2-11 暦と時間と度量衡

 収納屋を出た俺は、いったんギルドに戻り、いつものように食堂で日替わりランチを注文する。


「あれ、今日は人少ないね」


 正午に近い時間で、いつもならごった返してるのに、今日は半分以上空席だった。


「今日は無曜じゃからの」


 カウンターにはいつもの元気なオッサンじゃなく、ちょっと覇気のないじいさんがいた。


「ああ、それでか」


 いつもより人が少なく、思いの外静かだったので、メシでも食いながら、いろいろと情報の整理をすることにした。


**********


 まずは暦のこと。

 収納庫の契約が月極めなので、そのへんのところはしっかり理解しておかないとな。


 この世界にも1週間という概念がある。

 ただ1週間は7日じゃなく8日で、七曜の代わりに八曜がある。

 まぁ八曜とか曜日ってのはたぶん、〈言語理解〉さんがいい感じに翻訳してくれてるんだろうけど。


 で、各曜日だが、属性が割り当てられている。

 《地》《水》《火》《風》の曜日が平日、《空》曜日が半休、《光》《闇》曜日は一応平日で《無》曜日は全休って感じ。

 ギルドは年中無休だけどね。

 とはいえ“無曜は休み”って認識はみんな持ってるから、職員はともかく、冒険者は休みをとる人が多いみたい。


 あと、《光》と《闇》の曜日は、イベントに割り当てられることが多く、光曜に結婚式なんかの祝いごと、闇曜に葬式なんかの忌みごとを行うのが一般的なんだとか。

 とはいえ、そこまで厳格に決められてるわけじゃないから、例えば闇曜を休んで無曜と合わせて連休をとって行楽に出かける、とかはみんな普通にやってるみたいね。


 そして一ヶ月は28日。

 一年は13ヶ月で、年始めに0月0日ってのが入って365日。

 4年に1回の閏年、みたいなシステムはないみたい。

 月の数え方は普通に1がつがつって感じ。


 次に時間だが、1日を12分割したひと区切りが『刻』。

 時刻の場合は「こく」といい、時間を表す場合は「とき」という。

 この1刻が大体2時間って感じかなぁ。

 半刻はんときで1時間、四半刻しはんどきで30分、八半刻やつはんどきで15分くらい。

 このへんの翻訳は2時間ひと区切りってことで、俺の中途半端な時代劇知識が影響してんのかなぁって思うけど。


 じゃあそれより短い単位はというと、なんと『分』や『秒』も存在する。

 1刻を120分割したのが1分で、1分を60分割したのが1秒。

 分と秒に関しては、元の世界の感覚に近いから、使いやすいんだけどね。

 ただ、こっちの世界の1秒と元の世界の1秒が、ぴったり同じかっていうと、どうなんだろうね。

 多少ずれがあっても、体感じゃわかんねぇや。


 この分と秒については、ちょっと都合が良すぎると思ってんだよなぁ。

 実際こっちの世界でも、秒刻みの時計を見たことあるから、うまいこと翻訳されてるってわけでもないみたいだし。


 もしかしたら、なんだけど、俺より前にここに来た異世界人がいたりすんじゃねぇの? って思っていろいろ聞いてみたら、やっぱそれっぽい感じだった。

 500年ほど前に現れた、『賢者サンペー』ってのが提唱したらしい。

 名前からして、ちょっと怪しいよね。


 このサンペーって人は、当時大飢饉で滅亡寸前だったこの世界に、農業革命を起こした人なんだとか。

 そのときに、いろんな知識をこの世界に残していった。

 勝手な推理だが、異世界人の内政チートってやつじゃないかなと、思ってんだ。

 こっちの世界で500年前っつっても、時間の流れが違うとかで、実は現代人じゃないかと俺は思ってるんだよねー。


 ややこしいのが、1刻120分てところかな。

 まぁこのへんは、慣れればなんとかなりそうだ。


 度量衡も賢者サンペーが残していて、なんとメートル法が採用されている。

 温度も摂氏だしな。

 長さの基準は、サンペーが持っていた『神の定規じょうぎ』とやらが基準になってるって話だから、そこは元の世界と同じなんだろう。

 ただし、転移したとき、にたまたま持ってた安物の定規とかだと、その正確性に疑いはあるけどね。


 温度は摂氏だから、水の融点を0℃、沸点を100℃として刻んでいくわけだ。

 この摂氏てのは確か、1気圧下ってのが基準だったがはずだが、正直こっちの世界と向こうの世界の気圧が同じかどうかなんて、わからんのだよね。


 で、4℃の水1Lリットルの重量が1kgキログラムだけど、これまた元の世界とこちらの世界の重力が同じとは限らないので、同一かどうかは不明。

 体感的にはあんまかわらんし、特に不便は感じないから、細かいところは気にしなくていいか。

 最初の内は、〈言語理解〉さんが上手いこと翻訳してくれていると思ってたんだが、まさかメートル法が採用されているとはね。

 

 いろいろ考えごとをしてたら、昼食どきが終わったのか、食堂はほぼ空席になった。

 中途半端に残っていた料理を、一気に書き込んで食器を返したあと、2階の洗面所で歯を磨く。


 さて、午後から何をすべきか……。

 よし、どうせなら治療士ギルドに行くか。

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