第5話

 ディランの葬式が執り行われた。周囲には教会の子供達と俺とシスターだけでディランの冒険者仲間はいない。おそらく彼が裏で盗賊団と繋がっていたのがわかり表立っては参加できなかったのだろう。代わりに花が使者を通じて渡された。彼が好きなユリの花だった。

「今ごろディランは何をしているかな」

「きっと天国で私たちのことを見守っていますよ」

 シスターは優しくそう呟く。ディランが裏で教会に無理矢理借金を背負わせたことが明るみに出て神父は去ることになった。子供達のことが心配だったが彼らはかたくなにそれについて話すのを拒否するのだった。

「子供達の心のケアもしないとな」

 おそらく辛い目にあったのだろう。幸いだったのは子供達が外に追い出されるのを防げたことくらいか。

「私たち振り出しに戻ってしまいましたね」

「借金はないからゼロからのスタートだろ」

 教会だけは残っていたので居場所はある。それが救いだった。

「なあ、俺新しく挑戦したいことがあるんだけど」

 俺はいつも臆病で一歩踏み出せずシスターに頼ってばかりだった。そんな自分を卒業したくて結果的に自分一人で生きることを考えた。

「俺たち二人で新しく花畑を作らないか」

 ディランが好きだった花を集めてそれを育てる。それが一番の供養になると思うから。

「そうですね。彼もきっと喜びます」

 シスターは彼の心の闇をつくってしまったのが自分だと悔いていたらしい。

 どこか寂しげな表情だった。

「本当はさ、もっとかっこよく邪魔するつもりだったんだ」

「正直あなたの格好汚かったですよ」

 おどけた口調でそういうとシスターはふふっと笑う。

「でもあなたは私のヒーローでした」

「俺、いつも心配ばかりかけてた気がするけど」

 子供の頃は三人で仲良くしていたけれど成長するにつれて方向性はバラバラになっていった。俺はいつも失敗ばかりしていて神父に怒られていた。だからエリサとディランが怒られていたときは必ずかばっていた。といっても二人はへまはほとんどしなかったけれど。

「辛いときも悲しいときもいつもアンジェロがいてくれましたから」

 そんな俺にたいして厳しい言葉を向けていたのも懐かしい。

「やっぱり免罪符売るのよりもっといいことしないとな」

 楽して生活できるわけではないがこれから借金もなくなり子供達と一緒に畑を耕しての生活になる。それが楽しみだった。

「じゃあな。ディラン。天国でも俺に妬くなよ」

「アンジェロの自惚れや」

「その自惚れやに惚れているのは誰だったっけ」

「……秘密です」

 これからはみんなが家族だ。だからみんなで笑いあえるようなそんな未来が来るのを楽しみにしている。

「もう二人ともいちゃいちゃしないでよ」

「悪い悪い」

 子供達も楽しそうにはしゃいでいる。この幸せがずっと続くといい。そんな思いで俺たちは教会に戻るのだった。

「バイバイ」

 最後に振り返ったとき、ユリの花びらが宙を舞っていた。

 それがディランの返事だったのだろう。

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もう異世界は勘弁してください 野暮天 @yaboten

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