第2話 思いよ貫けマジックアロー

 放課後、グランドに来て下さいと手紙にはそう書かれていた。魔法学園の風紀委員をしていると、たまに呼び出しの手紙を貰う。基本、校舎裏や屋上、使われていない教室など人目に付かない所に呼び出される事が多かったが、今回の奴はかなり大胆な事を考えていると思う。


 グランドで俺を倒す事で全校生徒の前で風紀委員を陥れようと考えているのだろう。また、戦闘は一対多の戦いを強いられる事も確定だろう。放課後という時間も授業で俺を疲れさせ、正常な判断ができないようにする事も考慮されている。全くもって今回の相手は考えれば考えれるだけやっかいな奴だと予想される。


 そして俺は今、グランドにやってきた。


 周りをみると、人の気配を感じない。相手はかなりの魔法使いと考えられる。まさか、この学園にここまで気配を消せる魔法使いがいた事に驚いた。むしろ、気配を消せるからこそ、今まで隠れていたのだろう。


「やっかいな奴だな」


 いやまて、俺はもしかしたら大きな勘違いをしていたのかもしれない。俺が呼び出されてきてやってきたグランドは、最早相手のフィールドと言っても過言ではない。俺は何も対策をせずに、のこのこやってきた。つまりグランド自体が大きな罠となり俺に脅威を迫る装置に過ぎないのではと考えた。


「C級の迷宮に来たと考えるのが妥当か。まんまとやられたぜ」




「先輩」


 俺は後ろを振り返り、声がした方向へ魔力探知を発動した。攻撃魔法の発動は、まだないな。俺は戦闘態勢の準備をして両手に魔力を集めた。


 屋上に人影が見えた。ここからだと距離があり過ぎて視認できないが、先程聞こえた声からすると女性と思われる。相手は声を魔法に乗せて、先輩と呼んだのだろう。中々の使い手だ。聞き間違いではないなら、先輩と聞こえた気がした。


 まさか、俺が知っている身内が俺を狙っていたのか。気づかなかった。


 俺は目に魔力を込めて屋上に立っている人影を見る。言葉が出なかった。そこに立っていたのは今年入った風紀委員の後輩だった。彼女はとても人懐っこく、真面目な女生徒だった事を記憶している。俺も何度か一緒に校内の見回りを組んだ事もある。


「おまえだったのか」


 俺も声に魔力を込めてそう発言する事しかできなかった。


「はい」

「何も言うな。全て分かっている」

「え?」


 彼女がひどく動揺した。自分が仕掛けた罠を見破っていると言ったようなものだ。相手も驚きを隠せないだろう。だが、それははったりに過ぎない。俺はまだ何も見破れてはいない。これは時間稼ぎに過ぎない。


 俺は彼女に気づかれないように魔力探知を行うが何も発見できない。彼女が息を整えてこちらに話しかけてきた。


「先輩がバレてしまっても、私はここで引くわけにはいかないんです」


 彼女が両手に魔力を込めた。


「そうか。だったら力の限りぶつかってこい。俺がお前の思いも含めて全て受け止めてやる」


 彼女がはにかむように微笑んだ気がした。


 マジックアローか。初球魔法として魔法の中では比較的に扱いやすく、遠距離魔法としては優秀で、主に牽制魔法として使用する事が多い。もちろん、相手にダメージを与える事ができるが、矢で相手を貫くか、魔法で貫くかの違いの為、ここまで距離が離れていると効果的な魔法ではない。


 矢というのは止まっている的に当てる事ができても、動いている的に当てる事は困難となる。相手の動きを予想し、次に相手がいる場所を予想して矢を射る必要があるからだ。


 魔法の形成が完了していた。本来が相手の攻撃など待つ必要がないのだが、俺はなぜかわからないが彼女から目をそらす事はできなかった。事情は分からないが彼女の必死な思いが伝わってきたからかもしれない。


 彼女が大きく息を吸い込んだ。来るか。


「先輩、好きです。付き合って下さい」


 彼女の言葉が魔法学園内に大きく木霊する。一瞬、彼女が何て言ったのか考えてしまい反応が遅れた。彼女から放たれたマジックアローを俺は右手に込めていた魔力で受け止め、マジックアローが二連射されていた事に気づく。


 寸分狂わずマジックアローを重ねて発射し、一つの魔法として思い込ませたのだ。


「くっ」


 俺は左手に込めていた魔力で二射目のマジックアローを受け止める。そして俺は認識をさせられた。


「優秀だな。まさか、ここまでとはな」


 二連射なんて生ぬるかった。彼女は今もマジックアローが連射続けていたのだ。俺は両手に魔力を込め続け息を整える。


「おもしろい。とことん付き合ってやるぜ」

「嬉しいです。こちらこそ、これからよろしくお願いします。先輩、大好きです」




 これが彼女からの告白だと知ったのは二時間後だった。

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