第32話いつか選択できたのならば
プロジェクトzは、怪獣に苦戦していた。
すでに三体以上の怪獣を屠っており、疲れが蓄積してきたのだ。これは青谷がプロジェクトzの代わりに戦ってもそれは同じだった。プロジェクトzとの一体化が進んだせいなのかもしれないが、二人の怪我も疲労も完全にシンクロしていた。
「一時退散したほうがいいんじゃないのか?」
青谷の言葉に、プロジェクトzは首を振る。
「いいえ、ここで私が逃げたら被害が拡大するわ」
だから、逃げられないとプロジェクトzは言った。
「でも、おまえが倒れたらしょうがないだろうが!!」
怪獣がプロジェクトzの足を狙う。
動きが鈍ったプロジェクトzは、その攻撃で足を負傷してしまう。その痛みに、プロジェクトzは悲鳴を上げた。
「いたぁぁぁ!! 痛いって、言ってるでしょう!!」
だが、プロジェクトzはそれにもめげずに傷ついた足で怪獣を蹴る。
「そんな無茶をするな!!」
青谷が叫びも遅く、プロジェクトzの足が動かなくなった。
「あれ……全然動かない」
「折れたんだよ。馬鹿っ、もうちょっと自分の体は大切に扱え!!」
動けなくなったプロジェクトzに止めを刺すために、怪獣が襲い掛かる。プロジェクトzは剣で怪獣を突き刺そうとしたが、動けないプロジェクトzでは良くて相打ちであろう。
「体を小さくしろ!そっちのほうがまだ生存率があがる」
だが、プロジェクトzは引かない。
青谷は、思わず見ることを放棄した。
死ぬ、と思ってしまったからである。
だが、彼が恐怖した瞬間はやってこなかった。
「貴方をサポートする」
少女yが、プロジェクトzの前に立ち怪獣の攻撃を受けていた。
彼女が、プロジェクトzを助けてくれたのである。
その光景に、青谷もプロジェクトzも目を丸くする。
「巨大化すれば、周囲に被害がでるわ。それも分からないの?」
少女yの言葉に、プロジェクトzは頬を膨らませる。
「知ってるわよ。でも、体力温存のために仕方なかったの!私が、今日何度戦ったのか知ってる!?」
「そんなこと守っている相手には関係ないことでしょう?」
少女yの言葉に、プロジェクトzは黙った。
図星だったらしい。
「そんなことより……貴方、どうして私を助けたのよ」
プロジェクトzの言葉に、少女yは視線を下げる。
「隊長Zに貴方と一緒に地球を守るように命令されたのよ」
少女yは、答える。
「それって、左遷なの?」
そんなことを呟いたプロジェクトzの頭を、少女yは思いっきり叩いた。気持ちはわかる、と青谷は深くうなずく。青谷のせいで学んだ言葉であったが、今のはいろいろと酷い。
「左遷ではないわ!」
少女yのプライドを刺激したらしく、彼女は怒鳴る。
「じゃあなんで、私なんてものを守る命令なんて下されたのよ」
プロジェクトzの言葉に、少女yは少しばかり迷いを見せた。
「……貴方の生きかたは認められたのよ」
少女yの言葉に、プロジェクトzは唖然とした。
「認められたって、誰に?」
「私たちに」
少女yは、はっきりと答える。
「貴方の選択は、私たちの種族に認められたわ。……私は、選択すら出来なかった。私は、それが羨ましい」
どこか虚しささえも含んだ、その言葉。
だが、足を怪我して動けないプロジェクトzは不思議そうに口を開く。
「どうして、羨ましいと思うの?私は、私の思うがままに選択しただけなのに」
生きるってそういうことなのでしょう、とプロジェクトzは言った。
「そうだな」
青谷は、頷く。
「そうだな、プロジェクトz」
青谷も選択した。
プロジェクトzと共に生きることを。
「貴方も、選択をしないという選択をしたんでしょう」
プロジェクトzは、少女yに言う。
「なら、いつかその選択の答えに貴方が気づくんじゃなくって」
少女yは、小さく呟く。
「それは、なんだかものすごく恐ろしいわ」
少女yは動けないプロジェクトzの代わりに、怪獣と戦おうとした。
その後姿に、青谷は少なからずほっとした。
これで、もうプロジェクトzが同胞に追われることはない。
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