第3話 入り江にて
入江は砂漠をしばらく進んだところにあった。キョウシュウエリアはちほーごとに気候も様々だったが、ゴコクエリアでは砂漠と、オアシスしか見ていない。久しぶりの海に、アライグマもウキウキしているのが見てとれる。
「わあ!なにあれなにあれー?おっきーい!」
入江にあったのは、巨大な鉄の壁だった。
「ラッキーさん、あれは何でしょう?」
「あれは船ダネ。海を航行する乗り物ナンダ」
「乗り物?バスの仲間なのかな」
船の傍らにはジャパリバスの客車部分が砂浜に乗り上げていた。遠目で見る限り、大きな損傷はなさそうだ。
「アライさんは、あの船ってやつを探検してくるのだ!きっとお宝があるのだ!」
「わたしも付き合うよー」
「じゃあ、わたしはバスを見てくる!お腹すいたし、じゃぱりまん持ってくるよ!」
バスの客車には、誰もいない。
「なんにもないねー」
サーバルとニホンオオカミがジャパリバスを覗いてみたが、たくさんあったはずのじゃぱりまんは姿も形もなかった。
「じゃぱりまん、なかったよ」
サーバルが肩を落としながら戻ってきた。
「海に落っこちちゃったんでしょうか」
「ちゃんと縛っておいたし、ひとつもないなんておかしいよ。誰か持っていっちゃったんじゃない?」
「持っていく?誰かが盗んだということかな。おなかがすいてたのかもしれないね、サーバルちゃんみたいに」
そう言われたサーバルは、不満そうだ。
「でも、おなかがすいたら、ボスからもらえばいいのに」
「そういえば、この島に来てから、ラッキーさんたちを見かけたことありますか?」
サーバルは首を振った。
「そういえば、その壊れたボスしか見てないよね」
「なになに?ボスって誰?」
ニホンオオカミが不思議そうな顔で二人を見る。
「ボスっていうのはねー、ラッキービーストっていうんだよ!」
「ラッキービーストのことか。1回見たことあるよ!」
「え?ちょっと待ってください。じゃあ、食べものはどうしているんですか?じゃぱりまんは?」
「じゃぱりまんって?食べものはねー、前はお姉様が持ってきてくれたのを食べてたんだけど、今は木の実とか、虫とか食べてるかな」
「虫?美味しいの?」
「美味しいわけないよ。でも、仕方ないんだ」
ニホンオオカミは寂しそうに、少し笑った。
船の扉は開いていた。
外壁をよじ登ったアライグマは、フェネックを引き揚げると船内に足を踏み入れた。
「ちょっと暗いのだ。フェネック、アライさんから離れないようにしっかり付いてくるのだ!」
「おー」
船内は薄暗く、足元にはさまざまなものが散乱している。
「ぐちゃぐちゃだねー」
ものが散乱してはいるが、それぞれは古びた様子はない。アライグマはずんずん進み、フェネックが続く。
船内は広いが立ち入りできない部屋も多く、ひと通り見終わるのに2時間とかからなかった。
「誰もいないのだ。でも、アライさんはお宝を見つけたのだ!」
ふふん、とアライグマが自慢気に鼻を鳴らす。
「これ、なんだろねー」
「わからないけど、きらきらでピカピカなのだ!きっとお宝なのだ!」
「わたしは、こんなの見つけたよー」
「…それは?なんなのだ?」
「なんだろうねー」
フェネックが取り出したのは、一冊の手帳だった。
「かばんさん、それなにかなー?」
「ええと、なにか書いてありますね。ただ、水で滲んじゃって、ところどころしか読めないけど…読んでみますね」
かばんは、ラッキービーストにも見えるようにレンズを手帳に向けて、ページをめくった。
「ミルク1パイントを買っ…くること。ミルクってなんだろう」
「ミルクは、栄養のある飲み物ダヨ。哺乳類の乳で、主に乳牛の乳ダネ」
ラッキービーストの解説が挟まる。
「…今日は最良の日だ…早く会いたい…わたしの宝石…宝石、か。アライさんがよく言うお宝のことかな?えっと、それから…まさかセルリ…セルリアンかな?が、街にまで…ラッキーさん、街ってなんですか?」
「街というのは、ヒトがたくさんいる地方のことダネ」
「ヒト?かばんちゃん、ヒトだって!そこに行けば、かばんちゃんの仲間がいるのかな?ねえボス、ジャパリパークにも、ゴコクエリアにも、街ってあるのかな!」
「…」
「…」
「ラッキーさん、ゴコクエリアにも街はあるんですか?」
「管轄が違うから場所まではわからないケド、あるはずダヨ」
「行ってみようよ、かばんちゃん!」
「ニホンオオカミさんは、ヒトを見たことありますか?」
「んー、そうだねー」
と、ニホンオオカミ。
「ヒトは見たことないな。でも街は知ってる。ラッキービーストがたくさんいるの。でも怖くて、わたし達フレンズはあまり近寄らないようにしてるかな」
ニホンオオカミは身震いした。過去に怖い思いでもしたのだろうか。
「怖い?ボスが?」
「うん。街に入ろうとすると、道をふさいだり、君たちのバスの、もっと大きいやつで追いかけてきたりするの」
ニホンオオカミはバスを指差して、身振りで大きさを表わそうとしているが、成功しているようには見えなかった。
「え?ラッキーさんたちがそんなこと?どういうことでしょう」
「どういうことだろね。んー、わっかんないや!きっと行ってみればわかるよ!」
サーバルは考えても答えが出ないことはさっさと切り替える、ある意味ポジティブさを発揮した。
「街って、どんなところですか?」
「街はねー、山みたいにおおっきな建物?が、いーっぱいあるの!木もたくさんあるから、きっと水があると思うんだけど」
「そういえば、ニホンオオカミさんは砂漠が得意なフレンズさんなんですか?」
「わたしが?砂漠は苦手だよー。ここも昔は木がいっぱいあって、川があって、涼しかったのに、いつのまにか砂漠になっちゃった」
この入江から崖をひとつ登れば、わずかなオアシス以外は見渡す限りの砂漠だ。
「そうなの?合わないちほーは寿命を縮めるって、博士も言ってたよ?」
「そう…だね。砂漠出身のフレンズはいいけど、わたしみたいに砂漠が苦手なフレンズは、水をたくさん飲みたいから、さっきのオアシスに集まってるの」
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