第8話
「………………」
声に出さず呪文を呟き、黒い杖を振る舞った途端黒い炎が舞い、すべてが止まった。宙に飛びついたまま止まる悪魔、走り出すピューイ、後ろを振り向こうとするワンさん。全部静止している。
私はその一瞬のうちに、銀の杖に変え悪魔に炎を放った。悪魔の全身が炎で燃えていく。ただし私が放った炎が止まる事はない、悪魔憑きは自分が燃えてる事に気付かないまま焦げている。
燃え移らないようにワンさんを退かせようとしたが意識が朦朧とする。
長い時間止め過ぎた副作用だ。まだ自分が黒い杖を使いこなしてない証明でもある、後はピューイが何とかしてくれるだろう。
ただ自分はもう少し意識を保とうと思えば保てるはずなのだ、魔法を解除すれば気絶寸前になるだけだ。だがワンさんの悲しむ顔が見たくないから一瞬迷ってしまった。
その迷いが意識を遠のかせる事の後押しとなってしまった。
私は卑怯だ。
カナンの意識は闇の底に沈んでいった。
ーーーーーー
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ーー
ンガンガンガンガンガンガンガ~♪
なんだ、これな悪夢なのか。ピューイもとい彼の種族のガドルが何十体も並んで天使の絵が描かれたステンドグラスの下で合唱を始めている。
そして私は教会の椅子に座り、その様子を眺めている。
しかもうるさくて耳鳴りがする歌だ。
「やめろ下手クソ!」
ある男性が席を立ちガドル達に指を指す。
すると黒い影が男性を襲った。
何という事でしょう、彼はガドルに頭から食べられたではありませんか。
ガドルは元から凶暴と呼ばれる魔獣である、ピューイが例外中の例外過ぎるのだ。とはいえ人を無差別に食う輩だったか?
頭から生暖かい液体。
触るとべっとりして気持ち悪い、天井の水漏れかと上を見上げると。
「ンガンガ」
これ食べてもいいか?
ヨダレを垂らしたガドルの一匹が私の上で笑っていた。
「いや……あの……ダメです」
私は杖を取ろうと服に手を入れるが、無い、無い、どこにも無い。
隣の人に助けてもらおうと涙目で視線を向けると。
「ンガンガ」
良いんじゃない?
ガドルだった。
人間の客などとうに消えていた。全員がガドルになっていた。
仕方ない、こういう時はピューイを呼ぶか。
「ピュー! 助けてくれ! ピュー!」
何も返事はない。
「ピュー! ピュー! ピュー! ちょ、ちょっと待ってくれ! 後30秒! ピュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ンガンガ、ンガガッガァア!」
もう待てない、いっただきまーす!
ーーーーーー
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ーー
「ハァハァハァ……」
目覚めた先は胃の中じゃない、自分の家の天井と黒いもじゃもじゃと大量のリンゴが目に入った。
「ンガァァァァ!」
ピューイが抱きついてきてベッドの上のリンゴが衝撃で飛んだ。
というかベッドの上に布団代わりで大量のリンゴが私を埋め尽くしたのは頭沸いているのか。
「首が痛いから……やめてくれ……っ」
泣きながら抱きつくピューイを退かして私はリンゴの一つを手に取った。
「なんだこれは?」
「ンガンガ」
早く治るように買った。
少し頭が痛くなった、ピューイはいくつリンゴを買った? ベッドから溢れて床一面に赤色で染まるくらいにはリンゴがある。
ピューイの小遣いじゃ買えないレベルだ。多分私の財布を使ったんだろう。
それに彼がリンゴを大量に買ってつまみ食いしない理由はない、私の顔も汁でベタベタするのもリンゴ食べながら看病したからか。
「ああ……ありがとう、だが次からはやめてくれ」
カナンは手に取ったリンゴを齧った。酸っぱい、安く大量に買ったからか味はそれ相応のものだった。
このまま二度寝したいのだが、ちゃんと私が気絶してからの話を書く必要がある。
「あの後、私が倒れた後どうなった?」
「ンガンガ」
機関が全部片付けて行った。
ここまでは想定の範囲内だ、ただその後が知りたくないが聞かなければならない。
「ワンさんは? 私を恨んでたか?」
「ンガンガ」
わからない。ずっと泣いてた。
一番最悪なパターンだ、いっそ私を恨んでくれればいいのに。
フェアリーの売買の手かがりになりそうな機関の杖も彼女に調べてもらってるのが通らねばならない道のりになってしまった。
「少し出かける、ついてくるか?」
「ンガンガンガ」
ダメだ、安静にした方がいい。
「大丈夫だよ、だったらピューが私を守ってくれ」
ピューイは悩んだ素振りを見せたが軽くうなづいて私と一緒に行くと言ってくれた。
「後は……これをどうするか」
辺り一面のリンゴを謝辞としてワンさんに渡しに行こうか……逆撫でしなければいいんだが。
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