4 銃なんて引鉄を引いて真っ直ぐに飛べばいい

 癖の全く無い、栗色のストレートロングヘアー。白皙の肌の色に、大きい瞳。長い睫毛。華奢な手足に細い首。美少女には違いないが、なんだか人形めいた印象の少女だった。

 更に言えば、サムライには全く見えない。目算で身長は一五〇センチ前後。カコよりも明らかに小柄だ。どう見ても教官には見えないし、サムライだらけの列車に偶然乗り合わせてしまった少女と行った方が似つかわしい。


 訝しむナガレに、彼女は祝いの言葉を投げかけてきた。


「準優勝、オメデトウゴザイマス」

「……所詮学内トーナメントさ。威張るようなもんじゃない」


 ナガレはいつものように苦笑を浮かべる。少女は「そんな顔をするでない」と言った。


「ヤギュウのサムライ・プリンセスに一矢報いたのだ。そう卑下することもなかろう」

「そうかな……でも、アリガトゴザイマス」

「今度は、勝てるようにならんとな」

「そうだな」


 偉そうな台詞。けれどナガレは悪い気はしなかった。


「じゃあの」


 手をひらひらとさせて少女が去る。


「誰、あの子」


 ソーキとガンジが近くまで来ていた。二人共、有名人ユーメイジンになったからって調子コいてんなコイツいっぺんスマキにでもするか、とでも言いたそうな視線でナガレを見ている。頼むからそんなことで妬まないで欲しい。

 

「誰って……誰だ?」


 そう言えば、名前を聞いていなかった。

 友人たちは呆れて物も言わず首を振った。まあ仕方がない。同じ列車の上だ、また会うこともあるだろう。


×××××××××××××××××××××××××


 四日目。イクサ・フレームの試運転。この時ばかりはトレーニングから解放され、疲労と筋肉痛で死にかけていたサムライ研修生たちも皆息を吹き返す。

 

 イクサ・フレームは全部で五騎。〈エイマス〉二騎と〈ラスティ・ネイル〉二騎、残り一機は予備騎の〈アイアンⅡ〉。全騎近代化改修済み、つまり性能差は殆ど同等である。そのうちナガレはラスティ・ネイルを、カコがエイマスをそれぞれ乗騎に選んだ。

 

 丸一日かけて個々人ごとの癖や好みに合わせたパラメータなどの調整が行われた。


 イクサ・フレームに用意された銃はタネガシマ・ガンズ・ファクトリー製アサルトライフル〈ろ-222〉。いささか古いタイプだが信頼性は高い。イクサ・フレーム用銃器の歴史はタネガシマ社により最初に開発されたものから始まっている。それらを総称して「タネガシマ」と呼ぶのは相応の理由があった。

 銃器に限らず装備はほぼ全てタネガシマ社か系列会社で揃えてある。タネガシマとショーグネイションの繋がりは歴史的にも古く、深く、強い。

 

 ナガレには銃器にはあまりこだわりがない。引鉄を引いて真っ直ぐに銃弾乃至ないし荷電粒子ビームが飛べばいい、程度にしか考えていない。これはナガレに限ったことではなく、幼い頃から剣術漬けで育てられたサムライにありがちな傾向らしい。


 なお〈エイマス〉の製作はアマクニ社だが、経営破綻で身売し結局ライセンスもタネガシマ社に持って行かれてしまっていると聞いた。世知辛い話である。


 タネガシマのマガジンに詰まっているのは古式ゆかしいペイント弾。イクサ・フレームが被弾してもナノウルシの加護により後片付けは従来より遥かに容易になったものの、極彩色のマダラに染まった騎体はやはり見苦しいだろう。一応実弾も輜重に含まれているが、今回撃つ機会はあるまい。

 

 今日ばかりは食事は各々が好きな時間に取ることになった。ナガレたち三人はホンダワラ女子たちに誘われ、一緒に食事することになった。大柄なオトミ、ツインテールのカコ、そして情報端末眼鏡インターフェイスグラスをかけているサッキの三人だ。

 

 男子と女子、共に浮足立ってしまった感は否めない。好きな映画や音楽のジャンルは噛み合わず、惨憺たるものだった《カコの軍事映画ネタには誰もついていけなかった》。それでも情報魔のサッキが逐一か細い声で「それは……カンミダニ峠占領の際の……」などと元ネタを調べてくれたりしたので完全に場の空気が冷え込むことはなかったし、何より嫌いな教官や上級生センパイへの愚痴、教練のつらさ、スクール生活の楽しさは共に感じいることが出来た。

 

 楽しかった食事休憩が終わった。


「よっしゃ番号ゲット」

「次は合コンだな」

「お前ら……特にソーキ=サン、チーム・サクラの子とはどうなったんだよ」

「だからなんもねーよ!」


 即座に否定する。そこまで言うのなら本当に何もないのだろう。また、ソーキに何か出来るとも思えない。

 

「アタロウ=サンやコージロー=サンにも幸運の御裾分オスソワケしてやらないとな」


 ナガレがそう言うと、二人は露骨に言い淀んだ。


「お、おう」

「……まあいいか、アイツらなら」

「……お前ら忘れてるようだけど、女子と会うことが出来たのは俺のお陰なんだからな」


 そんなこんなで四日目が終わる。


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 そして五日目が来る。

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