第3話

  挑戦しないから。エリサにそういわれて俺は自分の不甲斐なさを恥じた。もし仮に俺に力があって二人の結婚を止めようもんなら周囲の反対は目に見えていた。幼馴染み二人に嫉妬する大馬鹿者。それが周囲の評価だった。

「それでなんで僕たち教会の前で並んでいるの? 」

 今日は新しい神父が来る日だった。だから子供達は一丁裏で彼が来るのを待つ。俺は神父というものにあまりいい思い出がなかった。彼らは聖職者といえどビジネスで動く人間だ。神に仕える身といえど子供達に折檻し神のご加護とか言って嘘八百を言うんだから信用できない。

「新しい神父さまが来るからだよ」

「アンジェロ嫌そうな顔してる。きっと追い払う気なんだ」

「そんな権限俺にないよ」

 おそらく幼馴染みのディランが所属するギルド関連の人間なのだろう。冒険者たちはこの教会を拠点にしたいと言っていたから俺たちの居場所がなくなるのも時間の問題だ。

「それで作戦はあるの? 」

「ない」

 あったらここで苦労しない。そう言いたかったががっかりした顔をされたので言葉を飲み込んだ。

「さあとにかくお出迎えだ。粗相のないようにな」

「それは僕たちの台詞だよ」

 そうやって子供達はこまっしゃくれたことを言ってくる。意外にも大人びた発言に俺は感慨深くなった。

「ディランとシスターが結婚するのって本当に止められないの? 」

「ああ、結婚式に乱入するくらいのことしないと無理そうだな」

 婚約はしてしまった。そして彼女は花嫁となるべくディランのいる城に囲われている。

「だったらさ。奪っちゃえばいいじゃん」

「でも借金はどうなる? 」

「それもアンジェロがどうにかすればいいだけの話だよ」

 現実的なのかそうでないのか。俺には土台無理な話だ。でも子供達は真剣だ。

「実を言うとね。僕たちシスターとアンジェロが結婚するものだと思ってたんだ」

 そして俺の手を握りしめる。

「僕たちからもお願い。シスターを助けてあげて」

「……わかったよ。で、方法は? 」

「そんなのアンジェロが考えるに決まってるじゃん」

 結局人任せかよと笑いそうになったが子供達の言葉に勇気付けられている自分がいた。

 少しだけ笑みを浮かべて頭のなかで計画をたてる。

 これが成功すればエリサは戻ってくるだろう。その一縷の希望にかけていた。


***


「おやおや君がアンジェロでしたか。私が新しく派遣された神父です」

 その男はなにがおかしいのかにやにやと笑っている。おそらく俺の噂を聞いて見下ろしているのだろう。

「シスターからは聞いています。これからは私が子供達の世話と教会の運営を担わせてもらいます。そしてあなたにはここを出ていってもらいます」

 そういう算段らしい。彼は俺に向けて手を差し出す。

「よろしいですか」

 その笑みが気持ち悪く俺は嫌な気分になった。

「これからこの教会は私たちギルドのものとなります。子供達もいずれは巣立つでしょう。丁稚奉公に出すことも考えなければいけませんね」

 そしておかしそうに笑う。彼にとっては俺たちは邪魔な存在でしかないのだろう。

「新しい神父さまはずいぶんと色々悪巧みをしているようだ」

「悪巧みなどしていませんよ」

 否定はするが本心ではちがうのだろう。

「ただ働ける人間は外に出ていかなければならないというだけの話です」

「アンジェロいなくなっちゃうの」

 いつもは能天気な子供達も不安げな顔をする。

「いや、俺はさ新しく挑戦するんだ。だから少しだけ待っていてほしい。必ず守って見せるから」

「ずいぶんと威勢のいいことで」

 神父は俺のことを完全に追い払ったつもりなのだろう。

「この教会を出て何ができるのでしょうね」

「神のみぞ知るだ」

 そうやって返すとやれやれと男は肩を竦める。

「出ていってからが楽しみですよ」

 そして俺はその日生まれ育った教会を後にするのだった。子供達を残して、

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