第2話 朽ちたラッキービースト

「とにかく、入江に行ってみようよ!」

サーバルがかばんの腕を引く。

「サ、サーバルちゃん、その前に水を飲まなくちゃ」

「アライさんも干からびちゃうのだ」

アライグマもへばった様子だ。

「そうだねー、じゃあー、オアシスに行ってみよーか」

フェネックが先頭に立つ。

「オアシスってなんですか?」

「さばくちほーの水場ダネ。デモ、管轄が違うカラ、マップデータがだうんろーどデキナインダ」

かばんの左手で、ラッキービーストが答える。

「フェネックちゃん、わかるの?」

「エリアは違うけどー、さばくちほーはわたしのホーム、だからねー」

砂漠の砂の畝を一つ、二つと超えると、砂はやがて固く締まり、先に忽然と森が見えた。

「こっちだねー。水の臭いがするよー」

フェネックが導くまま進むかばん達の前に、思ったより大きな池が現れた。

「なんだか、カバさんを思い出しますね」

池にはフレンズはいなかったが、砂漠に棲む野生の動物達が水を飲みにきていた。それぞれかばん達を警戒はしているようだが、慌てて離れる動物はいない。

「わたし達もお水飲もーよ!」

サーバルが池に顔を突っ込んだ。

十分に水を飲むと、一行は木陰伝いに歩く。吹き抜ける風が、ここが砂漠の中であることを忘れさせた。

森はいよいよ深く、わずかな木漏れ日が下生えを照らしている。

急にアライグマが立ち止まった。

「どうしたの、アライさん?」

「あっちで何か光ったのだ。きっとお宝なのだ!」

そう言うと、アライグマは走り出す。フェネックが当然、という顔で後に続いた。

「かばんさん、あれを見るのだ!」

アライグマが指差すそこには、今にも下生えに飲み込まれそうなラッキービーストがあった。

どれほど長くここにあったろうか。あちこちのパーツが外れ、ヒビが入っている。

「ボス…だよね。ボス、死んじゃったのかな」

サーバルがラッキービーストを抱き上げる。

「ラッキーさん、このラッキーさんはもう動かないんでしょうか」

「リンクを試してみるね。接続中…接続中…」

かばんの左手のレンズが、激しく点滅する。

「…バージョンが違います。バージョンアップしてください」

「バージョン?」

「どうやら、完全に壊れたわけではないみたいダネ」

「助けられるってこと?」

サーバルが身を乗り出す。

「そうなんですか、ラッキーさん?」

「どうかな、AIニューロデータが欠損しているかもしれないネ」

かばんは、かばんに壊れたラッキービーストを入れた。残った片耳が、隙間から顔を出す。

「よくわからないけど、とにかくこのラッキーさんを連れて行きましょう!きっとこの島にもラッキーさんは他にもいるはずだから、直せるかもしれないですし」


再び歩き出そうとすると、突然かばんの顔に影が落ちた。

「セルリアン?」

アライグマを突き飛ばし、フェネックが身構える。

「な、なに?」

フェネックは突然、柔らかなものに抱きつかれた。

「ぶへぇ」

変な声をあげて、アライグマが泥に顔を突っ込む。

フェネックに抱きついたのは、どうやらフレンズのようだ。

「お姉様の匂いがする!どこかな?ここかな!」

フレンズはフェネックを離すと、今度はかばんのリュックを掴んだ。

「うわぁあぁ、取らないでくださーい!」

慌ててかばんもリュックを掴む。しかしそのフレンズは素早くリュックを開けると、中のラッキービーストには目もくれず、なにやら紙の束を取り出した。

「これから!これからお姉様の匂いがする!」

それは、ロッジでかばんがもらった、タイリクオオカミの漫画だった。

「タイリクオオカミ、知ってるの?」

サーバルが訊いてみる。

「もちろん!わたしはニホンオオカミ!お姉様とはずっと一緒の群れだったの!でも、ある日突然いなくなっちゃって…」

「そうなんだ。わたしの知ってるタイリクオオカミは、キョウシュウエリアのロッジで、漫画を描いてたよ!」

「漫画?漫画って何?お姉様は強くて、セルリアンハンターをやってたんだよ」

「セルリアンハンター?そんな話はしてなかったなー」

「そっかー、お姉様はキョウシュウエリア、にいるのね!わたしも付いて行っていい?」

「いいけど…かばんちゃん、どうする?」

「ぼくたちはこの島のこと知らないし、道案内お願いできますか?」

「もっちろん!どこ行く?」

「まずは入江、かな。そこにバスの後ろがあるっていうので」

「入江なら、あっちだよ!」

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