◆幕間-終◆







「これは忌々しき事態なんです!」





 そう、私がこの仕事を任されるようになってから一番の大問題だ。


 


ここ最近は何度あの世界に刺客を送り込んでもすぐに消息が分からなくなる。





そもそもなんで世界が二つあるのだろう?


私が生まれた時から…いや、もっともっとはるか昔から存在している。





元々は前時代の神々が創造したのだとか、全く別の、私達が全く知らないような人たちが作り上げたのだとかいろいろ言われている。








要するに誰も実際のところは知らないのだ。








ただ、分からないのは人間が言うところの異世界…ダイアロンだけ。





人間界については我々の祖先がダイアロンを真似て作り上げたのだそうだ。








ダイアロンについては私達にも詳しくは分かっていない。


どういう世界なのかという調査は終わっているのだが、私達が作った世界とは何かが違う。





何が違うのかがよく分からないというどうしようもない感じなのだ。





ダイアロンに手を加えようという話は今までにいくらでもあったのだが、その全てにおいて失敗している。











人間界の方ならいろいろ手を加えて行く事も可能で、管理もしやすいのだがダイアロンの方で起きた問題に関しては対応が非常に難しい。





転生者を送り込んだりする事は可能だが、それ以上の事がなかなか出来ないのである。





以前、もう何百年も前に人間界からランダムで選んだ人間をダイアロンに送り込み経過を観察するという娯楽が流行った時期があるらしく、その時の名残でダイアロン内にも数少ないながら人間が生存している。





普通なら寿命で死んでいるが、ダイアロンに送り込む際に能力を与えるというのが恒例になっていたため、寿命を選ぶ者もいたのだろう。


これの性質の悪いところは、私がやっている転生とは違い、人間をそのままの身体で生きたまま送り込む転移という事であろう。





転生ならばこちらが一から作り上げた肉体であるため管理もこちらで出来る。


ただ転移に関しては無理矢理能力を植えつけられただけの人間なのであちらで何をしていようと抑制のしようがないのだ。








現在ダイアロンには人間と、私が作り直した元人間と、原住民がいる。


元々ダイアロンに住まう人型生命体は正確には人間ではなく人型の魔物だと言われている。








何がどう違うのかはまだ不明な点が多いのだが、おそらく自分達で管理できない事を知った昔の神々が自分らが作った人間との区別のためにそう言い出しただけだろうと私は思う。








ただ、確かにダイアロンに住まう生命体は複雑で、完全な人型から獣人タイプ、それ以外にも亜種が沢山いる。





獣タイプには特に種類が多くいろいろな動物が混じったような外見をしていて、それだけの種類を管理していたのだと考えるとダイアロンを作った文明は私達の技術力とは比べ物にならないほど高度だった事が分かる。











とにかく、そういう訳でダイアロンに関しての問題にはこちらから用意した人員を送り込んで解決するしかないわけだ。








あの田所優司という男の人はこちらの手違いのお詫びとしていろいろな能力を付与し、異世界に転生させた。





本来ならあれだけの能力過多は私が怒られるレベルの案件なのだが、その後本人が死亡してしまったためにそれどころではなくなってしまった。








何せ死ぬはずのない人間が死んでしまったのだ。








私の上司には優司に付与した能力一覧を提出してあったので、彼の死はダイアロン観測部も深刻な問題の可能性として認識され、私に早期原因究明と解決の命が下った。





その後は多少無理をする権限を得たので、人員に関しては割と無理矢理用意したし、能力についても相手が望む物はなんでも付与してきた。





だけれどそれでは足りないようだ。











どうやら今のダイアロンには魔王が君臨している。


そしてその魔王というのが転生者ではなく転移者であろうという事までは分かっていた。





今のところそれ以上の事は何も分かっていない。


その魔王の元へ人員を派遣しても派遣しても誰一人として消息が分からなくなってしまうからだ。





仮に死んだとしても私が作った身体の反応は残る筈なのに、それすら残らずに消失してしまう。





優司の後に送り込んだ女性の身体の反応だけはずっと残っていたが、それももはや風化して判別不可能な状態だ。








なぜ彼女の身体だけは無事だったのだろう?


報告も無く、その後移動した形跡もなかったので生存していたという可能性は低いだろうが…。





むしろ彼女は魔王とは接触せず別の要因で死亡したのだろうか?











いや、それはない。











彼女が死亡したと思われる場所はダイアロンのユメリア大陸というところであり、おそらく彼女が魔王を封印して、その場で力尽きたのだ。


彼女と連絡がつかなくなってから送り込んだガラの悪い男はすぐに反応が消失し、その後彼女の反応も消えた。


そしてそれからしばらくの間はダイアロンも平和だったのだ。


特に問題が発生したという様子はなかった。





タイミング的に考えると、後から送り込んだ男と彼女が協力して魔王を封印する事が出来たが相打ちになったというところだろうか?





詳しい事は分からないがそれは今問題じゃない。








私の失態の話だ。








その後人間界でまとめて事故にあった連中を偵察隊としてダイアロンに送り込んだ。


複数人数、しかも仲のいい仲間同士という事であれば今までよりも具体的な情報を得られると思ったからだ。





その考えは的中し、私はダイアロンの国々や土地、魔物等の詳しい情報を得る事ができた。





そして、彼らは私に黙って勝手な行動を開始した。


ダイアロンを征服しようとしたのだ。





最初は私に対する報告が適当になってきたのを不審に思ったくらいだったが、段々と反抗的になり、こっちはこっちで勝手にやらせてもらうという通信を最後に音信不通となった。





それでも彼らの身体の反応は私の方で追い続けていた。


やがて彼らの反応がユメリアへと向かう。








私は嫌な予感がしていた。


世界征服に魔王を利用しようとしているのではないかと…。











そしておそらくその考えは正しく、そして彼らは全滅した。





愚かにも魔王の封印を解き、その場で殺されたのだろう。





私が送り込んだ人員が起こした不祥事で私の立場はかなり不味い事になっている。











早く魔王を討伐しないと私はこの立場を失ってしまうかもしれない。





別にこんな面倒な仕事を失う事自体はどうでもいいのだけれど、私の昇進がこんなところで終わってしまうのは我慢ならない。








だからこれは忌々しき事態なのである。








「分かってますか!?大変なんです!」





「そ、そんな事言われても僕にはまだ何がなんだか…」











 新たにこの場に呼び込んだ男性は少々か弱そうで気弱そうだが芯の強い男性だ。





本人は学校にも行かずに引きこもり生活をしていたが、買出しにいかなければならず仕方なく外へ出た時、偶然にも切り裂き魔と遭遇してしまう。





その切り裂き魔に襲われようとしていた中学生の女性を守るために彼は戦い、そして三十二ヵ所を刺され死亡した。








「貴方のその勇気を見込んで頼みがあります。異世界に転生させますのでその世界で魔王を倒して下さい」











「…え?異世界転生?魔王?そんなゲームみたいな…僕には無理です…部屋に篭って誰とも会わずに生きていきたいくらいなので…あの時だって可愛い中学生に感謝されたくてそのあと親密になってあんな事やこんな事になったらいいなって思ってつい無茶をしちゃっただけで…」





「勿論ただでとは言いません。貴方がほしい能力を何でも差し上げます。これは私にとっても最後のチャンスなんです。貴方を最強の戦士として送り出してあげます!」








 目の前の男は少し考えてから、ゆっくりと口を開く。











「ぼ、僕が異世界を救う勇者に…チート能力で転生…能力をなんでも…?」





「そうです!ダイアロンを救ってくださるのなら何でもして差し上げます!」








「えっと…それなら絶対に死なない身体と、老化しない身体と…あと怪我するの嫌だから傷つかない身体と、超能力と、魔法と、透視能力と、相手の思考を読む能力と、超人的な身体能力と、神話レベルの伝説の武器を遠距離用と近距離用で三種類ずつくらい。…最低でもこれくらいしてくれるなら考えます…あ、あと女子にモテたいな」





 こいつ思ったより欲が深い。


それにさっきも口走ってたけどただのロリコンの恐れがある…。








でも、どんなに腐れロリコンだったとしても役にたってさえくれればそれでいいのだ。





「分かりました。その条件全て飲みます。貴方が確実に魔王を始末できるように、貴方に私の権限をフル活用した能力全部のせスペシャルで行きましょう!」








 これが最後。


最後なら出し惜しみは必要ない。








考えうる限りの能力を全てこの男につぎ込んでしまおう。


そして確実に魔王を始末する。














そうと決まればこれが本当に最後だ。


私の人生もかかっているのだからしっかり仕事をしてもらわないといけない。








なんとしても魔王を殺す。


そして私はもっともっと











昇進するのだ。

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