2-4 魔術士ギルド

 久々に、掃除のおばちゃんに起こされる。

 なんやかんやでたぶん、3時間くらいは眠れたと思う。

 やっぱこの寝台は疲労回復効果がある魔道具らしく、短時間睡眠の割には疲れが取れていたよ。

 疲れはもちろん、ちょっとした怪我ならひと晩で治るらしいけど、深い傷や骨折みたいな大怪我には、あんまり効果がない。

 それでも自然治癒よりは、治りが早くなるらしいけど。


 大怪我に関しては『治療士ギルド』ってのがあって、そっちの入院施設だとかなり早く回復するらしい。

 そのうちお世話になるかもな。

 

 例のごとく日替わりランチを食った俺は、ギルド受付に向かう。

 ちょっと気になることを確認しときたいんだ。


「やあ、今日も薬草採取かい?」


 受付は若い蜥蜴とかげ獣人の男性で、確か名前はフェデーレさんだったかな。

 切れ長の目が特徴のイケメンだ。

 大体午前中~夕方ちょいまえまでは、この人が受付にいることが多い。


「そうですね、薬草採取はもちろんやるんですが、そろそろ魔物狩りもやりたいなと思いまして」

「お、いよいよランクアップ狙い?」

「まあ、それもあります。せっかく解体技術を得たので」

「そういえばおやっさんと、徹夜で解体場にこもってたらしいね。溜まってた仕事がずいぶん片付いたって、おやっさん喜んでたよ」


 ちなみにおやっさんというのは、解体士のクラークさんのことね。

 ギルド職員や冒険者からは、そう呼ばれることが多いみたい。


「で、確認したいんだけど、武器の貸出なんてやってます?」

「やってるよ。はい、一覧表」


 フェデーレさんはレンタル品の一覧表を出してくれた。

 青銅製と鉄製、鋼鉄製の武器や防具がある。

 1日あたりだが、青銅製だと3~5G、鉄製で5~8G、鋼鉄製だと10~15Gくらいか。

 さすがにミスリル製ってのはないらしい。

 とりあえずお試しで、青銅の装備から試してみようかなぁ。


「ところで、ショウスケくんはパーティ組まないの?」


 パーティーなぁ。

 雑談とか食事くらいなら普通にできるようになったけど、団体行動はまだ避けたいんだよなぁ。


「しばらくは、ソロでやるつもりですね」

「じゃあさ、生活魔術くらい覚えといたほうがいいんじゃない?」

「生活魔術っすか?」

「魔物の素材となると、肉なんかはどうしても劣化が早いし、かさばるからね。《冷却》や《収納》くらいは、覚えといたほうがいいんじゃないかな?」


 おお! 《収納》ってことは、アイテムボックス的なアレか!!


「もしかして《収納》って、無限にに荷物を保管できたり、収納物の時間を止めれたりする、アレですか?」

「無限に、とか収納物の時間を止めるとなると、大変だよ? ある程度解体して、魔術で冷凍させてから収納する、っていうのが一般的かな。いや、普通はそういうのが得意な人とパーティー組むんだけど、ショウスケくんソロでやるって言うから」


 そうだなぁ。

 生活にいっぱいいっぱいで、魔法のことなんてすっかり忘れてたけど、やっぱ異世界に来たからには覚えたいよな。


「魔法ってどこで覚えれますか?」

「そりゃもちろん魔術士ギルドだよ。あと、魔法じゃなくて魔術ね」


 魔法ではなく魔術。

 フェデーレさんにそう指摘された俺は、首を傾げた。

 あんまり気にしてなかったけど、そういやこっちの人たちは基本的に魔術って言ってるような気がするなぁ。


「えーっと、魔術と魔法の違いってなんすか?」

「うーん、説明が面倒だから、魔術士ギルドで訊いてよ」


 って、教えてくれねぇのかよ。


「あー、わかりました。あと、魔術士ギルドって、冒険者ギルドに登録してても大丈夫です?」

「もちろん。魔術士ギルド、治療士ギルドは最低限登録しておいたほうがいいよ。ギルド同士お互い助けあっている仲だしね」

「へええ、そうなんすね」

「ショウスケくんもよく知ってる、ダジギリ草の根は、魔力回復薬の原料なんだけど、依頼主はほとんどが魔術士ギルドなんだよ?」

「ああ、そうだったんですねぇ」


 薬草採取に慣れて、いろいろ種類も増やしてるんだけど、そのなかにはいま話にでただダジギリ草ってのもあって、納品しまくったことを思い出す。

 ダジギリ草の根は、結構高値で買ってくれるから、助かるんだよな。

 掘るのが大変だけど。


「カード貸して。連絡しとくから」


 フェデーレさんにカードを渡すと、例のごとく台座に乗せて手続きを始めた。

 異なるギルド間でも、なにかしらネットワークができてんのかね?

 やっぱハイテクだわ、この世界。


「はい。とりあえず、魔術士ギルドと治療士ギルドに、連絡しといたから。生活魔術を習得できたら、治療士ギルドで簡単な回復魔術も教えてもらっときな」

「あざーっす!」


**********


 魔術士ギルドは、冒険者ギルドのすぐ隣の建物だった。

 冒険者ギルドに比べて小さいのは、宿泊施設が狭いのと、解体施設がないから、らしい。


「いらっしゃい。ショウスケちゃんね?」


 受付のおねえさんが俺を見てにっこりと微笑む。

 いや、この色気色気満開な感じは、むしろおねいさんと呼ぶべきか。

 いかにも魔女って感じの三角帽子を被り、マントを羽織っている。

 服はこれ、チューブトップっていうんですか? 肩紐とかない感じのやつ。

 マントと服のあいだから見える谷間が……、こりゃいい目の保養になります。

 インドアな人なんだろうか、お肌が真っ白だわ。


「ちょっとぉ、そんなに見られるとおねーさん照れちゃうわぁ」


 いやいや、それ完全に見せてるよね? 隠そうと思えばマントで隠せるよね? ってかいま、ちょこっとマントの位置ずらして、肌色面積増やしたよね!?


「あ、すいません」


 でも一応謝っておこう。


「じゃ、早速だけど、カード出してもらえる?」

「ええっと、冒険者カードでいいんですか?」

「ふふ。それはギルドカードっていってね。どのギルドでも兼用できる仕様なのよ。冒険者の人は冒険者ギルド以外に登録しない人が結構多いから、冒険者カードって呼ぶ人が多いけどねぇ」


 そうだったのかー!!

 新事実に内心驚きつつ、とりあえず俺はおねいさんにカードを渡した。

 おねいさんは、台座にカードを乗っけて手続きを始める。

 冒険者ギルドでよく見た作業だけど、それはこっちでも同じみたいだな。


「じゃ、血をいただくわね。……痛くしないから怖がらないでね」


 いや、わざとエロい感じで言ってるよね、この人。

 俺はドキドキしてるのをできるだけ隠しながら、一滴だけ血を提供する。

 まぁ顔が熱いから、真っ赤になっててたぶんバレバレなんだろうけど……。

 採血は問題なく終了し、例のごとく傷は瞬時に治療された。


「じゃ簡単に説明するわね」


 ってことで魔術士ギルドについて、簡単な説明を受けた。

 ここ魔術士ギルドでは、魔術の習得や魔術訓練補佐、あと魔術の研究なんかが行われていて、冒険者ギルドみたいな依頼もあるみたい。

 ランクシステムも、冒険者ギルドと変わらん感じだった。


「じゃあ、ショウスケちゃんは事前貢献が結構あるから、登録料免除でFランクからのスタートにするわね」

「事前貢献……?」


 なんだそりゃ?


「ほらぁ、ダジギリの根を、たっくさん納品してくれたでしょ? 冒険者ギルド経由でも、魔術士ギルドからの依頼を受けたことになってるから、ショウスケちゃんは、充分ランクアップの条件を満たしてるのよぉ」


 へええ、そうなんだ。


「じゃあ、例えば魔術士ギルドの依頼は、こっちで直接受けたほうがいいとかってあります?」

「それはないわねぇ。どちらで受けても、報酬や貢献度は変わらないわよ」

「そうですか」


 そのへんはマジできっちり提携とってんのな。

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