◆終◆さいごの××××
「結局今この人はどういう状況なんですか?」
「気になるか?」
「それは…まぁ。だって今まで彼に敵う人なんて誰も居なかったので…死んでるんですか?」
「死んじゃいないよ。…まぁ死んでるのと変らないんだけどな」
「死んでるのと変らないって…脳死とかそういう状態なんですかね?」
「…今この男、リュシフェラスは…きっと楽しくて楽しくてたまらない素敵な素敵な…」
「夢でもみてるんだろうぜ」
あの時、リュシフェラスが神界を滅ぼした。
俺ももうダメかと思ったのだが、奴の力では俺に干渉する事はできなかったのだ。
結局、神界自体は奴の部屋以外もう何も残っていない。
…のだが、あの女神だけはこの世界とダイアロン、人間界、その全てと繋がっていながらそのどれとも違う場所にいた為に無事だった。
何もない世界でこれからどうしようかと思っていたところにあの女神の生存が解った時は不覚にも安堵したものである。
女神の必死な救援要請に、ついつい悪ふざけをしてしまったのだがそんな事はまぁどうでもいい。
俺がフェラ爺を倒したと言っても信じないどころか「そんな卑猥な名前のジジイは知らない」とか言い出したので仕方なく奴の部屋まで案内してやったところだ。
「…じゃあ、ほんとに…もう何にも怯えなくていいって事…?は、はは…っハァーッハハハハッあの糞爺やっと死んだんですかッ!?この時を待ってた。待ってたのぉーッ!!これで私の天下が…」
「いや、なんかもういいよそれ」
「…どういう事です??」
…いや、わからんけど。
「でもいったいどうやったんですか?今まで誰も敵わなかったのに…」
「まぁ単純な話であいつの力は俺には無効だったってだけだよ。普通に殺してもよかったんだけど…なんかちょっとだけ罪悪感がな」
「今更ですね」
…ズバズバと物を言う女神だ。
確かに俺なんかが今更何かに罪悪感を感じるなんて今更すぎて笑ってしまう。
でもこの糞ジジイの終りというのは…
俺が直接手を下して殺してしまうよりも、全ては自分の思い通りだと思い込んだまま気がついたら衰弱して死んでいく。そんな惨めな終りが似つかわしいんじゃないかと…そう思ったのだ。
今頃どんな夢を見ているのだろう?
残念ながらそれは解らない。
俺はただ、
奴が見たい夢を見せただけなのだ。
最後の最後で奴にかましてやる能力は、わたあめの物がいい。
俺の異世界生活の始まりはわたあめとの出会いからだった。
…その前にあの化け物が居たけどそんなのカウントしてられるか。
その始まりのわたあめの力で、俺の異世界生活を締める。
特に意味は無いが、これが一番綺麗な形のような気がしたのだ。
「…それで、私達これからこの何もない世界でどうしたら…」
「知るかよ」
女神は俺の返事を聞いて涙眼になりながら訴える。
「いや、何か考えておいて下さいよぉ…もう私達しか居ないんですよ?こんなまっさらな世界でアダムとイブでもやれって言うんですかぁ…?」
「…ん、それ採用」
悪くない考えだ。
「えっ、冗談のつもりだったんだけど私の事そんな眼で見てたの…?いや、私としては権力と力に逆らう気はないけど…でも…」
…なんだか腹立つ勘違いをしている気がする。
「別にお前をどうこうしようとは思ってねぇよ。ここにお前の好きなように楽園を作ればいいんじゃねぇの?そういう最高神的なものに憧れてたんじゃないのか?」
「…え、マジで言ってんの?いや、マジで言ってます?生き残る為ならトイレ掃除要員も辞さないつもりだったのに最高神?」
…そういやそんな事言ってたな。
俺がこの世界に君臨して好きな世界を作り上げ、女神をこき使ってからかって楽しむ暮らしと言うのも悪くない。
悪くない…のだが。
「いや、お前は好きにやればいいよ。もし一人で難しいって言うんだったらある程度までは手伝ってやるから。お前みたいな面白い奴が作り上げる世界っていうのに興味もあるしな」
「貴方が神か…」
「神はてめぇだろうがよ」
そこからある程度世界を形にするのに二人でてんやわんやする事百五十年。
思いのほか時間がかかってしまった。
人間界とほぼ変らない程度の世界を作り上げ、その運営と管理の最高責任者があの女神。
勿論それ以外にも管理の人員は必要なので人間界で死んだ魂の中から有望な者を拾い上げて新世界に迎えた。
無駄な氾濫などがおきないようにあの女神以外には一切特別な能力を与えてはいない。
かと言ってあの女神は恐怖政治をやるような奴ではないのでそこは心配無いだろう。
むしろポンコツすぎるので周りの人員選びには骨が折れた。
「…ふぅ、やっとこれで軌道に乗ったわね♪」
「そうだな。俺の役割もそろそろ終りってとこだ」
そう。
ある程度この世界が動き始めたら、俺はその後どうするか既に決めていた。
「やっぱり…考えは変らないの?もう百五十年の付き合いでしょ?これからも一緒にやっていこうよ」
…長く居すぎてお互い妙な情が移ってしまった。
情は未練に繋がる。
だからあまり長居をするつもりはなかったのについつい世界を作るのも、この女神といるのも面白かったのでダラダラと新世界に関与し続けてしまった。
…だが、それもそろそろ終りにしよう。
この世界を作るにあたっていろいろ俺も確認した事がある。
人間の魂に関する事や、作り上げた身体に魂を定着させて故人を当時のまま復活させる方法など。
結論としては…
どんな手段を使ってもダイアロンで死んだ人間を復活させる事はできなかった。
期待していた訳ではない。
その、つもりだった。
でも、やっぱり心のどこかでうまくいくんじゃないかなんて希望があったのだろう。
俺は絶望してしばらく何も考えられなかった。
俺の心は今でも杏子を求めていたし、ほいほい違う女を愛せるほど器用ではなかったのだ。
リンから杏子にほいほい乗り換えただろ、なんて突っ込みはいらない。
リンの時は所詮ダレンの変わりでしかなかったのだから。
本当に愛したのは杏子だけだし、本当の意味で俺に愛をくれたのは杏子とわたあめだけなのだ。
だから俺は俺の中にこれ以上余計な物を増やしたくなかった。
それはただ、現実から眼を背けて先を見る事から逃げているだけなのかもしれない。
女神とだったらそれこそいつまでも共に居る事が出来ただろうし、俺もあいつを気に入っている。
だけど…それは決して愛情ではなかった。
百五十年もあれば愛の一つも芽生えるかと少しは思っていたが、お互いそんな事はなかったと思う。
良きパートナー以上ではないだろう。
俺は、俺らしく後ろ向きであるのがいい。
あれから夢をまったく見ていないが、そろそろみんなにもう一度会いたい。
みんな、というかわたあめと杏子に会いたい。
だから俺はここにはいられない。
ここにいて、世界の運営管理なんてやるべき事に追われる生活をしていたら俺はいつまでもあいつらとは再会できないだろう。
だから俺は現実を捨てる。
死ぬ事ができない俺が俺を終わらせるにはそれが一番だ。
それにこの世界であれば女神が管理してくれる。
つまり邪魔は入らない。
「ごめんな。もう決めてた事なんだよ。ずっと昔からな」
「…そっか。じゃあ仕方ないね」
こういうサラっとした所がこの女のいい所だ。
「それに会いたくなったらこっちで勝手にちょちょいっと…」
「…できれば放っておいてくれよ」
「はいはい。じゃあどうする?すぐする?」
「あぁ、頼むよ」
俺が選んだ道は
この世界で、女神の管理の下、誰にも邪魔されない所で永遠に眠りにつくことだった。
つまりいつか杏子が俺にしたように。
封印される事を選んだ。
何もする事がなければ俺は俺の中を見つめるしかない。
意識を保っていられないかもしれないがそれはそれでいい。
だけど、きっとあの眠りの中でならばまた、みんなに会えるような気がするのだ。
俺の居場所は
あそこがいい。
「じゃあ、いつか…また」
「願わくば永遠の別れになる事を祈るよ」
「いつまでも口の悪い魔王様ね。じゃあ、一応こう言っておいてあげるわ。…さようなら」
「おう。じゃあな」
そして俺は女神によって封印される。
女神が杏子に与えたような封印能力を持っていた事は幸運だった。
むしろあの女神は七つ程能力を持っていたので、確かに有能な部類だったのだろう。
ほかの神の平均能力数など知らないが。
やがて身体の感覚が無くなり、全てが闇に閉ざされていく。
懐かしい感覚。
一人きりの世界。
しかし
独りきりの世界ではなかった。
「きゅーいきゅーい♪」
「わたあめ、ひさしぶり」
「…まったくえいゆう君…こんな所に戻ってきちゃだめじゃない」
「…ごめん。杏子」
「でもきちゃったものはしょうがないわよね。だから…おかえりなさい。…で、いいのかな?」
「うん。ただいま」
「おかえり。おかえりきゅきゅーい♪」
「うん。ただいま」
俺の中に俺が生み出した世界。
わたあめの力で俺が望んだ夢。
これ以上ない程に内向的な世界。
それでも
俺にはここがお似合いで
俺にはここが必要で
俺が居たい場所はここなのだ。
そう、あの異世界とはおさらばである。
ダイアロンで過ごした時間が長すぎて俺にとっては人間界すら既に異世界にしか思えない。
人間界も、ダイアロンも、新世界も
俺にとっては全て異世界。
ここだけが俺の居るべき場所で
俺の唯一の安息の地なのだ。
何も知らなかった僕にとっても
全てを手に入れた魔王としての俺にとっても
居場所なんてここしかない。
ここさえあればそれでいい。
「さらば…俺の、そして…」
ぼくのだいきらいな異世界。
ぼくのだいきらいな異世界 monaka @monakataso
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