第18話 逃げ続けたその先には

「なに!?」


 俺が辿り着いたときにはエレベーターのボタンは既に壊されており、急いで非常階段を探しに向かう。


 まるで迷路のようなマンションのフロアを走り抜け、ようやく「非常階段」と書かれた扉を見つけると、ドアノブに手をかけて回した。


「なんだよ、鍵でもかかってるのか? 開かない……なっ!」


 扉の端々を見ると、まるでバーナーで熱せられたかのように、隅から隅まで溶接され扉の機能を完全に殺されていた。


「チッ! 十八番逃げるが封じられたか! なら!」


 俺はすぐさまその場から離れ、スニールに遭遇しないように隠れながら道を進んでいく。


 あの例の間違えた住所を掴まされた後、俺が起動させたのは魔力石のアプリであり、このマンションまでやってきたのだ。

 鈴鳴さんにも確認したが、カッチェラの書類の変更はされておらず、本当の住所も分からないまま、肝心の連絡もとれない。よくよく考えればおかしな事ばかりだ。   

 セキュリティ重視なマンションだったため入るのには手間取ったが、今はそれらのことなどどうでもいい。

 今はいかにして、この状況をなんとかするかだが……、


「魔王の配下相手とか、難易度高すぎるだろうが……!」


 スマホも圏外表示で外とは連絡がとれないし、倒すのなんてもってのほかだ。命が何個あっても足りやしない。


「それになんでだ? これだけ騒いでて、なんで誰も部屋から出ないんだ?」


「このフロアは私以外住んでないのよ?」


「! 【逃──」



「逃がさないわよ」


 スニールの出した白色の鞭が、瞬時に俺の体にへと絡みついた!

 いや、これは鞭じゃない……?!


「蛇か!」


 ネグリジェ姿のスニールから伸びた二匹の白い蛇が、舌を出しながら俺にへと巻き付き離さない。


「お前……ラミアか……っ!」


 蛇人間ことラミア。足はまだ人間のものだが、それも擬態かなにかか?


「御明察。頭が悪そうな顔の割には、博識なのねぇ?」


「顔は関係ねぇだろうが……がっ!」


 蛇の締め付けは容赦なく強くなっていく。


「そのまま死んでちょうだい。勿体ないけど、胃袋は今いっぱいだから食べてあげられないのよぉ」


 昨日会った時とは違い、明らかに膨らんだスニールのお腹。

 いやそれどころか、もうスニールの足は人間のそれでは無かった。

 長く白い体。

 それは蛇特有の長い胴体であり、スニールの下半身は長く、廊下の奥にまで伸びていく。

 スニールは膨らんだお腹にかかったネグリジェをずらしていき、その正体を俺に見せつけてきやがった……!


「かっ……かっちぇ……ら……!」


 妊婦のそれとは違い、薄い膜のようなもので覆われたお腹の中には、体を丸めてマント以外何も纏っていないカッチェラの姿がはっきりと見えた。

 眠っているのか。気絶しているのか。目をつぶっているため、生きているのかどうか分からない。


「この子、昨日食べたのにまだ溶けてくれないのよぇ。消化が悪くて困っちゃうわぁ」


 食べた? 消化?

 それじゃあ……!


「お前は初めから……カッチェラを食べるのが目的だったてのか……っ!? カッチェラに罪滅ぼしがしたいて言ってた話も、全部嘘だっていうのかよ……っ!!」


「当たり前じゃないの。魔王の血筋なら食べただけでも相当な力が手に入るのよ? 食べるなっていう方が無理あるわよ」


 スニールは悪びれる様子もなくそう答えやがった。

 なんだよ……こんなにも人間と魔族てのは考え方が違うものなのか……?


「もしかして本当に、このガキが魔王にでもなれるとでも思ったの? バカじゃないの。本当めでたいわねぇ、笑っちゃうわ。魔力もないゴミは精々、私の力を高める肥料になるのがお似合いなのよ」


「っ! お前ッ!」


 俺は体を激しく動かすが巻き付く蛇はビクともしない。


「支配者なめてるの? 私が一体どれだけ頂点に立つことを望んだと思ってるのよ……? 過去に魔王に負けてバッカスのアホの下に就いてたけど、もうこの世界に魔王はいない! そして今私には魔王の力を持つ娘を取り込んだのよ……! もうこれで、私に勝てるやつなんていないっ!!」


「お前……世界征服でもする気かよ……!」


「ええ、この子達とね」


 スニールが指を鳴らすと共に、聞こえてくる足音。

 それらは俺と、スニールを囲むようにして現れたのは武器を持った無数の魔族とモンスターたち。


「なんでマンションに……これだけの魔族とモンスターたちがいやがる……いや、まさかここは慈善活動の……!」


「あら? 知ってたの? そうよ、ここは私が支援する魔族たちの住処。もとい、私のお城よぉ?」


「スニール様はこの国の、いや世界の王となるお方。それ知れば、スニール様に取り込まれた娘をお喜びになることでしょう」


「血族だからてなに? 能力もない才能なしの役立たずが王なんかになれる訳がないでしょうがよッ!! そう今度こそ私が、私こそが王になる時がきたのよッ!」


「──ああ、確かに、カッチェラには才能がねぇよ」


 大した力も無く、魔力に関しては持ち合わせてすらいない。

 そのくせ大食らいで、偉そうで、猪突猛進のバカ野郎だ。

 だがな──、


「役立たずなんかじゃねぇ! なめてるのはお前らの方だ! そいつはこれまでにたくさんの人間や魔族を助けてきたんだよッ!」


 リリィの事件で会った倉井さんからは、「こないだ無事に解体工事を始められた」て連絡をもらった。

 学園からはデュラハン討伐の件で表彰されて、守った同級生の母親たちからは感謝もされていた。


「何一つ才能がないのにも関わらず! そいつは諦めず前に進んで結果を掴んできたんだ! それを『役立たず』なんて否定することだけは、俺が絶対にさせやしねぇッ!!」


 俺の啖呵を周りにいる魔族も、モンスターも、スニールも、笑っている。

 だが、俺は言わずにはいられない!


「あはは! そんな大口を叩いて一体何をするつもりかしらぁ、ツルギくん? あなたは今、私に捕まっているんですよぉ?」


「俺に出来ること一つだけだ――【逃走】!」


「痛っ! なに!?」


 俺はデュラハンの時に学んだ教訓を生かし、ポケットの中に忍ばせておいたナイフを取り出して、巻き付いていた蛇たちを切り裂き、魔族もモンスターも掻い潜って、一目散にその場を後にした。


「……散々言っておいて逃げるとか、本当に三下ねぇ。っ!」

「スニール様ッ!」


 飛び出てきた俺の斬撃をくらい、スニールの腕からは血が飛び、壁にシミを作った。

 狙いが外れたか……。


「こいつッ!」


 スニールは再び俺を掴もうと蛇を伸ばしてくるも、もう捕まってはやらない。


「【逃走】!」


 この最上階は構造的に繋がっており、そこまで広くも無い。

 それを利用して、逃げて逃げて、目指すのはスニールが伸ばす胴体の先。

 つまり尻尾の先端。

 俺はそれを発見すると、迷わずそれに【逃走】をかけて、廊下を駆け抜けて、魔族やモンスターを抜けて、剣を構える────そして、スニールの腹目掛けて飛び上がって振り下ろすッ!!


「ぐはぁ! ちょこざいなッ!! 早くそいつを捕まえなさい!」


「ですがあまりにも素早くて目で追うのもやっとです!」


「あの羽虫がッ!」



 今度は腹より下の蛇の胴体部分か! 


「そううまくはいかないかっ、【逃走】!」


 だが、いける。

 着実にダメージを与えられている。

 ダンジョンよりも複雑でなく、道がはっきりとしていて、尚且つ狙うは強敵とはいえ一人だけだ。

 不規則に飛んでくる俺を、スニールの蛇も捕らえることはできない!


「今度こそ、今度こそ当ててやる……!」


 このままっ! 一気に行ってやる!

 俺はそのまま飛び上がった瞬間、体感速度が遅くなったように感じた。全ての動きは遅くなっていき、不思議な感覚を覚える。

 だが、そんな絶好のタイミングで俺は何故か、ある疑問が浮かんだ。

 蛇しか使わないスニールは、「一体どうやって非常階段の扉を溶接したのだろう?」と。

 すると突然、前を向いていたはずのスニールの首が瞬時に振り向き、俺を見た。


「みぃつけたぁ」


 三日月を思わせる不気味な笑み。

 それはカァッチェラと見た満月とは似ても似つかないほどに冷たく、見ているだけで恐ろしい。


「擬態──解除」


「なっ!?」


 スニールが何かを言った途端、目の前が真っ暗にへとなった。

 次に視界が開けたとき、そこにはあまりにも恐ろしいものが待ち構えていたのだ。


「あなた程度のザコ相手に使いたくは無かったんだけど……羽虫相手でも、時には本気を出さなきゃいけないようねぇ?」


 スニールの背中からは羽のようにして伸びる無数の白い紐。目をこらすとそれは全て蛇だった。

 先ほどの二匹の蛇とは比較にならない数であり、数千程の数はいるのではないだろうか。

 そんな蛇の羽は、俺の顔以外の全てを覆って十字にへと縛り上げる。 


「なんて……数だよ……こりゃ……っ!?」 


 それだけではなくスニールの頭には悪魔のような角が飛び出し、爪も槍のよう長くなって、口からは鋭い牙が生えていた。


「驚いたかしら? ラミアはねぇ、食べた生き物の特性を取り込むことができるのよぉ? そうそう、あなたが付けてくれた傷だけどねぇ──」


 スニールの顔が何故か少しずつ蒼白となっていく。

 いや違う……これは……!

 スニールの頭真っ二つに割れた。だがそれは皮であり、中から傷一つ無い煌びやかなスニールの顔が現れたのだ。

 スニールはその皮をまるで衣服を脱ぐように、着ていたネグリジェと一緒に投げ捨てる。


「ああぁ──気持ちいぃ……!」


 艶めく綺麗な肌。

 俺が切りつけた箇所にはもう傷は残っておらず、まるで剥きたての卵のような白い肌が現れたのだ。


「嘘……だろっ?」


 一定ダメージ与えたら全回復……だと……?

 おいおい、勘弁してくれよ……そんなの一体、どうやって倒せばいいんだよ……!?


「凄いわこの子! まだ消化もしきっていないのに、回復速度も速くなってるし、メンタル面まで回復しちゃなんて、無敵じゃないの私ッ!!」


「くっ……ああ……ッ!」


 なんてヤツだ……!

 これが魔王の配下の強さなのかよ……!

 俺はやっぱり……『勇者』になんかなれないのかよ……!!

 スニールは俺の落とした剣を手で持ち上げ、そして砕いた。


「はい、これで終わりー。残念だったわねぇ?」


 ……本当に、もうだめだ……。

 もうどうしようもならない……。 

 周りで笑ってくる魔族とモンスターの声は酷く不気味で、そこで俺は悟ってしまった。


 俺はここで────死ぬのだと。


「……俺がカッチェラを魔王にしてほしいて言ったとき……あんた、泣いてたじゃねぇかよ……あれは……いったいなんだったんだよ……?」


「はぁ? 死ぬ間際にそんなこと聞くの? 人間てのは本当に訳の分からない生き物ねぇ。そんなの、あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑い泣きしてしまっただけよ」


「……そうか」


 そんなことすら見破れず、俺はとんでもない間違いをしてしまったんだな。

 取り返しがつかないことをしてしまったんだな……。


「カッチェラ……ごめん……────がはぁッ!!」


 巻き付いていた蛇が一斉に針となって、俺の体を貫いた。

 無数に感じる痛みが、そのことを知らせてくるがもう遅い。痛みも、後悔も、何もかも────全ては遅すぎたのだ。


「うるさいのよ。さっさと死んでちょうだい」


 もう前が見えない。

 もう何も考えれない。

 もう俺の目に光が灯ることはない。 



◇◇◇



 あぁーなんだここ?

 俺……今どこに向かって歩いてるんだっけ?

 えらく暗くて何も見えないけど、なんかあっちにいけばいい気がする。

 とても楽になれる気がする。

 そういえば、俺は今何をしていたんだっけ──?

 何か大切なことをしてた気がするんだけど……まあいいや。

 なんかすごく辛いことだった気がするし、何も考えたくない。


『─が────れ─』


 ん? なんだ?


『わが配下となれ!』


 ……カッチェラ? 

 ああ……そう言えばここ二ヶ月、こいつには引っ張り回されてばかりだったな。

 あのときダンジョンで会わなかったら、こんなに苦労することもなかっただろうに。

 まあもうどうでもいいや。どうだっていい。

 だぁっ!


『起きろ! ツルギ!』


 何故か頬が痛む……。

 これはリィリィのクエストの時に起こされたときか?

 フルスイングで殴りやがって、あのバカ力が。

 本当、カッチェラのおかげで色々ありすぎた。

 一緒に服を買いに行ったり、学校に通わせたり、クエストを受けたり。本当にたくさん……。


『……先輩、割とマジだから笑わないでほしいんですけど、私、魔法少女になりたいんですよ』


 笑わないよ月夜。俺もお前みたいに、バカみたいな夢があったんだぜ?


『つるぎは、どうしたいのぉ?』


 りりぃ、分からないんだ。

 俺は一体どうすればいいんだ?

 もう叶わない夢を見るのは嫌なんだ……!

 そうだ……逃げたい……! もう憧れた夢が叶わない現実なんかから逃げ出したい!!

 そうさ、このまま逃げてしまえばいい。

 投げ出してしまえばいい。

 だって俺は……何も持ち合わせてなんかいないんだから!


『そんなことはないぞ、ツルギ』


 カッ……チェラ……。


『お主もまた、わが輩を助けてくれたではないか。今ではリリィや月夜、そしてたくさんの配下もできて学業だって学んでおる。それもこれも、全部ツルギがしてくれたことではないか!』


 ベランダで、月の下で、確かにそう約束した。

 そうだった。

 俺はあのとき、カッチェラが帰ってくるまでに少しでも誇れるような人間になるはずだったじゃなかったのか……?

 なら、逃げてなんかいられないじゃないかよ……!


『わが輩は必ず、立派な魔王としてお前達の元に返ってくるぞ!』


 お前はそうやって、いつも前を見て進んでたな。

 そうだ……なら俺も進もう。

 どんな状況でも、お前みたいに歩き続ければ、目指した場所でなくてもどこかに行けるかもしれない。辿り着けるのかもしれない。

 それなら────俺も一緒に進みたい。

 逃げるんじゃなく。俺もお前みたいに、また夢を目指して歩き始めたい。

 もう腐り落ちてしまったと思い込んでいた、子供の頃に見ていた憧れ。

 あの時本当になれると思っていた『勇者』てやつ目指して、俺もまた、お前と同じく夢に向かって歩きたいよ──カッチェラ──。



◇◇◇



「これで邪魔者はいなくなったわね。全く手間取らせるわね。さて処理はどうしましょうか?」


「ミイラにして保存食にするのはどうでしょうか?」


 剣気の死体を見て、一匹の一回り大きなゴブリンがそう答えた。

 彼の名はキューブ。

 彼はスニールに従うゴブリンの中でも、特別知性がありよく彼女に意見を気に入られていた。


「そうね、悪くない発想だわキューブ。そうして頂戴」


「畏まりました。おいテメェら! そいつの血抜きをしときな! すぐにな!」


 指示を受けたゴブリンたちは剣気の体に近づき、彼を持ち上げようと体を持った。


 カァッチェラは──どこだ──?


「? ガガッ?」


 すると、体を持っていた一匹のゴブリンが異変に気づいた。

 剣気から出ている血が、すごい勢いで流れ出ているのだ。


 ああ──そこにいたのか──待ってろ──。

 勢いよく出た血は、今度はまるで生き物のようにうねりを上げて動き出し、周りにいたゴブリンを吹き飛ばす。


「ギガッ!?」

「ギギッ!?」


「? お前ら何やってるんだ! ……なんだ……ありゃ?」


 剣気の体に付いた傷口から、血の渦潮が巻き上がり、それは少しずつ終息していき小さくなって傷口にへと戻っていく。

 そこにはもう、先ほどの傷は消えていた。

 それと同時に、微かに目を開けた剣気は、ゆっくりと体を起こしていく。

 つたなくもしっかりと。


「ば、バカな! 確かにスニール様に殺されたはず!」


 立ち上がると、足下に落ちていた砕かれた剣の切れ端を手で掴んだ。手のひらが切れる事などお構いなしに、力強く握り離さない。


 体がものすごく重いが──進める──。


「なんで……なんでまだ生きてるのよ!? 体全身貫いたはずよ!!」


 スニールが俺を見て驚いているがどうしたんだ──さっきの余裕はどこにいったんだ──まるで──死人でも見たかのような顔してるぜ──?


 ふらふらと足を引きずるようにして歩く剣は、ゆっくりとスニールにへと近づいていく。

 そんな剣の顔は、微かに笑っていた。


「何よその顔は……! 馬鹿にして! 早く! 早くそいつを仕留めなさい!」


 スニールの命令で目が覚めたように、魔族もモンスターもが一斉に剣気に向かって攻撃を仕掛けた。

 彼らの持つ武器は確かに剣気の体を突き刺し、体から血を吐かせている。


「ひひっ! これで死んだだろうよ!」

「終わりだぜ!」


 そして、出血は止まった。


 ──おまえら、そんなに体に何でもどかどかと刺してくるんじゃねぇよ──動きづらいだろうが──!!


「ガッ!?」


 剣気の体から出てくる血は、武器を押し出すようして強く噴射された、瞬く間に周囲の魔族やモンスターを吹き飛ばす。


「このアンデッド野郎が!」


 その中の一体が、諦めず剣気に再び斬りかかるも、再び剣気の体を刺すことは出来なかった。

 剣気が持った剣の切っ先が目にもとまらぬ早さで、彼を切り裂いたから。


「こいつッ!? なんだその早さはァ!?」


 周りの魔族もモンスターも再び攻撃を仕掛けるも、剣気の早すぎる斬撃によって切り裂かれていてしまう。

 

「なんで死なないのよ……!? いえ、それは──!」


 そこでようやくスニールは気づいたのだ。剣の体に付いた傷が血の渦を巻いて、すぐさま塞いでいくことに。

 新たに付けていった傷も同様に塞がっていき、武器で刺しても、血の勢いで押し返されてしまう。

 もう剣に付けたはずの傷は何一つ残っていない。


「そんな……なんで……? 事前に調べた時は回復能力なんて持ってなかったはずよ!?」


 進め──進むんだ──!


「お前ら! スニール様を守るんだ!」


「なっ!?」


 キューブの言葉よりも、それを聞いた魔族やモンスターたちよりも早く、死人剣気は速度を上げて、スニールの懐にへと飛び込んだ。

 あまりの早さに、スニールの動体視力ですら追いつかず、剣気の持った切れ端がカッチェラの入った腹を刺す。


「──帰ろう──カッチェラ──」


 剣は切れ端を大きく振り下ろし、スニールの腹は切り開かれた。


「がっあァッ!!」


「スニール様ッ!!」


 お腹から流れ出る大量の液体、それと共にカァッチェラもまた吐き出されて、剣気は彼女を優しく抱きかかえた。


「こっ、こいつッ!」


「【逃……走】」


 剣気はなけなしの体力を振り絞ってスキルを使い、その場を後にした。

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