。

 ちなみに俺は当然自白剤など持ち合わせていない、寧ろ常備してる方が異質だ。


「何したんですか?」


「自白させる魔法をかけた」


「私の時、それ使いませんでしたね」


「寧ろ使わなかった事に感謝しろ、酔うより気分が悪くなるぞ」


 むっとした顔をするカレンを無視してマリネットに質問を繰り出す。


「この店でカンパネラのデッドコピーを売っていたな?」


 マリネットはボケーと寝ぼけた感じでうなづく。


「………………はい…………」


「ならクリンファンシーはここで買ったか?」


「………………はい…………」


「よし、その時の情報を教えろ」


「あれは………………」


 途切れ途切れな口調のマリネットはこう説明する。

 今から一ヶ月前、クリンファンシーと名乗る男が店の合言葉を知っていてそのままカンパネラの魔道書を買っていった。

 それからまた、一週間後に同じ奴を買いに来た。そいつはクリンファンシーと名乗っていたが別人だった。どんな男かと聞くと痩せた男だと言う。

 そいつがもしクリンではなく、共犯者のカルトだとすると死んだと推定させられる三週間前からか。

 それ以上、特に得られる情報は無かった。


「こういう時、パパッと居場所がわかる魔法とかありませんかね」


「無い」


 あるにはあるが、条件を揃える必要がある。説明するのが面倒なので省く。

 

「もういい寝てろ」


 魔法を解き、マリネットはがくりとその場に倒れた。


 店の中を探りクリンやカルトに繋がる証拠でもあるか探したが何も見つからない。個人で法を犯さずグレーのまま事件を解決に導こうとするには無茶がある、だがそうすればカレンの呪いが発覚するかもしれない、それは少々面倒だ。


 一旦店の外に出て息を吸う。

 裏町のせいか空気は不味く感じる。もう空は夜に変わり1日の終わりを告げかけている。


 今日はここまでか。

 だが最後に一つだけ確かめたい事がある。


「これからお前の家に行く」


 つまりはクリンファンシーの家だ。


「何か証拠が見つかるかも知れないからな、プライベートに触れるつもりはないから安心しろ」


「わかり……ました」


 ここは拒否するかと思ったがもうなりふり構ってられないだろう。全然進まない父の行方に彼女の顔も不安に変わっていく。


 







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