第6話

 ゲートから繋がった先はゴミ箱の中、最悪すぎる。

 確かにこの場所ならゲートはあると外からは気づかれないと感心してる場合じゃない、コートにつくゴミを払いカナンは杖を取り出した。


「シーニ」


 カナンの視界は赤く染まった、それに熱いからあまり好きではないけど選り好みできる状況ではない。

 この魔法は視覚強化、目には見えない物も見え、影に隠れようがこの目から逃れる事はできない。便利な魔法、ただ死ぬほど目が疲れるのが難点。

 例えるならずっと充血した状態に近い。


 それともう一つ。


「カーケル」


 ペンにそう唱えるとペンは空を飛んでいく、その魔法をかけると持ち主の元へ戻っていく魔法だ。


 カナンはその状態のまま走り出すと足がほつれてこけた。


「痛い…………涙が出そうだ……」


 なんでこんな時にピューイはいないのか、もうアイツには頼らないと誓いと決心を建てながら、顔を強打、首を痛めたボロボロの状態のまま走った。


 

ーーーーーー

ーーーー

ーー


「ンガンガ」


 ピューイはリンゴを大きな口で齧り味を楽しんだ。

 カナンはどこに行ったんだろう、何もない事を祈ろう。

 それはそうと、カナンに貰ったお小遣いを貯めといてよかった。いつもなら二つ三つで怒られるのに十個のリンゴを買っても怒られない。

 でもこれが最後の一つ、ピューイは味わって食べようとしたけど……何か、人にぶつかってリンゴを落としてしまった。


「ンガンガ!!!」


 しかも落ちたはずみで砕けてしまったではないか、ピューイの頭の中は怒りで染まりそうになった、でもぶつかった人の臭いは嗅いだ事がある。


「ンガ?」


 カナン?


「なんだピューか……ってピュー! 探したんだぞ!」


 ぶつかった相手はいつも見慣れた銀髪の少女だった。


「説明は後だ、このペンを匂いを追いかけてくれ!」


ーーーーーー

ーーーー

ーー


 奴ら機関の連中は私をどこまで追いかけるつもりだ!

 眼鏡の痩せ細った男は、鋼鉄の籠を手に持ちながら息を切らしながら影の中の闇を走る。

 籠の中からは今にも食い破りそうな悪魔憑きの猫がこちらに牙を剥く。


「待ってろ……お前を私のコレクションにしてやるからな……」


 悪魔憑きを飼うなんて初めてのことだ、だからこそこのチャンスを逃す事は出来ない。消滅する前に特殊な魔法をかけ魂を抜かせ剥製にしてやる。

 悪魔憑きが俺の家に飾られるんだ、そう思うと勃起しそうになる。


「そこだ! そこにいるぞ!」


 さっき私を追いかけてきた機関の連中の一人が私に気づき声を荒げる。


「くそっ!」


 影に隠れる意味もなくなり、地を走る。

 重い籠と、肌に骨が浮き出るほど弱い体つきなせいか機関との幅は縮まるばかり。

 すると突然背中に衝撃を感じて私は転んだ。


「ぐあっ!」


 籠が床に転がり、私の背中には男が乗っかる感触があり胸の骨が折れそうになった。


「大人しくしてろ!」


「離せっ! 私はやり遂げるんだ!」


「おい、早く眠らせろ!」


 二人いた機関の連中の一人が私に魔法をかけるように呼びかける。

 やめろ、やめてくれ、私はここで終わるわけにはいかないんだ。


「先輩……あれは……」


 若い方の男の声は少し怯えていた。


「おい! 話を聞いているのか……ちっ」


 機関の一人が私から離れ、理由はわからないが今のうちに逃げようとしたが固まった。

 籠の鍵が壊され、中にいたはずの悪魔憑きが消えていた。


「グァ……グァ……」


 背後から猫とは思えない、ひび割れた動物の声が聴こえ振り返ると、そこには何もない。

 突如首すじにギロチンをかけられたような恐怖を感じた。

 肩に無数の刃物が食い込んだ。


「う、うぎゃああああああ!!! 痛い痛い痛い!」


 悪魔憑きが私の肩を肉かと勘違いしているのか、いや奴等からすれば人間は餌なのだ。


「助けてくれぇ!」


「ちっ、ドルン!」


 悪魔憑きが衝撃の魔法を喰らい、私の肩からやっと離れて壁に激突した。そしてへたりと倒れてしまった。

 私は死ぬほど痛くて意識を保つだけで精一杯だった。


「た、助けてくれ……血が……血が止まらないんだ……い、痛い……た、頼む!」


 天に許しを貰うように機関の連中に頼み込み、奴はしびれを切らしたようにこう返した。


「少し黙っていろ、奴を倒したら治してやるよ」


「い、今すぐ……治してくれ……! 治してく……うっ!」


 腹を殴られた。


「だから黙れと言っている、餌になりたくなければぁ! 黙って自分の手で血を止めていろ!」


 次は腹を蹴られた。何度も、何度も。

 もう片方の若い男に助けようとするが奴は私を見ずただ怯えていた。

 

「あ……あ……」


 何度か蹴られ、意識が保てなくなった頃に、奴はこう言った。


「そろそろ、あの悪魔を殺さなければな。ナート手を貸せ」


「あ、あの……」


「やめて……くれ……」


「貴様は黙っていろと言ってるだろ」


 また蹴られた。


「いいか? 貴様程度の犯罪者など俺の手にかかれば殺す事だって可能だ、お前は俺達に敵意を向けて悪魔を放った。仕方なく始末する事になったとでも誤魔化す事は可能だ。貴様は俺に生かされてるんぉぅぎ」


 黒い影が通っていった。

 男の首は捥がれ、まるで自分が死んだ事さえ気づいてなさそうであった。目を開いてパチクリと何があったのか知りたがってる頭が床にざくろのように潰れた。

 そして私も同じ状況に陥った事に気づくのに時間がかかった。さっきの若い男はこいつに怯えていたんじゃない、悪魔憑きに怯えていたんだと気づいた。


ーーーーーー

ーーーー

ーー


 消滅や悪魔を祓うなど言える状況ではなかった。

 臭いを追いかけた先は辺り一面血で染まっていた。服を見ると三人の身体が片付けを忘れた子供のオモチャ人形のようにバラバラに、そこら中に散らばっていた。


「ンガ……」


 カナン……


 目眩がしてピューにもたれかかった。 

 しまった、悪魔憑きを少し見くびっていたとカナンは後悔した。ワーナがワンさんを襲っても殺さなかったのは意思が残ってるからと微かな希望に望みを掛けようとしたのが間違いだった。

 命を食った時点で戻れる可能性はゼロだ、あと七人の命が失えば完全に悪魔が復活する。


「ピュー……殺すぞ、ワーナ……いや悪魔を追いかけろ」


 カナンは殺す事にした。殺す事にはただ慣れればいいんだ、そうだ恨まれても慣れれば大丈夫だ。

 あの人の意志を継いでる私のやるべき事は他にある、だからこんな事で迷ってる暇はない。

 

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