手がかり


「あ、シディさんどこいってたんす……誰っすか? その娘」


 モルトが反応しているのは今おぶっているカレンの事だ。


「事件の関係者、かもな」


「そう言っときながらお持ち帰りしたいだけじゃないんすか」


「事件が無ければな」


 不純な理由で近づいたことは否定しない。


「なあ、クリンファンシーに娘はいたか?」


 モルトは手帳を取り出して。


「確かにいますね、ただ彼女も数週間前に家を出たきり行方不明らしいとか」


「クリンファンシーについて聞かせろ」


「えーと、彼は雑貨店の仕事をやってたらしいですけど数年前のある日を境に突然破産したらしいですよ、理由はわかりませんが本当に突然だったそうで」


「で、突然いなくなったか」


「はい」


「カルトの他に親しい友人はいたか?」


「いや……目撃されたのがある痩せた髪の長い男と酒場で飲んでたのが最後らしいんですけどその人がわからないんすよ、なんか喧嘩してたらしいですけど」


「魔法使ってもか?」


「いや、その店の店長が酷く機関が嫌いらしくてそんな暇もなく追い出されたんすよ。でも、そんな俺を見て常連客の人がコッソリ教えてくれました」


「馬鹿野郎、無理矢理でも調べろよ」


「いやーでも調べても多分意味ないと思いますよ。その前にヨダさんが調べてくれたらしいすけど何一つ出なかったとか」


「アイツがか」


「シディさんにアシストしたいんですよあの人は」


「そうか」


 話を戻してもう一度考えてみる、証拠を残さなかったのは前もって殺す予定だった魔法使いか、ただの人間なら道具を使ったと考えるべきだな。

 もし呪い殺されたと考えるとカルトの姿が中途半端だったのを見て、ただの人間、足跡が消える薬を飲んだと考えるべきか。


「最後に一つ、クリンファンシーに娘はいたか?」


「えっ、いますけど」


「そいつはカレンって名前か?」


「はい」


「そうか、ならいい」


 俺はあえて背負っている女性がカレンと言おうとはしなかった。


ーーーーーー

ーーーー

ーー


 ただ机と四方の壁に囲まれた機関の取り締まり室。

 そこにカレンとシディはいる。

 俺は一度事情聴取を始める事にした。

 だがカレンは一向に目覚めることがない眠り姫で本当に疲れていたんだと実感する。ただそれとこれとは話は別だ。


「ワールン(目覚めろ)」


 杖を奮い詠唱を始めると彼女はパチリと目を開けた。


「う、う……」


 まだ眠たそうにしているが拘束された今の状況に気がつくと慌て始めて外套を被り始めた。


「さ、さっきの……! ここはどこですか? 私を……早く私を返してください! そうじゃないと……」


 そうじゃないと? そうじゃないと何があると言う。だがまあいい、それは後で聴くことにしよう。


「落ち着け、俺は機関に所属するシディ・ティーンだ。気分はどうだカレン・ファンシー」


「最悪です……」


 そう怯えながらも自分に向ける敵意の視線がゾクゾクした。

 俺は思ったより変態かもしれない。軽い嗜虐趣向があるのは薄々感づいていたが、その顔はマズイ。

 だが今はそれどころじゃないと頭の中の邪念を打ち消す。


「俺は別にお前に何かをする気はない」


「もうしてるじゃないですか、こんな所に閉じ込めて」


「参考人だからな、話せば帰してやる」


 カレンの顔に汗が流れる。

 彼女の顔は焦り、怯え、恐怖のどれかに妥当するだろう。


「クリンファンシーを知っているか?」


「知りませんよ、ただ名前が私と似てただけじゃないですか」


 もう調べはついているのでこれが嘘だって事はわかる。

 敢えて泳がよう。


「そうか、なら何故クリンファンシーの名前を聞いて逃げたんだ?」


「貴方、女を食い物にしてそうな顔してますから」


「間違ってない、素晴らしい洞察力だ。じゃあ質問変えてお前は何をしていた?」


 彼女の目が細くなり俺を睨む。


「何って……ゴミ箱を漁ってただけですよ」


「何故だ? それと何処でだ?」


「私の体見たらわかりますよね? 色々苦労してるんですよ」


 つまり物漁りという事か、カレンは何も食べる物がないから薄汚い服ややせ細った体の事を言ってるが敢えて弄ってみる。


「そんな貧相な体じゃ、売れないと思うがな」


 頭に火花が散った。

 最低と言われ顔を殴られたらしい、地雷を踏んだそうだ。

 カレンは立ち上がって鍵の閉まったドアを叩く。


「尋問する人を替えてくれませんか? 後ここから出してください」


 その先には誰もいない、


「悪い、今のは無しだ。次デリカシーない事言ったら本当に帰してやる。だからもう少し話に付き合え」


「こんなダラダラした会話を?」


「これで最後だ、だから耳を貸せ」


「嫌ですよ」


「良いから貸せ」


 彼女の小さい頭を掴み俺は耳打ちを始める。

 そして誰にも聞かれないように小声で言う。


「お前がクリンファンシーの娘だって調べはもうついてある」


 それを聞いた彼女の顔は苦い物に変わる。

 

「それと、体を調べさせてもらった」


「えっ」


 カレンの頬が赤く染まるよりも逆に青白くなっていく。嫌悪よりも何かを怖がる涙目。


「別に調べたのは俺だけだ、裸を見たわけじゃない」


 それでもカレンは小刻みに震えていくのがわかる。

 何故かって俺は理解できた。


「お前は【呪い持ち】だな?」


 呪い持ち、それは呪われて生まれた人間をしめす言葉である。何故呪い持ちが誕生するかはお互いの噛み合わない魔力によるバランスの欠如が大体だ。

 カレンの腹と胸に、その呪われた証である火傷に似た痣があった。

 呪い持ちは基本、悪魔の手先と言われ迫害、ある時は悪魔を恨む者から殺害されるまでに至る。

 だから彼女のように隠すか、生まれた時点で親が殺す事が大半だ。


 カレンは震えながらも下唇を噛み締め俺に向かって言う。


「言いたければ言いふらせば良いですよ、そんな事よりも、父を……父を止めないとダメなんです……」


「別に言う気はない」


 俺は杖を振るった。白い炎が出て壁を溶かしていく。

 そして取り締まり室の部屋ではなく、安い宿の部屋に変わっていった。


「…………」


 カレンはポカーンと口を開いたまま騙したのかと聞いてくる。


「悪いな、そっちの方が話してくれると思ったが」


「逆効果ですよ……酷い」


 流石に少しやり過ぎたかと頭を掻いた。


「ならこれだけは言っておく、俺はアンタが父親を庇わない限りは味方だ。だから詳しく説明してくれ」


「私は、ただ……父さんを止めたいだけです……」


 カレンはボロボロと涙を流し始める。


「なら考えは同じだ」


 

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