第4話 シンデレラ、マッチを買う

 森を抜けると赤煉瓦の家々が並ぶ街に出ました。シンデレラは街はずれの料亭で欠食状態を解消すると、茨の城への情報収集に行きました。「街いっこ超えたとこ」という魔女の説明ではどっち方面に越えればいいのかさっぱりだったので。


 お店などで話を聞くと、案外すんなり旅程が立ちました。それもそのはず。茨に囲まれた城と言えば、城が眠ったために仕方なく職業連盟による民主政治に変わった百年前から、政治中枢として機能しない代わりに歴史的観光名所になっていたので。


 季節は冬です。街を回るうちに太陽はどんよりした雲に隠れ、いつしか雪が降り始めました。魔女にもらった防寒抜群の外套を着ていても、流石に身体が冷えてきます。それに時節がら、早くも日が傾いてきました。


 急いで宿を見つけようと石畳を小走りに行くシンデレラの前に、一人の女の子が見えました。手には編みかごを持ち、薄い上着一枚で道行く人に声を掛けています。


「マッチは要りませんか」


 元気の無い少女の声に足を止める人はありません。あまりに売り方が下手なので、一人、二人…十人くらい通り過ぎて行きました。


「あぁもう売れないんだわ。せめてこれで…」


 諦めの早いことに、少女は深く溜息をつくとマッチを取り出し、火をつけようとするではありませんか。仰天したシンデレラは慌てて女の子に駆け寄りました。


「待ってそれ勿体もったい無いから!私が買うから!」

 先に青年から貰った金貨は十分ありますし、マッチなら金貨一枚で数箱買えます。シンデレラは少女の手に金貨を握らせるとマッチ箱を数箱取り、感動する少女をいさめました。


「小さい声で呼び掛けても聞こえないわよ。あとはマッチを使いそうな人を選ぶの」

 そして少女から籠を取りあげ、角から出てきた煙管きせるをくわえた男性に「マッチ切れてませんか?」と声を掛けます。


「ああ雪でしけってしまっててね、一つ貰おう」


 チャリンとお代を籠に入れ、男性はありがとさん、と去って行きました。

 目を丸くする少女に、シンデレラは用事を思い出して訊きました。


「そうだ、この辺りに適当なお宿知らない?」


 ここはさすが地元民。役に立てるのが嬉しいのか、少女は顔を輝かせ、自分が案内すると元気良くシンデレラの手を取りました。

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