2-5 魔術を覚えよう

「ショウスケちゃんは魔術を覚えたいのだったわね?」

「はい、そうなんですよ」


 そう、それが本題だ。


「じゃあ基礎魔道講座はサービスしちゃいましょ」

「マジっすか? ありがとうございます!」


 なんかよくわからんけど、タダってのはありがたいことだ。

 フェデーレさんが言ってた魔法と魔術の違いってのも、その基礎なんちゃら講座で明らかになるはず!


「あら可愛い」


 やべぇ、笑顔がエロい……。

 と思ったらおねいさん、急に真顔になって俺のことじっと見だした。

 やばい、ドキドキが止まんねぇ……。

 10秒くらいでおねいさんの表情が和らぐ。


「ショウスケちゃん、魔力に鈍感なほう?」

「あー、えっと、魔力とか感じたことないですねぇ」


 そうなんだよなー、俺ってば〈魔力感知〉スキル、持ってないんだよなぁ。

 覚えるにしても、SP全然足りねぇし。

 でもこれまでの経験上、スキル習得は努力でなんとかなるって分かったし、魔法も使えると思いたい。


「そ。じゃあついてきて」


 おねいさんが立ち上がり、受付卓から出て歩き始める。

 ミニスカートにロングブーツ、真っ白な魅惑の絶対領域! ってのを期待してたけど、床に着くくらいのロングスカートだったよ……。

 あ、でもこれはこれでありかも。


 俺はおねいさんに連れられて、四畳半くらいの小さい部屋に入った。

 部屋の中には木製の椅子が1脚あるだけで、他には何もなかった。

 入った瞬間、なにかにされるような感覚を受け、軽く眉をひそめたところを、おねいさんに見とがめられる。


「ふふ、なにか変な感じした?」

「そうですねぇ。なんかこう、圧迫されるというかなんというか……」

「そ。じゃあ素養はあるのね」

「はぁ」

「この部屋はね、特別に魔素の濃度を上げてるのよ」

「魔素……ですか?」


 魔素というのは、魔法の原動力=魔力の素となるものらしい。

 この世のあらゆるものに含まれ、空気中にも漂ってるらしい。

 もちろん人の体の中にも、魔素は流れている。

 そういや俺のこの体は、こちらの世界に合わせて作られてるとかなんとか、お稲荷さんが言ってたな。

 じゃあこの体の中にも、魔素は流れてるんだろう、きっと。


「なにかを感じ取ったということは、魔力感知の素養があるって証拠よ。じゃ、そこに座って」


 俺は、部屋の中央にある椅子に座った。

 おねいさんは背後に立って、俺の肩に手を置く。


「それじゃ、今からおねーさんが魔力を流すから……、ちゃんと感じて?」


 ムム……、魔力以前に、その言葉遣いに下半身が反応しそうです……!

 ジャケット越しに伝わるおねいさんの手の感触が……、ほとんどねーよ豚野郎オークの革のせいでよ!!

 クソっ!! ジャケット脱いどくんだったぜ!!


「どうかしら?」


 いかんいかん、気を取り直して……。

 うーん、なんとなーく、なにかが流れてきてるような……。


【スキル習得】

〈魔力感知〉


 お! スキル習得!!

 と思ったら、なんかすげーことになってるぅ!?

 おねいさんの手から流れ込んでくる魔力が、体の中をぐるんぐるん巡ってんのがすげーわかる!!

 しかも部屋の中の魔素? それがなんか目に見えるくらい漂ってんのもわかるわー。


「あら? もう大丈夫みたいね」


 そう言うと、おねいさんは俺の肩から手を離した。

 うう、名残惜しい……。


「じゃあ次は魔力操作ね。体の中を巡る魔力は感じ取れたと思うから、今度はそれを動かすように、イメージしてみて」

「これを動かすんですか?」


 うーん、なんとなく言わんとしていることは……わからんでもないなあ。


「そ。体の中の流れを変えてみたり、体の外に出してみたり、出したものを取り入れてみたり。あとは部屋の中の魔素を取り込むようなイメージもね。これはちょっと時間がかかると思うから、しばらくひとりで頑張ってみてね」


 それだけ言い残して、おねいさんは部屋を出て行ってしまった。

 うーん、名残惜しい……。


 とりあえず俺は、おねいさんの期待に応えるべく、魔力操作の訓練に励んだ。


《スキル習得》

〈魔力操作〉


**********


 気が付くと、見知らぬ天井が見えた。

 周りを見てみると、冒険者ギルドの寝台っぽいけど、なんか雰囲気が違う。

 俺の私物類がすぐ近くに置かれてたので、とりあえず全部持って、部屋を出た。


 やっぱ寝台の外の造りが、冒険者ギルドとはちょっと違うな。

 階層の広さ自体半分くらいだし。

 階段を見つけたので下りてみると、何となく予想していたが、そこは魔術士ギルドだった。

 受付には、例のエロいおねいさんがいた。


「あら、気がついたのね?」

「えーっと、どうも」

「ふふ……。驚いたわよぉ、昨日なかなか出てこないから様子を見に行ったら、ショウスケちゃん倒れてるんだもの」


 昨日ってことは、日付変わってんのか。


「あの、すいません。じゃあおねいさんがあそこまで……?」

「ハリエット」

「はい?」

「おねーさんの名前。ハリエットっていうの」


 おお、なんかドイツの舞台女優みたいな名前だな。

 なんつーか、この妖艶な感じにぴったりだ。


「えっと、じゃあハリエットさんが運んでくれたんですか?」

「まさかぁ。職員に運んでもらったわよぉ」

「俺はなんで倒れてたんすかね?」

「魔力切れじゃないかしら? 魔力操作に精を出しすぎたのね」


 そういやMP0で気絶って、ステータスの説明にあったな。


「でも、魔力切れを起こしたということは、魔力操作もできるようになったってことよね?」

「ええ、おかげさまで」

「ふふ。ウチの寝台でお休みしたから、いまはもう元気でしょ?」

「言われてみれば、なんかすっきりしてますね」


 ハリエットさんの言うとおり、疲れはまったくなかった。


「やっぱここの寝台は、冒険者ギルドのとは違うんですか?」

「そうね。冒険者ギルドの寝台は肉体的な疲労に効くのよ。そしてウチのは精神的な疲労や、魔力の消耗なんかに効くの。もちろん体の疲れもある程度はとれるけどね」

「そうですか。助かりました」

「10Gね」


 おねいさんが俺に向けて手を出す。


「はい?」

「ウチの寝台、1回10Gなの」

「あ、ああ。そうなんですね」


 まあしょうがないかな。

 スキル習得の対価と考えれば、安いもんだろ。

 とりあえずギルドカードを渡した。


「ごめんなさいね。サービスしてあげたいんだけど、こればっかりはねぇ」

「ああ、いえ、いいっす」

「さてと。じゃあ基礎魔道講座に進んでもいいかしら?」


 そういうと、ハリエットさんは俺を見て艶やかに微笑んだ。

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