第5話


 朝からそこら中歩き回ってワーナを探しまくったが手かがり無し、最後の手段としてリーザの裏と言っても過言ではない裏町にカナンは出向いた。

 昼というのに周りは暗く、薄汚い服を着た人間や魔族で溢れ、怪しい薬品や嘘っぱちの商品まで販売されている。

 そこの雑貨店のゴブリンの耳なんか、ただの死人の耳を腐らせず改造した物だ。

 呆れた目で眺めているが、逆に周りから私は冷ややかな視線を浴びている。小綺麗な服を着ているせいだろう、ここでは是非盗って下さいとアピールしているものだと自覚はある。

 そもそもこの町に繋がるゲートを見つけない限りは入れないので、もしや機関の人間ではとより効果が悪い方に増した。


 ボディガードにピューイを連れて来たかったがここの腐臭に近い臭いに敏感で、嫌でも来ようとしなかった。怒った私は勝手にしろとゲート前で置いて行った。


 前にも一度ここに来たことはあるが師匠と一緒で、一人で来るのは初めてだ。道を歩く途中、肉の壁とぶつかった。

 巨体な男だった。私は杖を構えようかと悩んだ。


「なぁ、姉ちゃんこんな昼間っから何こんな場所来てんだ、悪い事は言わねえからとっとと帰んな」


「心配してくれんですか? 有り難く受け取っておきます、でもそれ以上にここに用事があるんですよ」


 大男はけっ、と苛立つ顔で酒を押し込んだ。


「女一人歩いて犯されるならまだいい、魔獣に頭から喰われちまっても俺は知らねえからな」


 この人は良い人そうだ。

 ふと人を信じ過ぎるなと師匠の言葉を思い出したが、首を横に振って忘れようとした。


「少し話を伺いたいんですが、頭が反対の悪魔憑きを知りませんか?」


「人の忠告ぐらいを…………知らねえな、そんなもんに何の用があるんだ。飼ってペットにするつもりか?」


「仕事です」


「仕事……魔獣狩りか」


「そんなところです」


「ハァ……ったく、仕方ねえな……この先にマユルドって奴が営業する魔獣専門の店がある、そこに行って話でも聞いてきな。そこに行ってなにも無かったらとっととここから帰っちまいな」


「ありがとうございます」


 頭を軽く下げ、そのままカナンは歩いて行った。

 魔獣専門の店と言われてもその手の店はここには沢山あるせいか探すのに苦労した、話を聞いても変な物を買わされそうになるばかりで時間がかかった。

 マユルドという人の営業店のドアを開け、れなかった。閉まっていた。というより魔法の結界が張られていた。

 一応裏口はどうかと確認しようとすると。


「店の彼ならさっき逃げて行ったよ、しかも悪魔持って逃げたから機関に追われてる」


 親切そうな金髪の男性が私の後ろで声をかけてくれた。


「えっ」


「悪魔憑きを飼ってたんだよ、まあ自業自得かな」


 今一瞬、嫌な予感がした。


「…………その悪魔憑きって猫だったり」


 青年はおっ、と驚いた表情をして見せた。


「うん、頭が逆のネコ、よく知ってるね」


 最悪だ……先に裏町にくれば良かった。


「ああでも、今追いかけたらまだ間に合うんじゃないかな」


「それって本当ですか? 何処に行ったか分かります?」


 カナンはぐいぐい青年に追求すると青年の顔つきは不審な物に変わって行った。


「……なんで君はそんなに聞いてくるんだい?」


 こちらの素性を明かしておくべきかと考え話すことにした。


「私は魔獣狩りなんですよ、証明書見せましょうか? この件も依頼の事情があるんです」


 青年は安心した顔に変わり口を開いたが、そこから放たれる言葉は自分が言うのもなんだが少し危うかった。


「あー、なら安心した、僕もね最近機関の魔獣専門に就職したんだよ、ほらバッチいいでしょ、怪しくないでしょ」


 青年はポケットから葉っぱのバッチを私に見せつけた。

 こんな簡単に素性をバラしていいのか。


「えーと、悪魔憑きの場所を聞かせて欲しいんですが」


「ああそうだったそうだった、確かに二丁目辺りに逃げて行ったんじゃなかったっけ、あと彼はシノー(飲むと影に隠れることができる薬)を飲んで行ったらしいから簡単には見つからなさそうだね。まあ僕はヘマやらかすからここで待ってろって上から言われたんだけどねハハハハハ、えっ笑えない?」


 まずい、さっきまでワーナは生きていると考えたとしてももう時間はない。

 それに影に潜まれては探すのに一苦労だ。そもそもマユルドがどんな人物なのかも分からない……

 

「すみません、マユルドの所持品を拝借してもいいですか?」


「うーん、怒られるの嫌だしなぁ…………まあバレなきゃいいか、いいよー」


 って言って彼は結界を解放してくれた。それでいいのか。

 でも今はそのいい加減な性格に助かった、彼の店は魔獣を幾つか薬品漬けにして保管しているのをケースに飾ってあった。

 彼の匂いが染み付いた物は……ペンにしよう。

 店の机の上に転がっていたペンを持ち、急いで店から出る。


「じゃあ私はこれで! ありがとうございます!」


 のんびりとお礼を言ってる暇がないので申し訳ないが適当に済まし店の裏に表と繋がるゲートを通って表の街に出た。




 




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