第1話 砂の旅団
「かばんさーん、暑いのだぁ」
日中の砂漠は50度近くにもなり、ジャパリバスの天井に乗ったアライグマの体力を奪う。
「おなかすいたねぇ、アライさん」
フェネックが横にいるアライグマをじとーっと見る。その視線には微量の怒りが含まれているようだ。
「フェネックは涼しい顔してるのだ、羨ましいのだ」
「もともと砂漠出身だからねー。それより、バスの後ろにじゃぱりまん置いてたから、お腹すいて倒れそうだよー」
「もう責めないであげてよ、フェネックちゃん」
助手席でかばんが微笑む。
「ごめんなさいなのだ、フェネック…でも、あの時はああしなきゃ、セルリアンに食べられちゃったのだ!」
「海でセルリアンに襲われるなんて、びっくりしたよー」
サーバルがうなずく。
「みんな無事だったんだし、はぐれないで済んで良かったじゃない」
「そうだけどー」
「まずは、じゃぱりまん持ってるボスを探さなきゃね!」
砂漠は広い。砂煙をまき上げながらジャパリバスをいくら走らせても、見えるのは砂ばかりだ。
「ボス、いないね」
「フレンズもいないけどねー」
その時、耳のいいサーバルとフェネックの耳が、かすかな遠くの音を捉えた。
「かばんちゃん、あっちに何かいる!」
「ラッキーさん、お願いします!」
「近づいてみるね、かばん」
腕時計型になったラッキービーストが、かばんの声に応えて進路をやや右に変える。
「並走するね」
かばんの耳にも、なにかをこするような、低い音が聞こえてきた。
そして、砂の海を突き破り、黒いような、紫のような巨大なものが飛び出してきた。
「かばんちゃん、あれ」
「おっきなセルリアンなのだ!」
「あそこ見て!」
「あの子が襲われちゃう!」
かばんが目を向けると、セルリアンの進行方向にはうずくまったフレンズがいた。どうやら亀のフレンズのようだ。
「かばんちゃん、助けなきゃ!」
「うん、サーバル ちゃん」
「でもどうするのさー?」
「みんな、飛び降りて!」
そう叫ぶと、かばんはアクセルを開けた。
ぶつかる寸前にかばんが飛び降りると、ジャパリバスは大型セルリアンの横っ腹に突っ込んだ。
「きゅう!」
アライグマは着地に失敗したらしく、砂に突き刺さっている。
セルリアンは衝撃でわずかに体勢を崩したが、致命傷ではなさそうだ。だが、襲われた亀のフレンズを助け出すには十分な時間を稼ぐことができた。
「はやく、こっちへ!」
「あ、うん、えーとありがとう」
亀のフレンズはなんだか要領を得ない。
仕方なく、サーバルがフレンズを担いでその場を離れた。
「2番隊、前へ!セルリアンを牽制!1番隊は右翼から回り込め!包囲殲滅する!」
大きくはないが、通る声が響き渡った。
同時に、雄叫びがあたりを覆い、今までどこにいたのか、大勢のフレンズたちが走り出す。
ある者はロープでセルリアンの脚を絡めとり、ある者はセルリアンの背に飛び乗り、ロープを引っ掛ける。
ついには大勢でセルリアンを引き倒し、硬い殻に包まれた石を引き剥がした。
訓練された流れるような、一つの生き物のような動きで、大型セルリアンが消滅するまで、あっという間の出来事だった。
「大丈夫ですか?ぼくはかばん。この子はサーバル ちゃんと、アライさんと、フェネックちゃんです」
「ああ、ありがとう…な。私を助けようとしてくれたんだね。まあ、あれは作戦だったんだけどな」
「作戦?」
「私たちは、砂の旅団だ。私は防御隊長のケヅメリクガメだ。バス、壊れちゃったな、悪いことしたな」
ケヅメリクガメが前半分が潰れたジャパリバスを見遣る。
「そんなことより、作戦ってどういうことですか?」
かばんは顔を真っ赤にしてケヅメリクガメに詰め寄った。
「最も耐久力のある私を囮にして、大型セルリアンを誘い出す。付近に配置した伏兵を、タイミングを合わせて動かし、包囲殲滅。何度も試行錯誤した、せんじゅつ…?なんだってさ」
「そんな!危ないじゃないですか!ケヅメリクガメさん、食べられちゃったらどうするんですか!」
「い、いや、大丈夫だって。もう何度も成功してるし。今回だってやっつけただろ?」
「でも!もし食べられちゃったら、もうお話しできなくなっちゃうんですよ!フレンズのみんなのことも忘れちゃって…とにかく危ないのは…」
かばんの肩は小刻みに震え、歯の根が合わなくなっていた。サーバルがそっと、かばんの肩に覆いかぶさり、震えを止めようとする。
「ねえ、ケヅメリクガメ。ケヅメリクガメの友だちは、もしケヅメリクガメが食べられちゃって、自分のこと忘れちゃだたらどう思うかな」
サーバル が諭すように言う。いつもの元気なサーバルとは別のフレンズのようだ。
「そんな危ない真似までして、なんでセルリアンをやっつけるの?みんなはハンターなの?」
サーバルの問いかけに、眼鏡をかけたフレンズが答える。
「ハンターと一緒にして欲しくはないな。あんな自己顕示や趣味でやってるわけじゃ…まあいい。とにかく、早くこの島から出て行くんだな。他の島から来たんだろう?」
「どうして知ってるのだ?」
アライさんが目をまんまるにする。
「ジャパリバスの後部車両を見つけたからな。運べないから、まだ入江にあるはずだ」
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