魔法使いの告白あるある

15まる

第1話 はじまりはファイヤーボールから

「好きです」


 彼女からの告白と同時に出てきた無詠唱魔法のファイヤーボールをどうするか俺は必死に考えた。


 彼女からの告白の答えを言葉にするなら俺も好きですとシンプルな一言だが、気持ちを受け止める事を考えると、今俺に向かっているファイヤーボールも一緒に受け止める必要がある。


 俺はファイヤーボールを受け止める手段を持ち合わせていなかったので、受け止める場合はファイヤーボールを直接くらわなければいけない。


 ゴブリンを一撃で倒す事ができるファイヤーボールをくらって、生きている事が出来るかが疑問だ。


 魔法防御力が高い俺ならば、プラス思考で考えると多少熱いかもしれないが受けきる事ができるかもしれないという希望的な観測もある。


 ただ、万が一受けきれない場合は、彼女との幸せライフを過ごす前に俺は還らぬ人となるだろう。そうなると彼女はひどく悲しい思いをしてしまい、告白した事を後悔してしまうかもしれない。


 告白の答えではなく、ファイヤーボールが俺を悩ませる。


 彼女に気持ちを返すという意味で、ファイヤーボールをカウンター魔法で跳ね返すのはどうだ?


 カウンター魔法なら得意なので、ファイヤーボールを打ち返す事ができる。だけど、打ち返したファイヤーボールを彼女が受け止める事ができるだろうか?


 彼女は告白をした事でひどく動揺しているので正常な判断ができない状態となっている。俺がファイヤーボールをカウンター魔法で返した場合に対応できない可能性がある。それ以前に彼女はファイヤーボールを受け止める事ができるかも分からない。


 彼女がファイヤーボールを避ける事はできないだろう。一流の魔法使いでもできる事とできない事がある。


 前提として考えてほしい。告白されるお互いの距離感は人が一人分くらいの距離だ。


 ここで話を折ってしまうが、今考えている思考は一秒にみたいない時間の出来事だ。何とか冷静を保ち、この短い時間で俺は思考速度を上げて考えに至っているが、それは事前にそういう素振りが彼女にあったので予測ができたからだ。


 しかし、ファイヤーボールまで無詠唱で飛んで来る事までは予測できなかった。


 俺もファイヤーボールを無詠唱し、ぶつけ合い相殺するというのどうだ?


 ぶつけた時の衝撃波で彼女もダメージをくらうかもしれないが、カウンター魔法で跳ね返すよりは現実的ではないか?


 いや、却下だ。お互い好意を持っているが、ファイヤーボールをぶつけ合う仲までは発展していないので早すぎるかもしれない。


 ウォーターボールもファイヤーボールとぶつかった際に熱い水蒸気が発生してより危険なので、この距離では実行に移せない。




 一秒に満たない時間が、何時間にも感じられる。


 いろいろな記憶が蘇る。


 最初から答えは決まっている。


 彼女が好きで惚れている時点で受け止めきるしかない。


「俺も好きです」


 俺は満面の笑みを浮かべ、ファイヤーボールを受け止めた。


 ファイヤーボールの衝撃で後ろに吹き飛ばされながら焼かれる。可能であればもう二度と経験したくない。


 無詠唱魔法だから威力が少し低下していた。今すぐ起き上る事ができないが、何とか生きている。


 彼女が俺の傍により必死に何かを言っているが良く聞こえない。きっと、泣いていると思う。


 とりあえず、誰か俺にヒールを掛けてくれ。




 そんなこんなで一週間後、俺達は付き合い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る