第2話

 エリサとディランが結婚。町中はその噂で持ちきりだった。そして俺はというと。

「……どうしてなんだよ。やっぱり俺じゃダメなのか。確かに教会に引きこもっているダメニートだけどさ」

 こんなこと言えるのも俺が転生者だったからだ。幼い頃から現世の記憶を有していたが運には恵まれなかった。

 大体小説の中では特別な才能があるとかチートな能力があるとかそんな話もあるはずだが、幸か不幸か俺は生まれてまもなくして教会に捨てられた以外は特別なことは何一つなかった。

 俺とエリサとディランは小さい頃から同じ教会で喧嘩をしながらも仲良くしていた。それが変わったのは約六年前。ディランが勇者として教会を出ることになったからだ。

 確かにうだつの上がらない俺と違って彼は稀有な才能を持っていた。勇者としては武術の誉れも高く、頭も切れ文句の付け所のない男だった。

 対する俺はというと。シスターのエリサに頼りきり。端から見ればなにもしていないヒモのような生活をしていた。

 しかしこの度の婚約でエリサは教会を離れなければならない。彼女なしで教会の運営ができるのか。俺には荷が重い。ただ不安だった。

「って考え事しても無駄だよな。エリサの婚約で教会の借金はどうにかなるってことなんだけど、どこか腑に落ちないな」

 なんだか裏がある気がする。といっても根拠はなかったが。

「アンジェロ、またサボってる」

「うるせえ」

「悪い言葉を使ったらいけないんだあ」

 教会の子供達がわらわらと集まってくる。彼らは事情がわかっていないらしくただ嬉しそうにしてる。

「これからエリサさまはディランさまと結婚するんだよね」

「まだ婚約の段階だけどな」

 自分としては二人が結ばれるのは複雑だったが子供達は自分達のよく知っている人間が幸せをてに入れたということに素直に喜んでいる。

「じゃあさ、アンジェロもいなくなるの? 」

「俺は離れないよ」

 というかこの場所を離れたら行く場所ないし。それに子供達を放っておくわけにもいかない。エリサも当然そのつもりだろうが、いざ結婚が現実味を帯びてくるとやはり不穏な空気が流れる。

「アンジェロ全然ダメじゃん」

「相変わらずやる気ないよね」

 子供達は俺の気持ちを知ってか知らずか軽口を叩いてくる。

「いいんだよ。俺は他にやらないといけないことがあるから」

「なになに? 」

「秘密」

 細かい情報を捕まれると今後身動きがとりづらくなる。それなので詳しいことは一切話さないでいた。

「みなさん、何を話しているのですか? 」

 いつもの修道服ではなくきれいなドレスを身にまとった少女が口を挟む。そうだ。婚約の儀の準備のために着替えていたようだ。

「ええ。エリサさまの婚約がいつになるか話してたの」

「そのことですか。みなさん心配はありません。私がここを去ったあとも新たな神父さまがいらっしゃるから」

 どうやらあたらしい人員が派遣されるらしい。全然聞いていなかったので寝耳に水だ。

「神父って、俺嫌いだ」

「嫌いでも世の中受け入れなければならないことがあります」

「それはエリサの婚約のこともか」

 すると彼女は口をつぐむ。どうやら本人も心のそこでは不本意だったと感じているのだろう。

「……あなたに相談もなく決めたことは悪いと思っています。だけどあなたもそろそろここを離れた方がいいでしょう」

「そんなこと俺にはできない」

「それはあなたが新しく挑戦しないからだけです」

 きつい口調ではあったがどこか寂しげでもあった。

「だったらさ、俺挑戦する。ここの借金返して、婚約も取り消してもらう」

「そんなことも無理です」

 どうやらディランとの婚約については彼女も思うところがあるのだろう。

「でも借金のせいでエリサは出ていかないといけないんだろ」

「……それだけではないのです」

 彼女によれば冒険者たちがこの土地を狙っているらしい。拠点を作るためにということだろうか。

「いずれにせよ早かれ遅かれこういう事態にはなっていたはずです。あの人の予定では私がいなくなるのが目的のはずですから」

「エリサは本当にいいのか」

「私一人が納得すれば解決する話です。アンジェロに何ができるんですか」

「なんだってできる」

 そういい返すと少女は苦笑する。

「実を言うと私はあなたのことが嫌いではないんですよ。いつもきついことばかり言って煙たがれているのはわかっていましたが、本当は……」

 彼女は言葉につまり、瞳からはポロリと涙がこぼれ落ちる。

「ごめん。辛いのはエリサも変わらないよな」

「もう行きます。教会の子供達の面倒はしばらく任せますが、派遣された神父さまが世話してくれると約束してくれました」

 そうして空気が悪くなったのを悟ったのか子供達がおそるおそる少女の顔をのぞく。みんな心配なのだろう。

「泣いても仕方のないことですから」

 それが彼女の覚悟ということが伝わってきた。

 俺も覚悟を決めないと。そう決意したのだった。


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