第4話

教会を出た俺に待っていたのは過酷な生活だった。食料はほとんど手に入らず町の門の前をうろうろしていると案の定身なりの悪い男に出会った。

「よっ坊主、そろそろ神様を恨みたくなったか」

「あいにく俺は信心深いので」

 宿に止まるのにも金がかかるのでその辺で雑魚寝していたのが運のつき。

「お前さんに良い話がある」

「どうせ悪事の片棒担がされるんだろう」

 そういい返すと男は愉快そうに笑った。

「こんなところにいるんだ。どうせ宿無しの浮浪者だろ。せっかくだから俺たちに付き合えよ」

「嫌だといったら」

「ここで野垂れ死ぬことになるな」

 早かれ遅かれそうなると決まっているようだ。冒険者というよりは盗賊団の一人だというのはなんとなく察しがついた。

「俺たちの仕事につけば寝場所は保証してやるぜ」

 その言葉につられたわけではない。それにこれ以上話していても埒があかない。

「その話断らせてもらう」

「本当にいいのか。俺たちのバックには大物がついているんだぜ」

 その話がどうしてか気になった。彼らは犯罪集団の一員でおそらく裏の事情にも精通しているのだろう。

「ずっと秘密にしていたんだがな。まあこんなところに溜まっている坊主にだから言うがな」

 とあるギルドの後始末をしている連中だということだった。冒険者たちは用心棒を生業にしている人間も多くその裏で貴族の装飾品をかっぱらいっているそうだ。

「最近結婚すると決めた裏切り者がいてな。俺たちのことを切り捨てるつもりらしい」

 ずっと協力していたのにひどいもんだぜと笑う。

「だからそれをめちゃくちゃにするために今から脅しにいくのさ」

 相手は大きなギルドだから不意をついて侵入する予定らしい。

「それで坊主、神の祝福をしたいとそういえば全部かたがつく。托鉢僧だとでも名乗ればいいさ」

 そして衣服を剥ぎ取られボロボロの装束を渡される。

「汚いな。その話のどこに俺の旨味がある」

「じゃないとここでぼこぼこにしてやってもいいんだぜ」

 男は低く笑い、無理矢理俺を引っ張っていく。

「駄賃は弾むぜ」

 全く嬉しくない話だった。


***


 連れていかれたのは貴族の邸宅だった。豪奢な家具に囲まれ俺たちは場に不相応だった。

「どちらさまですか」

「本日結婚されるご夫婦に神の祝福を」

 それっぽい感じでうつむきがちに呟く。どうやら結婚式の最中だったらしく邪魔そうな顔をされる。

 そして同じく装束をまとった男が合図を送る。

「新郎新婦に祝辞を」

 そして俺がそれっぽく言葉を発すると新郎が絶句していた。どういうことだろうと思えば相手はディランだった。

「どうしてお前がここに」

「悪いな」

 そういうや否や乱暴な男の手にはナイフが握られていた。

「裏切り者には死を、だ」

 そしてズブリと腹部を刺される。そこからどくどくと血が溢れ新婦のドレスにも血がべっとりとついていた。

「アンジェロどうして……」

「一緒に逃げよう」

 俺はそのままエリサの手を引いて駆け出す。もうなりふりなど構っていられない。

「ははっ坊主、それがお前さんの挑戦か、悪くないな」

 粗野な男はおかしそうに笑う。

「あんた、全部知ってて……」

「持ってけ泥棒」

 男は金貨の入った袋を投げてくる。ずっしりと重い袋を抱えながら俺たちは走った。

「これで借金は全部チャラだぜ」

 それに金を貸していた本人が死んだからなと笑う。

「こいつは自分のほしいものを手にいれるために教会に借金を負わせたんだ。新たな事業を始めさせるとかいう話でな」

 だから負い目を感じる必要なないと告げる。

「だけど」

 俺たちの幼馴染みは今にも息絶えようとしていた。

「俺はただエリサがほしかっただけなのにな。どこで間違えたのだろう」

 端から見れば才覚に恵まれたディランだったが心に闇を抱えていたのだろう。

「俺は力と金がほしかった。だからどうしても裏の繋がりが必要だったんだよ」

 それを結婚を機に縁を切ろうとした。それがことの顛末だった。

「俺たち、親友だよな。だからさ頼みたいことがある」

「なんだ」

「シスターを幸せにしてくれ」

 おそらく彼も転生者だったのだろう。だからこそ裏の世界に足を踏み入れた。最初は俺みたいに不本意だったのかもしれないがだんだん染まっていた。

「わかったよ。俺を信じてくれディラン。俺たち唯一の幼馴染みなんだから」

「そういってくれると救われる」

 苦しそうに息をしながらその目はエリサに向けられていた。

「シスター俺のわがままに付き合わせてすまなかった。最後だから言いたいんだ。君は最後まで俺を幼馴染みとしてしか見てくれなかったけど、君を愛していたよ」

「もういい。それ以上しゃべると」

「君を……愛していた」

 そして彼が事切れるのを最後に俺たちは邸宅をさった。

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