第1話 「イクサ・フレーム・スキャッター・スパークス」

1 士立ヤギュウ・ハイスクール

 ヤマトの太陽が真っ白に燃えている。

 空には雲一つなく、青が目に痛いほどに眩しい。

 風が強い。

 戦気を含んだ風だとサスガ・ナガレは思った。自分では平常心のつもりだが、そう感じるくらいには高揚しているのか。


 ナガレの衣装はこの日のために誂えた耐圧ハカマ姿だ。重量があり動きを阻害するため実戦では既に用いられておらず、専ら儀礼的な意味合いが大きい。サムライには得てしてこういった時代遅れになった様式が多い。


 サムライ。

 

 広義ではこのヤマト太陽系の支配階級であり、狭義では常人と冠絶した身体能力を備えた戦士であり、更に定義を限定するならばイクサ・フレームを駆る力を持つ者である。


 士立ヤギュウ・ハイスクールはサムライによるサムライのためのスクールだ。ここに通う生徒は一般のスクール同様の教育だけでなく、サムライとしての教育を受ける。同様のハイスクールは全星中に存在するが、ヤギュウ・ハイスクールは三大公国の一つナブラの膝下だけあってその規模は屈指である。

 

 剣道ケン・ドー流鏑馬ヤブサメ柔術ヤワラ徒手白兵術カラテ――サムライの技芸は多岐に渡るが、それらを押しのけてこんにち戦場イクサバの花形はやはりイクサ・フレームであろう。

 

 全長二十メートル、重量百トン。

 有機量子電脳と金属の四肢を備えたヤマト最強の白兵戦用四肢駆動兵器。サムライの戦闘力を増幅して発揮させるための拡充具足。

 

 イクサ・フレームを駆る者のことをイクサ・ドライバーと呼ぶ。イクサ・ドライバーはそれだけで名誉ホマレであり、サムライの中でも少数派の特権階級と見做されていた。


 無論、特権には責務が伴う。彼らの存在は厳重に国家によって管理され、一朝事あれば戦場に駆り出される運命にある。


 そして、サムライの家系に必ずしもサムライが生まれるわけではない。また、一般カタギの家庭にサムライ身体能力を持つ者が生まれることもある。更に言えば、サムライ身体能力を持つ者でもイクサ・ドライバーの数は限られる。よって、サムライの数は安定しない上に絶対的に少ない。

 

 100年に渡る平和が続き、最早イクサ・フレームを駆る者、イクサ・ドライバーのみがサムライと呼ばれる時代ではない。国体を維持するには、それなりの数のサムライが必要だった。イクサ・フレームを維持するにも。

 

 播種船〈エイジア〉号の惑星ヤマト植民より千七百年余り、そしてトクガ・ショーグネイション開府より百年余りが経っていた。


 イクサ・フレームのトーナメントはそれだけで全校をあげた一大イヴェントだ。

 学舎の中央に作られた、最大幅五キロメートルに及ぶ円形スタジアムには既に全校生徒が集合しつつある。周辺ではスクール公認・非公認を問わず屋台が乱立し、スタジアム観客席でオコノミ・ガレットやタコヤキ、イカヤキ、合成ケモラムネなどのエンニチフードを頬張る生徒も少なくない。カーニヴァルめいた有様はトーナメント開始から、つまり三日も続いていた。


 今日は最終日。サスガ・ナガレは今からチーム対抗トーナメント決勝戦に臨む。


××××××××××

 

「「Boo!Boo!」」

「「Boo!Boo!」」


 スタジアムのスタッフ入り口に差し掛かると、ブーイングの嵐がナガレやスタッフに容赦なく襲いかかってきた。一応サムライの学校であるから、生卵などを投げてこないだけマシというものだろう。

 

「やっぱり歓迎されてねーな俺たち」

 ソーキが眉根を険しくさせる。

 

「いつも以上にな」

 ガンジが答える。実年齢よりも十歳以上年上に見られることが多い彼だが、今はそれ以上に老けて見える。


 さもあろう。トーナメント開始から一ヶ月、彼らは多くの相手を敵に回し過ぎた。

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