カレン・ファンシー
高い店と言った物の彼女が選んだ所は俺もよく行く安い飲食店だった。
肉料理店の癖に肉はゴムのように硬く、肉の少ないボルシチの方が肉がよくワインと染み込んで柔らかく美味いとされるそんな変哲もない店。
「ここでいいのか?」
彼女はコクリとうなづいた。そしてフラフラとした足取りで席に座った。
そして沢山料理を頼むのかと思いきやボルシチ一つで終わった。
「遠慮しなくてもいい」
「食が細いんです。多分今沢山食べたら胃が破裂します」
「そうか、だがまあボルシチを頼んだのは英断だな。それ以外はそこまでってとこだ」
すると頭を店主に叩かれた。
「悪かったな、肉が硬くて」
「肉が硬い自覚あるじゃねぇか」
「だがなんだ? お前今勤務中じゃないのか? 店でデートなんかして首がとんでも知らないぞ?」
「彼女じゃありませんよ」と彼女が答える。
「首ならもう飛んだよ」
俺はそのまま席に座りコーヒーを一杯だけ頼んだ。
店主が煮込んだボルシチをあっために行った後、彼女は俺の目を見る。
「どうかしたか?」
「いや、仕事中なんですね」
「気にするな、今にも倒れそうな人間を放って置けないタチなんだ」
と適当に嘘を吐いた。
「そうは見えません」
ああバレたか、まあいい。これから話を繋げていこう。
だが彼女は小汚い外套に痩せた肉体。元から体が悪そうに見えるのに更に悪化してる状態だ。
口説くよりも他に聞いておいた方が良い気がするが他人のプライバシーに踏み込む気はない。
「過去に一度会った事があるのを覚えてるか?」
彼女は首を横に振った。
「なら酒を始めて飲ませた相手って言えばわかるか?」
彼女は首を横に振ったが、ふと首をかしげる。
「…………あの時の人ですか?」
「ああそうだ、思い出したか?」
「少しだけ……でもなんでまた声をかけたんですか?」
「特に理由はない、ただ声をかけただけだ」
「そうですか」
そう言って彼女は来たボルシチを食べ始めた。
俺は食べてる時に彼女に声をかけるのはやめた。本当にお腹が空いていたんだろう。
そんな中、俺は少し頭を働かせる。
あの死体は本当にカルトのものだったか、カルトは商業人で行方不明になる前は酒場に現れたのが最後の目撃だそうだ。
これ以上に詳しい事はモルトが調べてくれるのを信じるが……無理だな。
彼女の食べる皿が空になる寸前だったので俺は考えるのをやめる。
「もう食べたか、早いな」
「いいじゃないですか、ご馳走です」
食べ終わったので少し談話でもしようかとしたが彼女は席を立って去ろうとした。
「ちょっと待て、去るのは勝手だが名前くらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」
彼女は今にも倒れそうなほど顔に疲れが見えている。
苦しそうに俺を見ながらこう言った。
「カレン、カレン・ファンシー」
「そうかカレンか、カレンファン……」
カルトの親しい知り合いにクリンファンシーという人間がいた。
これは偶然か? それか必然か?
カレンのプライベートに踏み込む事にしよう。
「悪いがもう少し話を聞かせてもらう」
「もう……いいでしょう」
「お前がそいつと関係なければ帰っても構わない」
俺はコーヒーを飲み干して口を潤す。
「クリン・ファンシーを知っているか?」
カレンの顔が一瞬で焦りに変わった。今そこから逃げ出そうと足を走らせる。
だがカレンは糸の切れた人形のように倒れてしまった。
俺は何もしてない、何があったか近づいて確認すると気絶したようだ。これまでの負担が限界を超えたか。
「おい、何があったんだ? 騒ぎなら外でやってくれよ」
「悪い、うるさかったな」
カレンの体を両手で持ちあげた。
「どうしたんだその子は?」
「疲れてるだけだ、会計を頼む」
思いがけない収穫を得られた、俺はそう感じた。
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