第9話
私は本音を言うと血は好きな方じゃない、いや好きな人間の方が珍しいんだろう。凄惨な地となった現場の血の跡など全て綺麗さっぱり消え去っていた。
血から花束へと、せめてもの償いとして私は花を供えた。
あれから事件の事は明らかになったと思えばより謎が深まるだけだった。杖を持たず魔法を使えないマユルドが悪魔を捉えれる方法等無いに等しい。
つまりは誰かが彼に入れ知恵か、手を貸したと考えるべきだろう。
「ダメダメ、ここはまだ入っちゃダメだってアレ?」
カナンは前にも聞いた声に振り向いた。
前に出会った機関の青年だった。
「貴方は前の……」
「あー久しぶり! まっ君だからまあいいか、それに隣の君は本当にデカイねーー噛みつかない?」
ピューイは口を大きく開いて威嚇した、彼はおおっと驚いた。
こんな時にも呑気な彼に少し呆れてしまった。
「よく笑えますね」と皮肉交じりに言ってやった。
「これでも結構気にしてる方なんだよ? 僕って笑顔とコネくらいしか取り柄ないし暗くなるよりは笑う方がね、まあ周りからは不謹慎だって思われてるんだろうけど」
「そうですか」
彼の元気を分けて貰いたいと思った。
ただ彼は一瞬溜息を吐いて口を開く。
「クルトって奴は僕の上司でさ、はっきり言ってクソだったんだよ。暴力も酷いし裏で結構犯罪やってそうだったよ。それでもう一人の上司のカールさんはまあ、特に印象にも残らない薄い人だったよ、薄くなる魔法でも使ってんじゃないかって思うぐらいに無色なんだ」
一瞬暗い顔から一点、笑いながら枯葉愚痴り出したが最後にまた暗い顔に戻って。
「ただ、僕が付いて行ったら彼らは死なずに済んだかなーーそうだと良いんだけど僕も犠牲になるのは嫌だしなぁ……」
多分、私のせいだろう。もう少し早く行動出来れば良かった話で済む。
「まあ時間巻き戻せるのならその二人に遺書でも書いとけって言いたいよ、そんな魔法無いかな」
時間を巻き戻す魔法、噂には聞くがそんな物があったら私が使っている。
「アレンさん? こんな所で何してるんですか?」
呆れる青年の後ろから先輩と呼んだスーツを着た女性が歩いてくる。そしてアレンをキツく睨んだ。
「一般人を入れちゃダメだって上から言われてませんでしたか? 貴方も入っちゃダメな事ぐらい分かりますよね?」
「はいはい、でも君は頭を柔らかくした方がいいと思うけどなぁ、彼女も一応事件の関係者なんだし」
アレンがそう言うと女性は目の色が変わった。
「そうなんですか? もしかして貴方がカナンさん? 一昨日の悪魔の被害を抑えてくれたのは感謝しますが、機関の人達が追った事件に横槍を入れるのは条約に反するんですよ。魔獣狩りでなければ捕まる所でしたよ本当に」
「まあデカイ相方君が事情聴取に応じてくれたからねーー」
「そうなのか?」
「ンガ」
「ありがとう」
「さあさあ、もう貴方達は関係ないんですから出てってください」
女性は文句を愚痴愚痴言いながら私たちの背中を押す、ただピューイは重くてビクとともしなかった。
「くっ……ぐうっ……デカイ……」
「そう言えばアニーちゃん残った仕事手伝ってくれない?」
「アニーちゃんはやめて下さい。ふぅ……それで仕事はなんなんですか?」
「いやあ実はね……」
ボソボソとアレンが彼女に呟いたが、それを聞くと彼女の顔は気難しいものに変わっていく。
「わかりました……カナンさん、貴方は早く立ち去って下さいよ。さぁアレンさん行きますよ!」
「えっ僕も? わかったわかった、杖向けないで、うん」
脅されるようにアレンはアニーに引きずられて行った。
「私達もここから去ろう」
この場から立ち去ろうとすると何かにぶつかった。
「ピュー? 何やってるん……」
ピューとは違う高身長な人間だった。
彼は裏町で私に親切にしてくれた大男だった。
「アイツらは行ったか」
酒瓶二つ両手に持った大男はフラついた足取りで酒を一つ供えた。
「あんにゃろう……バカな事しやがって……」
「仲、良かったんですか」
「ん、ああ飲み友達ってとこだ」
私は頭を下げた。
「私のせいです、もっと早く気づけば助けられまし痛ぁ!」
頭を叩かれた。
「何言ってんだ、あいつの自業自得に決まってる。あいつは親に責任取ってもらうガキじゃねぇんだ。悪魔なんか手に入れたあいつが悪い。なんだ、姉ちゃん一人が世界の中心になったつもりか」
大男は酒を一口飲んだ。
「人間一人の力なんてたかが知れてる、俺なんか酒買う金を稼ぐだけで精一杯なんだよ」
「……でも……」
「でもじゃねぇ」
また頭を叩かれた。
「………………く、首痛めてるんですから頭は……頭だけは……」
「先に言え」
「ンガンガ」
暴力はダメだ。
「何言ってやがんだ?」
「暴力反対って……」
「軽いスキンシップだ、暴力じゃねえよ」
そう言って大男は無精髭をポリポリと掻いた。確かに熊のように大きい腕で殴られると脆い私はは簡単に頭蓋骨を砕かれそうだ。
「そろそろ行かねえと奴ら帰ってくるな、アンタは俺たちと違って魔法が使えるだけで才能があるんだ、そんな気難しく生きるんじゃねえ、悩んだら酒って薬でも飲んで直せばいい」
「私はまだ未成年ですよ」
「そうか、なら嬢ちゃんだな。じゃあな嬢ちゃん、あの街に堕ちる事だけは無いことを祈る」
なんか余計バカにされた気がするがお礼の言葉だけは伝えた。
ただ、本当に私一人の力じゃこんなモノなんだろうか。去っていく大男を見て思った。
違う、私はやるんだ。やれるはずなんだ、喪った人たちのような理不尽を味わう事が無い世界に変えるんだ。悪人がのうのうと生きてる世界を壊してやるんだろ? だったらこんな小さい事で悩んでる暇はあるのか?
師匠の残した想いや憧れが呪いに変わって行くのを私は感じた。
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