裏
ここは怪しく淀んだ雰囲気に塗れた裏町、狂人達の掃き溜めの街でもある。ここに来たからには自分の身は自分で守らなきゃならない。それくらいは危険な街だ。
そんな街に来た理由は、クリンの知り合いはこの近くにいるらしい。
カルトの手がかりが少なくてもクリンは違う、知り合いが多いのでそこから顔も知らないワルレスに繋がる道を探すしかない。
「見た目は気持ち悪いですけど美味しいですね」
そう言ってカレンは芋虫を串で刺して焼いた物を容赦なく貪っている。
幼くみえる女性が虫を食べるというのは割と珍しい光景だ。
ここ最近、飢えが酷かったらしく何でも食べれるようになったとか。
「イカベラは雌だけはやめとけよ。稀に孕んでる、クソ不味いから当たりってわけじゃない」
「食べれたら何でもいいです」
そう言って全部食べきった。
「この街に来たことはあるのか?」
「はい、何度か。何度か殺されかけましたけど意外と親切な人多いですよ」
「イメージとは逆だな」
「私もそう思いました、ただ失敗や人生につまづいた人が多いから他人に優しくなれるんじゃないんですかね」
「そうか」
そう言い小さな店に辿り着く。
店の看板を見ると洋服店、だがオシャレというよりは怪物の仮装パーティにでも着ていきそうな物ばかりだ。
「ここですか?」
「まあな、調べるのは得意なんだよ」
最近、クリンの友人の一人がここの店主。
「邪魔するぞ」
ドアを開け、何もなくただ部屋の真ん中辺りの端に机と黒いゴシックチックな服を着た女性がいるだけだった。
「いらっしゃい」
その女性は一言で表すなら魔女、少しでも隙を見せれば魔女の魅了でやられそうな危なさを感じる。
「ここは服屋か? 驚くほど何もないな」
カレンに「失礼ですよ」と言われ黙ってろと返した。
「私は注文されてから作るのよ」
「それで生計立つか?」
「趣味でできるくらいには余裕があるの」
趣味、金には困ってないという事か。
「なら何故この街に住むんだ?」
魔女は口元を歪ませクスクス笑った。
「だって、誰もがこの街を嫌ってるわけじゃないのよ? 案外住みやすいのよ私にとってはね」
事情アリってわけか、まあいい。これ以上話を脱線させる気はない。
「俺は機関の人間だ。アンタはスレイヤだな?」
魔女は頷く。
「ならクリンファンシーについて教えてくれ」
「ええ知ってるわ」
「じゃあ教えぐぬっ」
カレンが話に入って来そうだったので口に手を当てた。
「こいつの事は気にするな、男について教えてくれ」
「嫌よ、友達を売りたくないわ」
言いたくないと言われるのは想定内だったがストレートに嫌と言われるのは想定外だった。
「そいつが人を殺そうとしててもか?」
殺す、そんな物騒な言葉に対しても顔色一つ変えなかった。
「ええ、だって嫌だもの」
強情な女だ。ため息をついて頭を掻こうとしたらカレンを抑えてたのを忘れた。
「お願いします、父さんを止めたいんです」
カレンはスレイヤの前で頭を下げる。
「うーん、彼はあなたの為にやってるのよ? ある意味あなたのせい、でも幸せを願ってるの、それを止めたらもっと不幸な事が押し寄せて来るかもしれないわ」
「父さんに……これ以上人を殺して欲しくないだけです……」
スレイヤは笑みを崩しやれやれといった顔をした。
「わかったわ、彼の事を教えてあげる。彼を最後に見たのは1ヶ月前よ、そのままマリネットの店に行ったの。ちなみにマリネットは危ない魔道書を売ってるわ」
危ない魔道書、その言葉が表す意味は。
「禁術か」
「ええそうよ、彼は禁術をコピーして売ってるの。ただ紛い物の禁術だからオススメしないわ」
紛い物、カルトが中途半端なまま死んだのはそれが原因か。
だが、呪われて死んだか、禁術を使ったせいでああなったかはまた不明だ。
「クリンの事は庇うがマリネットには容赦ないな」
スレイヤは口を尖らせた。
「ええ、彼のせいでこの街の治安が余計悪くなってるわ。もし良ければついでに裁いてほしいわ、頼めるかしら」
「わかった」
そう言って俺は去ろうとする。
「ありがとうございます」
カレンは頭を下げてお礼を言う。
「彼が言ってた通りいい娘ね、頑張りなさい」
次に行く先はマリネットの店。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます