不死人のハッピーエンド・前



永遠に生きるっていうのは気分のいいものじゃない。


人間が求める不老不死。

人類の悲願だ、求める未来のあるべき姿だといわれ続けてきた不老不死の一つの答えが、俺という生物だった。

外見は人間と変わらず生活も体の構造も何もかも同じだった。ただ一つ違うことは、老い死が訪れる際に細胞が若返りを始める。よぼよぼしわしわだった体中の細胞は一度死を迎えた後、その瞬間から年月を逆行する。何を言っているのか、あり得ないと、俺を取り囲む研究者は口々に言葉にし、そして俺が死んだ瞬間にそれまで口にしてきた数々の言葉を覆すことになった。


なぜ?どうして?


それは何より俺が聞きたい。


何度も、いや何十かもしれないし何百かもしれない死と生を繰り返してきた間、若返るたび記憶は都度リセットされるようにできていた。細胞自体が新しくなる事に近いせいだろうか、俺はそのたびに記憶をなくしていたそうだ。どうせ今回も忘れると思ったのか、数度前の俺の死の間際に近くにいた研究者の一人がそう漏らしていた。


俺が俺の意識を保てるようになったのはここ四、五回の間の事だった。

はじめは驚いた。死んだと思って眠りについた数日後に目が覚めた。あれだけ動かし辛かった体は若返りの効果で羽のように軽く、掠れた声は潤いを取り戻しはつらつと響き、霞のようにぼやけた視界ははっきりと自分の今いる場所、囲まれている奴等の顔を見ることが出来た。何が起こったのかわからないまま呆然としていると、何度もの事で記憶がないと思い込んだ研究者はろくに俺自身の状態を調べることもせずに、コンピューターへと何かを打ち込みを始めていた。


白い部屋、白い天井、気が滅入る続く白い世界は見覚えしかなかった。

死ぬ前の人生を何もかも覚えている。

この事実が自然と俺の気持ちを高揚させていた。


今までの俺は何度も何十回も忘れてきたのだろう。

この前の人生を。好き勝手に人生をいじられた俺の末路を。

急激に老いを強いられる機械があることも、その中に入れられ何も知らないまま使い物にならない老いた体にされ、何度となく衰弱死をさせられた事も。

奴等が、どうせ忘れるのだからと高をくくって俺についてきた数々の嘘も真実も、何もかも。


その後記憶は何度死んでも上書きされる事はなく、積み重なり蓄積されていく。記憶がないふりをした俺に気づく事もなく、奴等は忘れるからといろんな情報を漏らしてくれた。

死にそして生き返るたびに整っていく計画。それを知る事もなく。

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