誤解

 カレンは呪い持ちながらも愛ある父母により幸せに暮らしていた。腹と胸という基本はバレない位置に呪いの証が刻まれていたのもあるだろう。

 両親の人柄の良さもあって近所付き合いも良好、カルトおじさんは呪いを知ってても優しくて、カレンは友人も出来ていつ判明するかわからない恐怖を抱きながらも上手く過ごしてきた。

 ただワルレスという男が現れるまでは。


 ワルレスは父さんの店を開く前の商売人時代の旧友だそうだ。

 だが彼は傲慢や嫌味な性格ゆえか、父さんは敬遠してきた。そんな彼は突然家にやってきた。


『久しぶりだなクリー、結婚して子供ももうけたと聞いたぞ?』


『久しぶりだな。お前は最近どうだ?』


 父さんは内心嫌いながらも温厚に酒でも飲もうかと彼に勧めた。

 だがワルレスの風貌はみすぼらしく薄汚かった。


『この姿まんまだよ、俺の人生は』


 ワルレスはグラスに注がれた酒を口につけ乾燥させた豆を口に入れる。


『何かやらかしたのか?』


 ワルレスは何も答えなかった。でも笑っていたのを私は見た。

 何か企んでいる怪しげな笑み、ドス黒いモヤをデカイ腹に隠したようで彼は毒を吐き散らかす。


『なぁ、カレンっているよな』


『いるも何も私の娘だが』


『俺、娘のことで分かっちまったんだよ。危ない仕事し過ぎたせいか探る事が得意になっちまったんだよ」


 父の顔が一瞬ヒクつく。


『馬鹿げた話をしにきただけなら帰ってもらおうか?』


『ああそうだな、俺を帰らせるともっと嫌なことが起こっちまうぞ?』


『だからなにがだ!』


『前に、カレンが高熱を出しただろ』


 確かに一週間ほど前私が突如熱を出し倒れた。原因不明の高熱で本当に死ぬかと思ったけど三日ほど寝て薬を飲めば元気に走り回れるくらいには治った。

 それが何だって言うんだ。ただの風邪なはず。


『…………』


『けどお前は医者を呼ばなかった。可哀想に、可愛い一人娘が死にかけてるのになんて白状な親なんだろうなぁ?』


 あれは父さんが呪いが発覚するのを恐れ、私の為を思ってしてくれた事だ。


『私は軽い医療の知識なら齧っている。だから問題はなかっただけだ。もういいだろう? 帰ってくれ』


『違うんだよ。お前は医者を呼んだ、闇医者をな』


『……』


 私は目を丸くした。父さんはいつ医者を呼んできたのか、もしかして高熱で記憶が曖昧になっていたのかもしれない。


『お前は口封じに金を渡したらしいな』


『なんの話だ! 私には関係ない!』


 父さんは今にも首を掴みそうに勢いでそんな怒りにまみれた顔を見たことなかった私は怖かった。


『白けるなよ? 単に俺がお前より闇医者に金を払っただけだ。それで聞いただけのことだよ。例えるなら、お前の娘のこととか』


 父さんの額に汗が流れる。


『何か目的だ』


 ワルレスは笑みを浮かべて大笑いした。


『金だよ、わかるだろ?』




 そこから彼の摂取は始まった。父もバレれば私の人生は崩れると思ったんだろう。彼の言いなりになってしまった。

 何度も、ある時はカルトおじさんにお金を借りてでも、店を捨ててでも私を守ろうとした。

 だけどある日、母さんが過労で死んだ。

 それが16歳の頃だ。私がシディと出会ったのもその頃だった。それ以降、ワルレスは金をせびる事はなくなった。

 というより消息が途絶えたのだ。


 それから数年後、私は呪いを隠しながらも仕事が出来て少なくとも前のように幸せには暮らしていた。でもそれも長くは続かなかった。

 夜、喉が渇き私は水を飲みに部屋から出ると、父さんの部屋から声が聞こえた。


『本当にやるのか? まだ今なら引き返せる……』


 カルトおじさんの声だ。

 私は息を飲んだ。


『ああ、殺さなきゃ……気が済まない』


 朝になると父さんは消えていた。

 昨日の声は夢だと、幻覚なんだと信じて父さんを待ち続けた。

 次の日も、次の日も、次の日も待ち続けても父さんは帰ってこなかった。

 私はあの夜の会話が真実なんだと気づいた。

 殺すと聞いても誰を? 父さんが恨む相手と聞いて思い当たったのがワルレスだった。

 でもワルレスは行方不明、まさか生きてたの?

 私は居ても立っても居られなくて父さんを探す事を始めた。それが一月前だった。

 でもこんな自分じゃ得られる情報も少なくてただ彷徨うように歩き回ってた頃。


「貴方と出会ったんです」


 カレンの話を聞きながら背中に隠した手と偽りの宝玉を見つめた。

 宝玉の色は青い、嘘はついてない。

 家から家宝の一つとされている宝玉だがシディは隠れてくすねてきた。まあバレても適当に誤魔化せばいい。

 カレンは父が人を殺す前に止めようとしたから他に相談せず単独で行動したから事件がある意味遅れたとも言える。

 

「話はわかった。ならカルトが死んだ事は知っているか?」


「………………死んだんですか……?」


 カレンは驚きを隠せず胸に手を当てた。この反応を見る限りは知らないか。


「まだ確定したわけじゃない」


「ならどうしてカルトおじさんだって?」


「持ち物だ、第一発見者の子供がカルトの手帳を拾った。こっちは死体と違って腐らないからすぐ判明した」


「そうですか……」


「なあ」


 彼女は首を傾ける。


「俺が酒を勧めた後はアンタは寝たよな、その後どうなったんだ?」


 事件とは関係ない、数年前に酔っ払ったカレンを背負って家に隠し連れて行く事を実は気になっていた。

 あの後、どうなったのか。


「……あんまり覚えてませんけど家政婦さんに軽い朝食を頂いて帰りました」


「それだけか?」


「はい」


 婆やに聞いた話と殆ど同じだな。


「どうでもいい質問だったな、忘れろ」


 シディは次にすべき事を引き当てた。

 

「俺は今からワルレスとクリンを探す。アンタはどうする?」


 俺は彼女に手を伸ばす。


「探すに決まってます」


 カレンは俺の手を握り立ち上がった。








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