第12話 クエスト・イン・ザ・中野ブロードウェイ
「絶対にこっちじゃ!」
「いいや、断然これだろが!」
「「ぐぬぬぬっ……!」」
俺とカッチェラはにらみ合い、両者共に今にも取っ組み合いに発展しそうな勢いとなっていた。
「すぴぃ……」
「先輩、別に私はなんでもいいですよ。それこそ最初のクエストなんですから」
「最初のクエストだからこそ、こいつの選んだクエストは受けられないんだよ」
カッチェラが選んだクエスト。
そこの概要には『コドモドラゴンの捕獲』と書かれていたのだ。
「ドラゴンじゃぞ? 初めてにおいてふさわしい大仕事ではないか! それに是非ともわが輩の僕としたいのじゃ!」
「アホかお前は! 子供とはいえドラゴンなんだぞ! そんなの全員やられて即病院送り確定だわ!」
こないだ学園で交わした月夜との約束を守るため、クエストを受けに来た、俺、カッチェラ、リリィ、月夜の四人は冒険者組合新宿部署にへと集まっていた。
今日は全員の都合が合う土曜日の休みの日であり、普段よりも組合に来ている冒険者の数も多い。
だから急いで受けるクエストを決まるため、掲示板に張られた依頼を探す事にしたのだ。
今回は月夜の初めてのクエストということもあって、最初は彼女のやりたいものにしようとしたのだが、
『始めてなのでここは先輩に任せますよ。あ、でもできることのなら魔法少女アニメみたいなもので頼みます』
そんな無茶な要求をしてきた月夜に俺がクエストを選ぼうとすると、そこでカッチェラが割り込んできた。
『では、わが輩も選んでやるとしよう。見ておれ、ルナに合うクエストを見つけ出してやろう!』
そして選んだのが先ほどのコドモドラゴンだ。
「じゃが『Nスキル冒険者』から受けられると書いておるではないか!」
「それは『まともに戦えるNスキル』を持ったやつならて話だ」
最近の新人冒険者たちのスキルは年々レベルや質が上がってきているため、たまにこんな危険なクエストでも依頼者は平気でNスキルからでも受けられるように設定していることがあるのだ。
スキル能力持ちみんなが、そんないい能力を持っていると思わないでもらいたい。
「じゃからといって、ツルギのそれはなんなのじゃ!」
カッチェラが指さした俺のクエストに書かれていた内容は、『大量発生したホルスタインブラックフィッシュ漁』。
ホルスタインブラックフィッシュとは、泥沼に生息する、牛の上半身と魚類の下半身を足したような見た目のモンスターのことである。
よく転移現象に巻き込まれ、頻繁に大量発生することが多い。
「始めてならこれぐらいがいいだろうが。取った数だけ報酬ももらえるんだぞ?」
「魚の漁などしょぼすぎるではないか! もう少しやり甲斐のあるものを選ばぬか!」
しょぼくなんかねぇよ。俺が一体何匹のホルスタインブラックフィッシュに突撃されて殺されかけたと思ってやがる。
「月夜のスキルにあったクエスト選びした結果だろうが。【癒やしの微風】を使えば、川の中のあいつらが取り放題なんだぞ?」
「つるぎぃ、それおいしいぃ?」
「いや、泥臭くて脂身だらけと、とても食えた代物じゃないな」
「却下じゃ! 却下! 絶対にいやじゃッ!!」
「それを決めるのはお前じゃないだろうが。それでどうする、月夜?」
「うーん、どっちがいいと言われたら、確かにカッチェラちゃんのクエストは魅力的だけど、私もそこまでの危険は犯せないすかねー」
「がーんなのじゃ!」
「ほら言ったろうが」
「でも先輩のも却下です。てか論外ですね」
あれぇ……? 結構いいかと思ったんだけどなぁ……。
「それじゃあどうする? 見たところ、今日は掲示板に貼られてるクエストも少ないようだし、あまり選べそうにないぞ?」
「だからコドモドラゴンを!」
「しつこい」
「相変わらず賑やかね、剣気」
近づいてきたのは、鈴鳴さん。
今日も鋭い目つきが決まっている。
「と、こちらは初めましての子かな? もしかして魔術師?」
「はい。初めまして、闇鍋月夜といいます」
「剣気の彼女?」
「いやー、目が死んだ人は勘弁すね」
「剣気、まずはその目を生き生きさせるところから始めなさいよ」
「からかわないでくださいよ鈴鳴さん。俺が女子高生に手を出すなんてリスク冒すわけないでしょうが。てか暇なんですか?」
「失礼な。何か困ってそうだったから、わざわざ来てあげたのよ。それで何をお探しなわけ?」
「私、今日始めてクエストを受けるんですが、どれにしようか迷ってまして」
「コドモドラゴンじゃ!」
「漁の方が妥当だと思うが」
「なるほどね。こりゃあ、決まらないわけだぁ、あははは!」
鈴鳴さんは相変わらず流暢に馬鹿笑いをかましているが、こっちとしては早く決めなくては受けられるものも受けられなくなるのだ。非正規職員でもそれくらいは把握してると思うのだが。
「そうねぇ。ふん、ふん」
鈴鳴さんは俺以外の女性メンバーを順に見渡した後、指を鳴らした。
「よし、剣の知り合いていうのなら、とっておきのクエストを紹介してあげる!」
「それってもしかして、突発クエストか何かですか?」
その日緊急で依頼された突発クエストには、とてもおいしい仕事があったりする。
鈴鳴さんのこういう気前のいいところは本当ありがたい。いつもそうなら最高のお姉さんでタイプなのにとても勿体ないものだ。
「いえ、これに関しては私が知り合いから依頼されたものよ。結構困ってるらしいから助けてあげてほしいのよ」
「個人的な依頼ですか? 珍しいですね。さっきカッチェラたちを見てたのと何か関係があるんですか?」
「それはやってみてのお楽しみ。少なくとも命に関わるほどの危険性はないし、戦闘もないわ。報酬も多分そこそこ出て、失敗したときのデメリットもない。どう?」
条件的にはいいのだが、今回その判断を決めるのは俺ではない。
俺は月夜の方を見て、回答を求めた。
「いいですね。先輩、そのクエスト受けましょう」
答えは決まり、俺たちは鈴鳴さんのクエストを受けることとなった。
新宿駅を経由して五分。
やって来たのは、大学生も多く見られる中野駅。
降りてすぐ見える商店街を抜けた先の奥にある入り口を入ると、そこは様々な店が所狭しと入った不思議な内装が広がっていた。
まるで迷宮を思わせる程に道は入り組んであり現代ダンジョンの呼び声も高い、ここは中野ブロードウェイ。
「なんて人と魔族の数なんじゃ!」
「ほう、ここがあの噂の中野ブロードウェイですか……て、『電脳魔法少女サイバーリル』のステッキ? これは『魔術戦記黙示録』に出てきた魔剣マジックブレイカー……? ちょっと待っててください先輩、今お金下ろして来ますんで」
「落ち着け月夜、どうせ後で報酬がでるんだから」
「めがちかちかする……」
騒がしい一同を引き連れて、鈴鳴さんから教えられた店を目指し地下一階にまで降りていく。
様々な店が並ぶその中に、「マッドエデン」と言う文字を発見し、俺たちはそこで足を止めた。
「話には聞いてたが。とんだ魔境だな、こりゃ」
「すごいですね、先輩。何処を見ても魔族の方だらけですよ。店名に偽りなしですね」
鈴鳴さん曰く、ここ「マッドエデン」は魔族専用の服を製造、販売しているお店なんだとか。
来てみると確かに、とても人間が着れない服や、角を出すための穴が開いた帽子に、色々なサイズ、形の靴などが数多く置かれている。
客層もエルフやアラクネ、オークにリザードマンと様々な魔族が服を見ては店内を歩く回っている。
「それでえっと、依頼者はどこだ……?」
「何か気になる商品でもございましたか?☆」
「っ!」
隣に立っていたのは、店のロゴマークの入ったエプロンを着けた店員さんらしき女性だった。
金髪の髪で、緑色のクロックスを履き、鷹をモチーフとしたアニマル手袋をはめた、小柄だ。
彼女は親しみやすい笑顔で俺の顔をのぞき込んでくる。
名前プレートには「アガレス 種族:悪魔☆」と書かれていた。
「えぇーと……」
「私、店員のアガレスでーす☆ 気軽に、アガちゃんて呼んでくださいね?☆」
「わが輩はカッチェラ・カオ──」
「いちいち名乗らんでいい」
こないだテレビであんなにも大々的に映っていたのだ。下手に騒ぎを起こせば依頼どころでは無い。
「あの僕たち、鈴鳴さんから話を聞いて依頼を受けに来たものなんですが?」
「なんと!☆ アキちゃんのお知り合いの方ですね!☆ 待っておりました、ではこちらへどうぞ☆」
アガレスさんが俺の手を勢いよく掴むと、俺達を試着室の前まで連れてきた。
「それで依頼内容てなんなんですか? 鈴鳴さんはもったいぶって教えてくれなかったんですが」
「アキちゃんらしいですねぇ、それなら見てもらった方が早いかもしれません☆」
アガレスさんはそういうと、持ってきた箱を開けて中から虹色の丸い物を取りだした。
「それってもしかして」
「スライムですか!」
「はいそうでーす☆」
サッカーボールよりも少し小さいサイズのそのスライムは、アガレスの手のひらの中にへと収まり、動く様子がない。
「始めて見ました! スライムて本来はこんな色なんですね」
「えらく大人しいスライムですね」
「これはスライム服ですから、しっかりとした知能がある個体ではないんですよ☆ 例えるなら、この世界でいうところの微生物と同じようなものでしょうか☆」
「それでこれがどうしたんですか?」
「はい☆ これを着こなしてほしいんですよ☆」
「スライムを……着こなす……? ちょっと何言ってるか分からないですけど……?」
「スライム服は通常、着ても決まった形の服にしかなりませんが、新たに見つかったこの個体はすごい機能をもっていたんですよ!☆ ただ一つだけ問題がありまして……ああ、でも着ても命に関わるようなことではないですから安心してください☆」
本当かよ。全く信用できないんだが。
「ではわが輩が──」
「いえ、私が着ます」
「る、月夜?」
いち早く手を上げたのは月夜。
カッチェラも我先にと手を上げかけたが、一手月夜の方が早かった。
「ごめんねカッチェラちゃん。でも、初めてのクエストだから、一番最初にやりたいんだぁ」
「よいぞルナ! よく分からんスライムを着ようとは度胸のあるやつなのじゃ!」
「ありがとうねカッチェラちゃん。それに率先して物事に取り組む方が主人公ぽいしね?」
「では服を脱いでからこのスライムを頭の上に持ち上げてください☆ そうすれば、スライムが落ちてきて勝手に着せてくれますので☆」
月夜はアガレスからスライムを受け取ると、試着室の中にへと入っていった。
「こうかな? ぬっぐ! ぼごごぉ!」
カーテン越しから月夜が水にでも溺れているかのような声が聞こえてきた。
「あ、アガレスさん? 本当に大丈夫なんですか?」
「はい☆ 今スライムは月夜さんの体に合わせて変形している最中です☆ 何も心配はございません☆」
「ならいいですけど……」
「き、着れ……た……ってえええええええええええええええええええええええええッ!!」
「月夜!?」
今思い切り月夜の悲鳴が聞こえたんだが!? どこら辺が大丈夫なんだ!?
隣に立つアガレスさんの顔を見ると嬉しそうな口を開いており、まるでこの反応を待っていたかのようである。
「る、月夜! 開けるぞ!」
俺は非常事態と感じて、月夜に断りを入れたカーテンを開けた。
そこで見たものは────魔法少女のような衣装を着た月夜だった。
「先輩……このスライムやばいですよ……!」
「そ、そうか? てかさっきの悲鳴は……?」
「え、ちょっ待って待って、だってこれアニメ『魔法少女ファンタジア』の主人公ラブブレイブの衣装じゃないですか? は? え? 作りもしっかりとしてるし……ここまで完成度の高い衣装は見たことないですよ……?」
ぶつくさと何かを言ってはいるが、とりあえず月夜に何もなくてよかった。
「これこそこの新素材スライムの機能ですよ!☆ このスライムは着用者が着たいと思った服に変形してくれるんです!☆」
「え、なにそれすごいじゃん」
「そうでしょう☆」
思わず素で返してしまったが、確かにすごい機能だ。売り出したらとんでもない売り上げをたたき出してしまうんじゃないか?
「先輩! 写真撮ってくださいよ! 今ポーズ取りますから!」
「分かったから落ち着けよ」
でもこれのどこが依頼だったんだ? ただスライムを着ただけだが。
自分の杖を持ちポーズを決める月夜の姿を、俺は自分のスマートフォンで何枚か撮っていく。
「お、お客様そろそろカーテンを閉めた方がよろしかと……」
カーテン? もう脱いで欲しいということだろうか?
そう思いつつシャッターを切る俺に、月夜はよほど嬉しいのか、今だポーズをとることをやめない。
そこで月夜を写す画面に何か違和感を覚えた。
スライム服が……微かに動いている?
「これだけすよ! 後この一枚だけですってば! 先輩、最後に決め技、いきますよ!」
月夜は杖を頭の上にへと持ち上げて、胸を張って────服が溶けた落ちた。
カメラに映るは、決め顔でポーズをとる月夜の裸た……い?
「? どうしてんですか先輩……ぁ……っ! い、いつまでカメラ回してるんですか先輩!?」
「へぶっ!?」
素早く発動された【癒やしの微風】を避けることなどできず、俺は飛ばされて後ろの壁にへと叩きつけた。
「一分しか着れない服!?」
「そうなんですよ☆ 何故かその個体のスライム服は一分しか着れないんですよ☆」
俺が頭にできたたんこぶを撫でる傍ら、アガレスからそんなようなことを話してきた。
ちなみに月夜のあの問題の写真だが……持ってたら百パーセント捕まるため、速やかにスマホから消去した。
「す、スライムに服を溶かされるのお約束すけど、スライムの服自体が溶けるなんて聞いたこともないすよ……!」
「でもなんで下着を着けてなかったんだ?」
「す、スライムの着用はしたことがなかったから、分からなかったんですよ……」
「でも一分しか着れないのなら意味ないんじゃないですか?」
「そうなんですよねぇ☆ でもスライム服ですから、必ず何かの条件を満たせば着れるはずなんです☆ そのなんですが……」
「その条件が分からないことですか」
「ピンポンです!☆ 今までも多くの方に着ていただいたのですが全て惨敗で、アキちゃんにお願いしてみたんですよ。いいスタイルの子はいないかな? て☆」
「何故にスタイル押し?」
「大柄の方が着られますと、面積の大きさに耐えきれず五秒で破裂しちゃいましたので☆」
危険だな。
「では次はわが輩が着るとしよう!」
今度はカッチェラがスライムを受け取り、試着室の中にへと入っていく。
「あいつの着たそうな服なんて、おおよそ想像できるが」
カーテンが開くと、そこにはいかにも肩などにトゲトゲなどをはやした、魔王を思わせる服を着たカァッチェラが出てきた。予想通りだ。
「おお! わが輩の思い描いた通りの服じゃ! 着心地も抜群じゃし完璧じゃな! ツルギ! 早くわが輩も撮ってくれ!」
そう満足しているカッチェラだが、時間は一分を過ぎ──溶け落ちない……だと?
「や、やりましたか!?☆」
「まじかよ……子供なら大丈夫なのか?」
「ふははは! やはりこのスライムとわが輩は相性抜群のようじゃな!」
そうカッチェラが威張った一分三十秒、スライムは溶け落ちてしまった。
パンツ一で胸を張るカァッチェラの姿は、中々に滑稽でおかしかった。
ぷふっ!
「……」
「カァッチェラ、いくらむかつくからって顔面に威嚇オーラ集中させるな」
スライムがびっくりして蒸発しそうになってるじゃないか。
「これは発見ですよ!☆ 時間が延びました☆」
「も、もう一度着てみるのじゃ!」
「ちょっと私にも一度着させてくださいよ。今度は『魔術戦記黙示録』の六々条リンネの服着ますので」
この依頼、以外とどうにかなりそうである。
「そういえば、リリィは着ないのか?」
先ほどから俺と一緒にファッショショーを見ていたリリィ。
リリィも着てみれば何か分かるかもしれないと思ったのだが、彼女は首を横に振った。
「ふくきるのいやぁ」
「だよなー。ならジュースでも飲むか?」
「つるぎぃすきー」
「はいはい」
いやなら無理に着せる訳にはいけない。
そうやって俺と一緒にジュースを飲みながら、カッチェラと月夜の着替えを待っていた。
「はい先輩、メイド服ですよメイド服」
「はいよー(パシャ)」
「ツルギよ! 覇王ライダーじゃ!」
「はいはい(パシャ)」
その後もカッチェラと月夜はスライムを着続け、スク水、チャイナ服、着ぐるみ、水着、ドレス、ナース、巫女、女性警官、浴衣、セーラー服、アイドル服、チアリーダー、バニーガール、魔法少女関連やアニメ関連の衣装、覇王ライダーから覇王ライダークリエイトまでの変身フォームと、多種多様の色々な服を着ていったが、最後には必ず下着姿の二人を見ることとなった。
「完全コンプリート……もう、思い残すことはありません……!」
「く! 今のは惜しかったのじゃ! 一分四十秒まではいったのじゃ!」
「どんまいどんまい」
「確かに少しずつですが時間が延びてますね☆ これは快挙ですよ!☆」
そう話している最中、リリィが突然立ち上がった。
「むぅっ! みんなだけでたのしそうでずるい! りりぃもきるっ!」
そう言って顔を膨らませたリリィは、唖然とした俺たちには気にも止めずスライムを持って試着室の中に入っていった。
「あいつも、怒るんだな……」
「そ、そうじゃな……わが輩も始めて見たぞ」
「リリィちゃんに構わず盛り上がりすぎましたかね……?」
「気にするな。一応着るかどうか聞いたんだがな。きっと自分だけみんなの輪に入れなかったのが寂しかったんじゃないか」
でもこれでリリィも着てくれることだし、何か発見があるかもしれない。
そんな事を思う俺だったが、リリィがカーテンを開くと中から光が差し込んできた。
「うわっ眩しっ! なんだ!?」
姿を現したのはスライム服を着たリリィだったが、なんかすごかった。
言葉に出来ないというか、あえて言うのなら天使。いや羽が黒いから堕天使だろうか。つまり光と闇が合わさってなんか最強に見える、パーフェクトリリィが現れたのだ。
「なんじゃこれは……!」
「なんという黄金比率!」
「とてもお似合いですよお客様!☆」
「……そう」
恥ずかしそうに服の端を握っているが、即座に俺は目線をあさっての方向にへと苦っいた。
勘弁して欲しい……危うくこれからのお前の見方が変わってしまうじゃないか。
「それで時間は……」
俺はいつでも服が溶け落ちてもいいように、カーテンを閉める準備をして待機する。
三十秒──一分──二分──五分──ん?
「もしかしてこれって」
「成功ですよ!☆ お客様!☆」
「すごいじゃん、リリィちゃん。やっるー!」
「じゃが何故なんじゃ? 何故リリィだけが着れるのじゃ?」
「剣さん、二人とリリィさんの違いはなんですか?☆」
「違い? でもカッチェラが着ても時間は延びたんだし、あるとしたら……」
色々考えたが、俺にはこれしか思い浮かばない。
「何も考えてないからとか?」
「それですお客様!☆」
嘘だろ。今結構適当に言ったんだが。
試しにカッチェラに、今度は何も考えずにもう一度着てもらうと、確かに服は五分経っても溶け落ちない。
「これですよ答えは!☆」
「なんでもやってみるものだな」
「ん……んっ……いつまで黙っておればよいんじゃ!」
「あ」
溶け落ちる。決まりだな。
きっとカッチェラが長く着れたのも、こいつの思考が単純だったからだな。
「いやーありがとうございます☆ 本当に助かりました☆ 今回の結果を元に、このスライム服は改良していきますよ☆ 少ないかもしれないですが、こちら報酬でございます☆」
手渡された一つの封筒。中には商品券が五万円分入っていた。
「こ、こんなに貰っていいですか?」
「いえいえ、大変助かりましたから☆ ありがとうございます☆ 是非とも、中野ブロードウェイでお買い物をお楽しみください☆」
「わかりました。ありがとうございます」
依頼を終えた俺たちは、もらった報酬で中野ブロードウェイ内を回り買い物をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます