2-3 解体講座

 エレナさんに連れられて、俺は冒険者ギルドの地下にある解体場に到着した。

 解体場はかなり広くて、体育館くらいの広さはあるかな。

 ドラゴンとかワイバーンみたいな大物を捌くのに、それなりの広さがいるんだと。

 やっぱそのへんのもいるのね……。


「でもそんな大物、どう考えても階段とか通路を通らないと思うんですけど?」

「そのあたりは転移魔術があるから大丈夫よ」


 ほほう、転移魔術ときたか。

 やっぱり、ある意味元の世界よりハイテクだな、こりゃ。


 奥には解体された魔物の素材や、解体待ちの魔物の死骸が積み上げられてる。

 解体場っつーから血まみれの汚れまみれみたいなところを想像してたんだが、意外と綺麗だった。

 たぶんここにも、浄化施設みたいなのがあるんだろうね。

 便利だよなぁ……。


「おう、エレナちゃん。そいつが今日の生徒か?」


 解体場にいたのは、スキンヘッドのいかついオッサンだった。

 半袖のTシャツみたいな服の上に、ツヤのある革のエプロンを身に着けている。


「ええ。Gランク冒険者のショウスケさん」

「ども、ショウスケっす」


 こっちじゃみんなファーストネームで呼ぶから、俺もファーストネーム名乗るのにずいぶん慣れた。


「おお、アンタが噂の薬草名人か」

「なんすか、それ?」

「ショウスケさんが採取する薬草は、状態がいいから評価が高いのよ」


 へええ、そんなことになってんのね。

 褒められたと、思っていいんだよな。


「その薬草名人が、いよいよ魔物退治を始めようってわけかい?」

「今日はたまたま遭遇して、なんとか返り討ちに出来たんですけどね。今後もそういうことがあるかもしれないので、せっかくなら解体も覚えておこうかと」

「そうかいそうかい。そりゃいい心がけだ。ああ、自己紹介が遅れたな。俺はトセマ冒険者ギルド専属解体士の、クラークだ」


 エレナさんがクラークさんに、俺が仕留めたジャイアントラビットを渡す。


「じゃ私はこのへんで。あとよろしくお願いしますねー」

「おう」


 エレナさんを見送ったあと、クラークさんは俺が仕留めたジャイアントラビットを検分する。


「ふむ、上手いこと喉を一撃で仕留めてるな。傷も少ないし、いい感じに血抜きもできているじゃないか」

「まあ、偶然出した鎌に、そいつが突っ込んできたので」

「なるほど、血抜きは偶然か。そりゃ運がよかったな」

「ですね」

「ではまず俺が手本を見せるから、よーく見ておけよ」


 そう言うと、クラークさんは解体用ナイフを使って、手際よくジャイアントラビットを解体していく。

 皮を剥がし、腹を割いて内蔵を取り出し、体を部位ごとに切り分け、肉と骨をバラす。

 10分とかからず、ジャイアントラビットの死骸は、立派な素材になった。


「とまあ、こんな感じだ。今はわかりやすくするために、あえてゆっくり解体したが、そに気なれば、ジャイアントラビットくらいなら、いまの半分以下の時間で解体できるぞ」


 おお、あれでもゆっくりやってたのか。

 すげーなオッサン。


「皮にはまだ脂肪や筋がこびりついてるし、細かい骨や取りきれなかった内臓なんかも残ってるんだが、それは魔術や魔道具でやったほうが早いからな。ここまでやれば解体完了ってことで問題ない」


 ファンタジーものなんかで、たまに皮に付いた肉をせっせとこそぎ落とすシーンとかあるもんな。

 便利な魔法があるもんだ。


「よし、じゃあやってみろ」


 そう言うと、クラークさんは解体場にストックあった、別のジャイアントラビットと、新品の解体用ナイフを俺に手渡した。

 さっき見た手順を思い出しながら、実践してみる。


 はっきり言おう。

 自分でも驚くほどうまくできた。


 たぶんだが、ステータスアップによる【賢さ】や【器用さ】が影響してるんだと思う。

 1回見ただけなのに、クラークさんの動きの意図をちゃんと理解できたし、バッチリ記憶もしていた。

 いざ死骸にナイフを入れてみても、驚くほどすんなり体が動くんだよな。


「ほう、なかなか筋が良いな。では他の物もやってみるか」


 そのあと俺は、ジャイアンドボア、レッドフォックス、グレイウルフ、ゴブリン、オーク等々、いろんな魔物の解体を教えてもらった。

 最初は人型の魔物を解体するのに抵抗もあったが、すぐに慣れた。


《スキル習得》

〈解体〉


 10体くらい解体したところで、〈解体〉スキルを覚えた。

 これを覚えてからはさらに手際が良くなり、そのあと何度かスキルレベルアップ通知を受け、最終的には初見の魔物でも、手本なしで捌けるようになった。


「うーむ、ここまで筋がいいヤツは初めてだ。気が向いたら解体士になることも考えておいてくれな」

「ありがとうございます! クラークさんの教え方が、うまいお陰ですよ」

「そ、そうか?」


 クラークさんの顔が少し赤くなる。

 オッサンが照れる姿ってのは、あんまみてて楽しいもんじゃないな。


「しかしあれだな。順調すぎて時間を忘れて作業しちまったな。たぶんもう朝じゃねぇかな?」


 マジかよ!

 日暮れ前に始めてたから、12時間くらいぶっ通しでやってたんだな。


「じゃあ、これ」


 そう言って俺は解体用のナイフをクラークさんに返そうとする。


「ん? それは解体講座のオマケだぞ?」

「え、そうなんすか?」


 エレナさん、ちょいちょい説明不足なんだよな……。

 ナイフ付きで150Gなら高くはないか。

 なんにせよ、スキル習得できたのはでかいわ。


「あー、ちょっと待て」


 そういうとクラークさんは、奥から別のナイフを持ってきた。


「これ持ってけ」


 そのナイフは、明らかに今回渡されたものより上等で、しかも新品だった。


「これはミスリル製の解体用ナイフだ。これなら腕さえあればドラゴンの解体も出来るぞ! しかも鞘には浄化魔術が付与してあるうえに、研磨機能もあるから、メンテナンスも楽だ」


 おお! ファンタジー金属ミスリル!! やっぱ存在すんのな!!


「いいんですか?」

「おう。久々にいい才能を見れたからな。それに講座とはいえ実用レベルで解体してもらったってのもある。そのナイフの三割くらいの仕事はこなしてるよ。まあ気が向いたら、今後も手伝ってくれや」

「ありがとうございます! 大事に使わせていただきます!!」

「おう! 武器としてもそこそこ優れてるが、できれば戦闘では使わんでくれよ」

「わかりました! またお邪魔しますね!!」

「おう!!」


 たぶん売ればすげー値段になるんだろうけど、オッサンの期待を裏切るような真似はよそう。

 解体場を出て一階に戻ると、オッサンの言うとおり夜が明けていた。

 朝日を見たら一気に疲れが出てきたので、そのまま浄化設備で浄化を受けた後、寝台に直行した。

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