第12話 命の強さ
「ぐおおおおうあああ」
突然、セルお母さんが鼻に皺を寄せ、苦悶にのたうつ。
「ど、どうしたんですかセルお母さん!
「私の分身が…フレンズどもめ。命をもつ者共め」
セルお母さんはそう言うと、目を、開・い・た。両目の間にすっと線が走ると、そこから上下に大きく開いたのだ。現れたのは、セルリアンの、巨大な眼球である。
「敵、め」
やはりセルリアンなのだ。どれほど会話ができても、見た目がヒトに近くても。
「あああああん!あああああん!」
赤ん坊が泣き出し、音響効果を考慮して建てられたであろう教会に響いていく。
するりとセルお母さんの膝から床に降りた赤ん坊は、泣きながらかばんのもとに必死で這っていく。
「お前も…命を選ぶのか…」
かばんは赤ん坊を抱き上げると、サーバルの方へ走った。
「サーバルちゃん!今助けるから!」
「ならば命など要らぬ。全ての命のきらめきを奪い、死の砂漠に変えてくれようぞ」
「あのさー!」
「ふぇ、フェネックぅ?」
今まで黙っていたフェネックが口を開いた。
「あのさ、セルリアンさん。あなたはさー、命?を、見くびりすぎなんじゃないかなー?死の砂漠だって?あほくさい。砂漠は命のない場所だとでも思ってるのー?」
フェネックは不敵に笑う。
「砂漠はさー、命に溢れてるよ。そりゃあ砂漠が苦手な子も多いけど、命は砂漠だろうが、氷の世界だろうが、深海だろうが、どこにだって適応して、どこにだって満ちていく」
そこで決めポーズ。腰に手を当て、セルお母さんに指を突きつける。
「あなたたちセルリアンなんかより、ずっとずーっと強靭なのさー」
しばしの静寂の後、金属を引っ掻くような音が響く。それがセルお母さんの笑い声だと気付くには、少し時間がかかった。
「生命が、強靭か。あんなに脆弱な存在が、実は強靭なのか」
「そうなのだ!セルリアンは強いし、大きくて怖いけど、どんどん大きくなったり、お前みたいに話せるようになったり、いろいろ変わったりするけど、それだけで強いわけじゃないのだ。アライさんはオーロックスみたいに強くないし、恐竜?みたいに大きくないし、飛べないけど、仲間がいーっぱいいるのだ!フェネックもいるし、無敵の布陣なのだ!」
アライグマがフェネックの前に立ちはだかる。
「命は、命を生むのだ。きらめきを奪うことしか出来ないセルリアンは、か弱い存在なのだ」
セルお母さんは目をさらに見開いて、目を細め、吐息のように呟いた。
「セルリアンが、か弱いのか。個体の強さが、種の強さではないのか。あれだけ繁栄したヒトが消え去るように、我らも…」
フレンズ型セルリアンを倒し、指揮系統を失ったセルリアンは明らかに動きを鈍らせ、連携もできないまま各個撃破されている。戦場は混戦模様だ。
「行けそうだな」
「ですが、怪我人も多いですよ!」
ミーアキャットがチベットスナギツネに報告する。
「あともうちょっとだ、踏ん張れ!」
「わかってますけどね。チベスナさんて、案外猛将ですよね」
その時、夜空が明るく輝いた。しかし夜明けにはまだ少し時間があるはずだ。
「待ってたぞ!」
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