第9話 かばんのもとへ、風のように

「こっちなのだ!パン?のにおいが続いているのだ!」

アライグマの鼻を頼りに、夜の闇を、オープンカーのライトが切り裂いてゆく。どうやらかばんが機転を利かせてパン屑を落としていったようだ。

「信頼されてるねぇ、アライさん」

「おまかせなのだ」

しばらく走ったところで、反対方向に走るフレンズとすれ違った。二人、三人。その数は次第に増え、中にはのそのそと走るチベットスナギツネもいた。

「何があったの、チベットスナギツネ!」

車を飛び降りて、サーバルが駆けつける。

「ああ、サーバルか。どうもこうもない、セルリアンどもにやられてこのざまだ」

「かばんちゃん、見なかった?」

チベットスナギツネの顔が曇る。

「かばんは、セルリアンに喰われた」

サーバルは、しばらく言葉の意味を飲み込めないでいた。やがて理性が感情を押さえつけると、絞り出すように言った。

「かばんちゃんは、やられたりしない。きっと私たちを待ってる」

「私は見たんだ!かばんが私たちを助けて、セルリアンどもに飲み込まれて…もうきっと…」

「大丈夫。かばんちゃんは大丈夫。行こう、助けに」

サーバルの目は、悲しみに打ちひしがれることはない。闘志のような、強い決意の眼差しで、再び車に乗り込んだ。

「出発スルヨ」

車はアクセルを全開にし、真っ直ぐに走る。

「もっと、泣き喚いたりするかと思ったのだ」

アライグマが、真っ直ぐに前を見据えたまま話しかける。

「そんな暇ないよ。諦めないって、かばんちゃんに教えてもらったんだから」

サーバルは口元を一文字に引き、わずかな痕跡を見つけようと集中した。

「この前の大きいセルリアンより、もっと大きいのが2体いたって言ってたからー、砂地だと跡が残ると思うんだよねー」

フェネックが辺りを見回す。砂漠は大きく畝り、先には灌木や草地も見える。砂漠は、砂だらけの一様なものではない。

「どういうこと?」

「ヒトコブラクダが、フレンズみたいなセルリアンを見たって言ってたのだ」

「痕跡を消すならー、岩場や草地を行くと思うんだよねー」

「ボス、何かわかる?」

「赤外線の残留がアルネ」

車は草地を走る。かばんのもとへ、風のように。

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