不死人のハッピーエンド・後

 命あっての物種だ


 叩く。叩く。叩く。

 開くはずのない、一度閉じたら機動が終わるまで開く設計は一切されていないガラスを何度も、何度も、拳を握りしめながら叩き続けていた。頭のどこかで彼は、この行動に意味が無いとわかっていたが、それでも叩き続ける事しか出来なかった。


 不死人と呼ばれた男は分厚いガラスから見える絶望しきった男の顔を見て、表情を綻ばせた。彼の目の前には丁度人が一人入れる大きさのポット型の機械がある。中にはガラス越しに叫んでいる白衣の男の姿。口は必死に叫び訴え、瞳は涙をため絶望を映し出していた。不死人がこの中からどんなに叫んでも聞こえなかったように、白衣の男の声もまた誰に聞こえる事も無かった。


 聞こえないのだから仕方が無い。


 不死人は電子レンジのタイマーを回すように、手元に光るデジタルの数値を上げていった。表示は百という数字を超えて設定された。

「一が人間の一年って死ぬ前に教えてもらったよ。百って設定したらあんたは何歳になるんだろうな」

 目の前の男には聞こえる事も無いだろうが、ただ言いたくなった。数字は彼に見える事が無かったが、不死人の行動から機械が起動した事を知った白衣の男は、いっそう強くガラスを叩き続ける。


 誰に届く事も無いのに。

 ああ、滑稽だ。


 自分もそう見られていたのだろうと、何度も殺されてきた今までの自分をその男と重ねていた。

 徐々に張りのあった肌は皺に埋もれ、瞳は落ちくぼんでいく。設定した数値にたどり着く頃にはどうなっているのだろうか。内に渦巻いた好奇心に、これがこれまで奴等が自分に対して抱いてきた感情かとこみ上げる笑いが抑えきれなかった。


「バイバイ。また生き返ったら何度でも殺してあげるよ」


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