僕の世界は鮮烈で
いつになく疲れ果て重たくなった足を組み替えた後、この状況について整理をつけるため考えに耽ようとする。
————とそこで俺の思考は一瞬シャットアウトされた。理由は単純明快。体から疲れの吹き飛ぶ感覚が電撃的に体へと走ったからだ。
「ここは......? 」
背後から聞こえる声。その声は先程の眠り姫が発した、否。奏でたと推測するには充分な程澄んだ声だった。どうやら目を覚ましたらしい。振り向いて確認するが案の定、目の前には寝ぼけ眼を擦りながら端整かつ色白な足をベッドから出している少女が居た。少女は自分の眼前にいる男に気づいたのか、目を合わせる。
「あなたは......? 」
合わせた彼女の瞳には怯えた様子もなく、幸い体に外傷は見当たらなかったので起き上がれるところを見ると大丈夫なようだ。
「起きたんだな。俺はフェオ=ルイス。森で倒れてたお前を襲おうとしてる魔物がいたから、抱えてこの家まで運んだんだ」
「そう......だったんですね。私はあの奥のダンジョンに行こうとしたんです......。そこで情けなくも対面した『オーク』に腰を抜かせてしまって......」
『オーク』。この世界一帯に生息する魔物で、知らないものはいないだろう。そこまで強くはないが気性が荒いため目の前に立つものを敵とみなし、見境なく襲いかかってくる。非力そうな彼女にはオークとの戦闘は無理だったらしい。
「ん? ひとつ聞いていいか? なんでダンジョンに行こうとしたんだ。ダンジョン内はオークとは比べ物にならないくらいレベルの高い魔物達の巣窟だぞ」
「そ、それは......」
俺の質問に返答しようとしたらしい。だが事情あってか、そのまま彼女は俯いてしまった。そんな彼女を横目に、トントン拍子に進んでいく会話を落ち着かせるため俺は腰掛けた椅子を深く座り直すと彼女からの返答を待つ。
*
「あ、 あの......!」
「ん?」
会話が途絶えてから数分経った後、両者の気疎い雰囲気を壊すように彼女は言葉を発し始めた。
「私をダンジョンに連れて行ってくれませんか!? 」
あまりにも突発的な質問、誰だって返答に困る。
「急だな。多分君はそういうだろうと思って準備してたけど...... 、生返事で『はい』なんて言えたものじゃない。死が伴うからな 」
出会って間もないが、そんな俺でも分かる程彼女の顔つきは真剣だった。だが、内容はとても現実味のないもので、周りの人が聞けば「馬鹿じゃないのか?」と、見下すと言うより頭を危惧されるような発言だった。これには一言二言で返答出来る訳がない。
「————そう...... 、ですよね。軽々しく言えたことではありません......。ですが、私は何としてもダンジョンに行かなければならないんです。あのダンジョンには私の叔父が綴った
「その言い回しだと、叔父さんはもういないのか 」
「はい......。私が齢7歳のころに他界してしまわれました」
彼女と彼女の叔父の仲を俺が知る由もないが彼女の表情を見るに、辛い過去を思い出させてしまったようで、少々罪悪感を感じる。その居た堪れない気持ちが俺を動かした訳では無い。だが......。
「————————分かった。ダンジョン攻略手伝うよ」
「————ッ!? 」
俺の返答を飲みきれていないのか、彼女は少し驚いた様子をした後、俺の目をまじまじと見つめてきた。
表情から察するに「本当ですか? 」と言わんばかりだ。
「本当だよ。ただし! 俺の『レベル』は『 11 』と生憎そう高くない。勝てないと判り次第二人で逃げるぞ」
「はい......! ありがとうござい......ます......!」
泣きそうになりながら、彼女は嗚咽のように謝辞を述べる。そんな仕草に愛くるしさを覚えた俺は「守るんだ 」と独り言の様に呟いた。
「————申し遅れました。私はティア=リフィルと言います。ティアとお呼びください。『レベル』は『 94 』です。これからよろしくお願いします、フェオさん」
「..................は? 」
ダンジョン攻略に意気込み緊迫した俺の情感は、さりげなく述べたティアのレベルに圧倒され、ただただ間の抜けた言葉を吐くしか出来なかった————。
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