ペペペイ
シロヒダ・ケイ
第1話
ペペペイ
作 シロヒダ・ケイ
ここは新宿。ラリラー・・・っと。
週末の忘年会で酔った僕は、よろめき混じりの足取りで、飲み屋街を歩いていた。金はある。ボーナスの遊興資金があるのだから・・いいとこあれば少々の冒険はやってみても・・の気分なのだ。
キャバクラ、ガールズバー、何でも良かろう。社会見学とやらを試してみようではないか。ここ何年も、その手の店には近づかなかった。そんな行儀良い僕にも、ご褒美が必要だろう。今日一日限りの解禁ならば・・・
と、酔客をタクシー乗り場まで見送りに来ていた夜の女。
目が合って、ほう・・・と決めた。酔客も身なりからヘンなタイプ、その筋っぽい人ではなさそうだった。客層が悪くなければボッタクリの店でもないだろう。タクシーが走り去ったのを確認して声を掛けてみた。
「お姉さんの店、チョット寄らせてもらっていいかな?」
「いいけど・・・。」品定めをするかのように僕を見て・・・
「合格したかな?」
「そうね。補欠合格かな。」クスッと笑った、その笑顔にグッと惹かれる。
「洒落た店じゃないか。」
「先に言っときますけど、うちの支払いはペペペイなのよ。」
「ペペペイ?」
「あら、ご存じないの?」
「・・・・」
「一種の仮想通貨ね。ペペペイのポイントを買って、それで支払うの。スマホ決済よ。ホホホ。」
「いくらで買えるの?」
「そうね。まず、ペペペイに入会して・・・五万円分くらいのポイントを買えばいいわ。」
「五万かぁ。」
「うちの店なら一回の遊びで二~三万ポイントかな。それ以上になりそうだったら、あたしが合図してあげるから安心よ。」
「了解。」
よくわからなかったが、信用は出来そうだ。後悔しても五万円なら、冒険してみるか。
席に着くなりスマホの操作をさせられた。
「ペペペイのサイトにアクセスして・・・入会規約読んだ・・・で、OKした後、ポイント購入すれば良いのよ・・・。」
「OKね・・・。入会手続きが完了しました・・と出てきたぞ。」
スマホの画面は続いた。コングラチュレーション。お祝い絵文字とオメデタ音声が鳴った。ジャラジャラジャラジャラ。際限なくコインが積みあがる。まるでカジノの高額ジャックポットだ。
「エッ。当たったの?そういえばペペペイは、入会キャンペーン中なのよ。」
「・・・・。」
女がスマホをのぞき込む。
「ウッ。」
画面には十億ポイントと大きく書かれた文字が金色に輝いていた。二十万人に一人の超々・大特賞に大当たりしたのだ。
「あたしって、スゴイ上客を連れてきたのね。」
「僕も・・・。スゴイあげまんと遭遇したことになるね。」
「ふふふ。なら、あたしの売り上げに貢献してよね。ドンペリかな。やっぱ。」
「二本でも三本でもどうぞ・・。但し、この事は誰にも言わないでくれよ。二人の秘密にしとこう、いいね。」
「ドンペリはいりまーす。」ウインクした彼女がボーイを呼んだ。
それからの記憶が無い。おそらく酔いつぶれたのだろう。
翌朝、ベッドで目が覚めると、高級感。おっ、ここは我が家ではない。あたりを見廻し仰天した。高級ホテルのような部屋。おそらくスイートだ。
そして隣には昨日のクラブの女。記憶が無いのが惜しまれるが、僕はこの女とイイコトしたに違いない。
バスルームでジャグジーにつかり、洗顔、髭剃り、身づくろいをしてベッドに戻ると女も起き上がっていた。
「おはようございます。」
「おはよう。昨日、誘っちゃったんだよね。」
「ウフッ。気に入って下さって、私も嬉しいわ。」いたずらっぽく目が笑っている。ウーン、記憶が戻って欲しい。
彼女によると僕は上機嫌で飲みまくり、彼女を口説き始めたらしい。スマホで高級シティホテルを予約してしまっただの、結婚を前提にお付き合いしましょダハハ・・などしつこく迫ったそうだ。でも話自体は軽く、ジョークの域内だったので適当にあしらって済む程度のものだった。
色んな話をするうち、彼女の本業(収入は無いが)が演劇女優である事にふれ「僕が演劇のサポートをしてやるぞ。」と豪語したそうだ。
「エッ。そんな約束したの?」
「まーっ。酒のせいにしてウヤムヤにするつもり?」
僕は正直に記憶が飛んでいるのを告げた。
「信じられない!私、騙されている?」
「いや。待ってよ。」
「待てないわよ。断固抗議だわ。」
「演劇サポートはともかく結婚はしてもいいんだよ。・・というか改めて言うよ。結婚して下さい。ハハハ。こんな求婚あるのかな。ハハハ。」
「私としては演劇サポートが重要よ。マジメに。」
「名前、何だっけ?昨日聞いていると思うけど・・・。」
「んまっ。名前も忘れちゃって・・求婚もないでしょ。」
「いやーワリイ。」
「お店では初音ミク。芸名はかぐや月乃って言うのよ。今度は覚えてね。」
「かぐや月乃か・・・。」
「今ねぇ、私が主演の創作劇を企画しているの・・・。」
「へぇー。どんな?」
「多重キャラの主人公。それぞれのキャラクターが世を忍ぶ仮の姿。ホントのキャラはフフフ。劇を見てのお楽しみね。」
僕らは店での再会を約束して別れた。
ホテルの会計。ペペペイで七十万ポイント也。さすが高級ホテル。そしてスイート。
僕はスマホでペペペイの残高を調べた。九億九千八百八十万ポイントとある。ほう、そうするとあの店で五十万ポイントの豪遊をしたのか。まあ、ドンペリ頼んだわけだから、そんなものかも知れない・・・。
あの店だけではない、一流ホテルでも使えたのだ。ぺペペイは。とすれば、僕は正真正銘のお金持ちになれたってわけなのだが・・・。
試すつもりで大手不動産仲介会社を訪れた。
「タワーマンションの物件ありますか?」
「こちらが六千万の物件です。」
「もっと高いの無いの?」
「ハア。これは・・三億近くするものですが・・・。最上階で眺望も最高です。晴れた日には富士山も見えますよ。交渉で少しは値引き出来ると思いますが・・・。」
ホォ。三億!だが、都心一等地、間取りもなかなかよろしい物件ではあった。
「ところでペペペイは使えますか?」
「モチロンですとも。」
「では二億五千万なら即決、ペペペイで買いましょう。」
「ヒェ?そ、即金ですか?」
店長が現れたので、ペペペイ残高をスマホ画面で見せると慌てて奥に引っ込んだ。売り手と連絡を取っているようだ。
「即金、二億七千万なら売ると言われてますが・・・。」
「買いましょう。手付はいくらですか?」
引き渡し一週間後の契約がまとまった。
ホンマ、ペペペイは現金と同じなのだ。
家に帰って目まぐるしい一日を振り返る。一週間後には、この安アパート住人からタワマン族になるのだ・・・新聞でも見ながら・・・と。くつろいだ。
経済紙の商品市況欄を見ながらピンと来るものがあった。これまで不況にあえいでいた、或る素材が需給好転で値上がりしているというのだ。
僕はこれでも株式投資家のはしくれである。四季報で調べると、その商品を扱う上場企業は果たして安値に放置されていた。週明けの市場で買おうとインターネット証券のホーム画面を開くと・・・・。
「ペペペイ使えるようになりました。」
証券会社でも使えるのか。これはホンマもんや・・・。
翌日。会社は体調不良で休みを取った。もう出勤するつもりもない。あの忘年会は僕にとって送別会になったのだ。僕から会社にたいして送別の・・・。
市場が開くと同時に三万株、一千万円相当を買う。僕の買いで若干高く寄り付いた。断続的に細かく買いを入れ、引けの時には三十万株、一億円相当に達した。こんなカンジで仕込んで半年ほど寝かしておけば、うまい具合にバクハツしてくれるだろう・・・多分。
会社には辞表を提出、僕は株式投資家としてデビューしていた。もっともディトレーダーではないのでヒマなもの。相場が引ける三時過ぎからは不動産手続き、ハローワーク等で失業手続き。スーパー銭湯で湯ったり、パチンコでジャラジャラ暇つぶしの日々。
そんな一週間が過ぎてタワマン入居と相成った。
その間、狙いの株式は百万株、四億円相当にふくれ上がった。僕が買い続けているので上がっているが、思惑通りバクハツしてくれるのか?売却出来てこその儲けなのだ。
タワマンの僕の部屋はガランとしている。安アパートから持ってきたベッドとパソコンがあるだけ。それでも夕陽の富士山は僕の人生を赤く照らしてくれていた。
翌日。ネット証券の相場画面を見て驚いた。
例の銘柄が買い気配なのだ。なんで?
経済紙を取り出した。引っ越しにかまけて見ていなかった。
すると、例の銘柄の会社が業績修正の予想を発表していた。どうにか黒字の予想から、一転大幅増益になるという。記事は増配の可能性も示唆していた。
フーン。いつも、業績の下方修正をしていた会社が上方修正するのはインパクトが大きい。実際の決算では、もっと利益は大きくなるだろう。
果たして大幅高で寄り付いた後も上がり続け、ストップ高で引けた。
翌日も翌々日もストップ高。材料に画期的新素材が加わったのだ。
買い始めてわずか十日あまりで株価倍増が見えてきた。結局、仕込み価格の倍の値段になった時から売り始め、税金を差し引いても総額五億円の儲けで手仕舞った。
パソコンの前に張り付いていただけではない。ソファーなどの高級家具もペペペイポイントで購入し、かぐや月乃を迎える準備を整えていたのだった。
良い新年になった。
そして行動開始。
三週間ぶりに例の店に顔を出したのだ。「初音ミクを。」と指名する。
「あらっ。お久しぶり。もう、お見限りかと思ったわ。」
「アゲマンをたやすく手放す度胸はないよ。」
「どおぉ。億万長者のご気分は?」
「お陰で天国モードの運気に飲み込まれてアップアップしてるんだ。」
「だよね。でもね。溺れないようにしなきゃね。」
「そうだよ。自分の為だけに運気を使うと溺れそうだからね。キミの為にも使うことに決めたよ。」
「エッ。」
僕はタワマンを購入したこと、それを自宅兼事務所にするつもりなこと。事務所とは彼女の演劇興行を主宰するプロダクションであること。だからその責任者として彼女を事務所で雇う事。出来れば妻として同居して欲しいこと。
「だから今日限りで、この店辞めようね。もったいないから今日はドンペリナーシ。」
「フフフ。そうね。」
新婚生活は順調そのもの。
月乃は公演実現に奔走、僕の投資家生活も天国モードが続いていた。薬品株を買えば有力新薬の、ハイテク株でも新技術の材料が飛び出し、利益が積みあがる。
食事はミシュラン三ツ星、食べ歩きの毎日。月乃が忙しいので、旅行に行けないのが残念だが、その分、休みの日は競馬場の指定席で大金を賭ける。お金はいらないのに3連単の万馬券が当たりまくるので始末が悪い。まあ、将来、馬主にでもなるか・・・と血統知識、配合理論の勉強にいそしむ毎日だった。
まあ、この世をば我が世とぞ思う望月の・・・藤原道長の気持ちがチョッピリ理解できる気分だったと言えよう。
ミチナガ気分の僕。だが、心配も無いではなかった。
ミシュランだらけの食生活のせいだろうか。ウンチの出が、悪いのではないが違和感がある。そういえば、オシッコにもどことなくタイミングがずれてる感がある。睡眠もおかしい。寝れないのではないが、イヤ、むしろ、熟睡してるのだろうか?夢を見ない。夜中にオシッコ行くのも無くなった。良いのか悪いのか?考え始めると、次から次へと心配がつのる・・・のが我ながら可笑しい。深刻な症状ではないのに・・・。まぁ、ミチナガクンと異なり欠けた部分があったのだ。
月乃が早く帰宅したので、思い切って打ち明けてみた。
自分の事のように心配してくれる月乃。ノートを取り出して僕の話を書き留める。
「ウンチがいつも同じ形なのも気になるんだよなぁ。」
「フーン。」
「勤め人の時は、便秘したりゲリしたりを繰り返していたのに、順調すぎるのも不思議なんだ。」
「フーン。そう。」
月乃は症状を詳しく質問して書き留めていた。オシッコのズレがどのくらいと思うのかとか・・・細かく・・・。
「ウーン。調整が必要かもね・・。」
「調整?」
「そ、そう。体調を整える必要がね。私、良いサプリメント持っているから飲んでみて・・・。」渡された錠剤を三つほど飲み込んだ。
「基本的には心因性と思われるのよね。急にお金持ちになって・・金持ちなりのストレスを感じやすくなっているかも・・・。」
サプリが合ったのだろうか。前より違和感は薄らいでいた。ウンチの形も色もバラエティーに富み始め、夢も見始めたのだ。
だが、症状改善に伴って、別の件も気になり始めた。
食事の味覚、嚥下の感じに違和感がある。新たに始まった症状というより、他の症状が改善されて、小さく感じていた別の違和感が気になりだしたみたいだった。
これも月乃のサプリメントで違和感が薄らいだ。
しかし、気になるクセは止まらなかった。
こんなこと、月乃に言うと気を悪くされるかも知れない。夜の営みの射精時の違和感があるのだ。
それでも、思い切って告白すると、これもまた、サプリで改善されるのだった。
「サプリに詳しいんだね。」
「まあね。私、看護師役に扮したときにクスリ類の猛勉強したことあるもの。」
それでも、僅かな違和感が消える事は無かった。
だが、これ以上症状を訴えてもシツコイと思われるかも知れない。
考えれば、いずれも人間の本能に属する違和感だ。僕の本能に何か異変が起こっているのだろうか?
「快眠、快食、快便」とはよく言ったもの。その快がビシッと決まらない。
ただし、逆に不眠、食欲不振、フンズマリとは無縁である。それで良し、としなければバチが当たるだろう。とも思う。
月乃に言おうか言うまいか。
そう逡巡しながら月乃のパソコンの前をウロウロしていると、台本らしきノートが置かれていた。
「そうか、公演日も近いからな。」
演劇に興味は無かったが、その台本を手にしてパラパラめくって驚いた。
数字とアルファベットの羅列されたページが続いていたのだ。どうやら、何かの暗号らしい。
急激に月乃に対する疑惑が沸き上がってきた。
僕は図書館で暗号に関する書物類を読み始めた。
手元には秘かにコピーした台本の中身。
解読できそうだった。ノートに記載された最初の文字が日付のような気がして、それを手掛かりに暗号解読を始めたのだ。
そうすると、一ページの初めが、僕と月乃がクラブで出会った月日のようだ。二ページ目は三週間後の日でタワマンに彼女を迎え入れた日。
どうやら、これは僕と彼女との付き合いや生活内容を綴ったノートで間違いない。でも何故それを暗号化して記す必要があるのだろう・・・と疑惑はふくらむ。
証券取引そっちのけで解読に取り組んだ結果、何ともいえない大疑惑の岩盤にぶち当たった。
解読された台本のタイトルは「臨床例001号報告書。」
出会い当日。VR手術を受けた001号・・・との記載があった。001号とは僕のことを指すのか?手術だと?
ページ解読を進めると、サプリメントのくだり。薬剤型調整センサー投与を処方・・・との記載があった。
一体なんの事?背筋が凍りつく、猜疑と恐怖がないまぜの感覚に襲われた。
その夜。月乃は帰って来なかった。
かわりにメールが届いた。「明日の公演に来てみる?貴方の疑問に対する答えが手に出来るはずだわ。でも、知らない方が幸せかもしれませんことよ。」
指定されたミニ劇場。指定された時間に来たのだが、もう満員に近く、後ろの席に案内された。しかも客席は真っ暗で、舞台のライトに舞台俳優の姿。もう劇は始まっているのだ・・・。
首席補佐官 「神より地球の支配をゆだねられし霊長類、ニンゲン。そのニンゲン世界を導かれる世界のリーダー、ジョーカー氏に申し上げます。」
世界のリーダー 「なんじゃ。儲け話でもあるのか?」
首席補佐官 「残念ながら・・今日は人間世界が直面する危機的状況についてレクチャーしなければなりません。」
世界のリーダー 「つまらん。お前たちで・・・良きにはからえ。」
首席補佐官 「いえいえ。これは世界のリーダーが決断すべき事柄なのです。」
世界のリーダー 「ならば、次は我がジョーカーグループの高級マンション・ジョーカータワーを買ってくれる商談を持ってこい。カネを持っているなら、少々の極悪人でも構わんぞ。・・・だったら話を聞こう。」
首席補佐官 「人口爆発問題です。現在で七十五億、近い将来百億人を突破する事になるでしょう。それに伴い、食料・水不足が顕在化するやも知れません。」
世界のリーダー 「よいではないか。人口が増えれば商品が動く、動けば儲け話もアチコチにころがる好循環じゃ。」
首席補佐官 「イエイエ。人口が増える一方、その人達の仕事が無いのです。ロボットに仕事を奪われ、失業者が溢れかえる事態になります。お金を稼げない人々に食料等、救済を施さねばなりません。不法移民もウンカの如く押し寄せるでしょう。」
世界のリーダー 「非常事態じゃのう。ならば、壁を何本もおったてよう。壁じゃ、壁じゃ。金のない奴らと我々を仕切らねばならん。」
首席補佐官 「そんなんじゃ収まりません。」
世界のリーダー 「じゃあ聞くが適正人口は何人だ?」
首席補佐官 「将来、人間格差は大きく広がるでしょう。技術と知識を持ち人類発展に貢献できる有用な民と、無駄飯喰らいの無用の民にハッキリ分かれる事になります。その比率は0.1パーセントと99.9パーセント。従って、有用の民だけの世界を作るとなると一千万人。残る九十九億九千万人をどう処遇するかが課題になります。」
世界のリーダー 「フーム。我社の顧客は一千万か。」
首席補佐官 「問題は残る99.9パーセントの方です。」
世界のリーダー 「で、解決策はあるのか?」
首席補佐官 「ハッ。既に諮問委員会を作って御座います。メンバーを呼びましょう。」
・・・幕間から出てくる人影・・・
首席補佐官 「では委員長である哲学者を紹介しましょう。」
世界のリーダー 「哲学者に貧民救済のカネが作れるのかね?」
哲学者 「エッヘン。解決策は最大多数の最大幸福・・・ベンサムの理論を具現化するのです。」
世界のリーダー 「貧民に幸福?何か間違っているのではないかね。」
哲学者 「99.9パーセントの無用の人々それぞれに十億円程度のカネを与え、幸福になってもらうのです。さすれば世界は幸福に満ち満ちて安定致しましょう。名付けてベンサム・プロジェクト。人類史上・過去最高の施策となりましょう。」
世界のリーダー 「一人に十億ものカネを渡すとなれば紙幣を刷りまくらねばならん。そうすればハイパーインフレが起こって元の木阿弥になるじゃろう。ワシだってそれくらいの経済知識はあるぞ。」
哲学者 「それについてはプロジェクトリーダーであり主任研究員の月乃女史に説明してもらいます。」
・・・月乃登場・・・
世界のリーダー 「お前は・・・。この劇の前に行われた公演で多重キャラを演じた女優ではないか。」
月乃 「女優は世を忍ぶ仮の姿。而してその実体は・・・主任研究員なのですよ。ホホホ。」
世界のリーダー「まあ良い。わかるように見事説明してみせよ。」
月乃 「支給されるお金はペペペイという仮想通貨です。個々のバーチャルリアリティー(仮想現実・VR)空間で使用されるだけですのでインフレの心配はありません。元々、このプロジェクトはVR技術が高度に進展した事で可能になったのです。」
哲学者 「対象者全員にVR手術を施せば良いのです。ゴーグルを使用せず、生身の体を捨て去り、意識だけを取り出して解放する画期的技術。自身の体そのものもVRで構成する高性能技術ですからな。」
月乃 「そうです。生身の身体ではありませんから、食べるにしても意識がVRで作られた豪華ディナーを食べるだけになります。従って実際の食材は必要ありません。食料危機も回避する事が可能です。無用の民を養うコストが殆ど掛からないメリットがあります。」
首席補佐官 「クサイ質問になりますが・・・例えば、実際には食べてないという事は、ウンチはどうなるのですか?」
月乃 「VRでウンチも出ます。臭いもクサイ、大クサイ、超クサイなど様々なバリエーションで感じられるように出来ます。今はまだ、その感覚の精度を上げる為に臨床試験中ですが・・・。」
哲学者 「とにかく、生身の人間と同じ感覚で一生を送る事が可能なのじゃ。与えられたペペペイを使ってやりたいことが何でも出来る。生きていてもつまらない人生しか送れないであろう無用の民が皆、我が世の春を謳歌し、実感できる幸せを掴むのだから、これ以上の施策はなかろう。」
月乃 「無用の民か有用の民かを判定するために二十歳までは実人間として生きます。無用と判定された場合は本人の選択制で三十歳までにVR手術を受けるのを義務付ける制度にしたいと思っております。犯罪を犯した場合は無条件で手術になります。」
首席補佐官 「そうすると、実世界の犯罪も大幅に減少しますね。治安が良くなる。」
哲学者 「犯罪者にとっても幸せな制度じゃ。人をいくら殺しても罪に問われん。望めば大量殺人鬼にもルパンにだってなれる。VRだから、やりたい放題じゃからのう。パワハラ・セクハラも好き放題。」
世界のリーダー 「カネ使い放題、権力誇示し放題、は良いのう。セクハラし放題も素敵じゃ。もうフェイクニュースと打ち消したり、口止め料を払う必要もないのだから。」
世界のリーダーが力を込めて叫んだ
「ゴーサイン!」
首席補佐官 「サインいただきました。」
ここに世界を救うVR法案が成立したのである。パチパチパチ。
世界のリーダー 「「出来ればワシもVR手術受けたい。」
皆が合唱 「勿論ですとも。貴方ほど無用の人はいませんから!」
=幕=
ペペペイ シロヒダ・ケイ @shirohidakei
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