1-11 初依頼

 さて、腹も膨れて、ステータスの確認もできたし、初の依頼といきますか!


「すいません、なにか依頼を受けたいのですが」

「ああ、そこの掲示板から適当なの選んで」


 受付にいくと、昨日はいなかったおっちゃんがいたので、声をかけてみたらダルそうに返されたよ。

 おっちゃんに指されたあたりにいくと、大きな掲示板にいろんな依頼が貼りだしてあった。

 いろいろあったけど、とりあえず初依頼だし、簡単なものにしとうこうかな。


「というわけで、これお願いします」


 掲示板から1枚の紙を剥がし、受付に持って行った。


「えーっと、Fランクの薬草採取ね。んじゃカード」


 本当ならGランクのお使い系がいいんだろうけど、街にきたばっかの俺にはむしろハードルが高いと思ったので、Fランクでも安全そうなのにしてみた。

 一応あの森を生き延びたわけだし、なんとかなるだろう。

 仮に死んだとしても、街の入り口からやり直せるしな。

 ……そりゃ死なないに越したことはないけどさ。


「はい、これ」


 受付のおっちゃんにカードを渡す。


「お、君初めてか。採取キットは持ってる?」

「……いえ」

「売店で買えるし、なんなら貸出もやってるけど」

「いくらですかね?」

「売店だと一番安いセットで30Gくらいかね。貸出だと1日1G」

「じゃあ貸出で」

「はいよ。じゃあこの袋にギョム草入れてきてね。潰れるくらいギュウギュウに押し込んで一袋10Gだから。んでこれが採取キット」


 そこでおっちゃんから土のう袋くらいの麻の袋10枚に、鎌とハサミと軍手みたいな布の手袋、あと簡単な地図と薬草の写真を渡された。

 袋はかなりキレイにされてるね。

 鎌とハサミは相当使い込まれてるけど、手入れはちゃんとされてるみたいだ。

 軍手は元の世界のものと比べても遜色ない出来だと思う。

 新品じゃないけど、浄化されてて充分綺麗だ。

 こっちの浄化技術ってのは、元の世界の洗濯技術より、高度なんじゃないかな?


 そして、なんとこの世界には写真が存在するんだわ。

 なんでも転写魔術ってのがあって、術者が見た対象を、紙なんかに写せるんだと。

 で、さらに転写したものを別の紙に写せる複写魔術もあるらしい。

 同じような効果を持った魔道具もあるから、印刷に近い技術はあるみたいだ。

 異世界ものの定番として、印刷技術がないため本が異様に高価ってのがあるけど、この世界じゃそれほどでもないみたい。

 ただ、紙の原価がぼちぼち高いみたいだから、元の世界ほど本が安いってわけでもないんだけどね。


「採取ポイントあたりは安全だけど、たまに魔物もでるから気をつけてな」

「どうもっす」


 そうかー、魔物出るのかー。

 〈気配察知〉全開で、戦闘を避けつつ頑張ろう。


 街を出ようとすると、門番に止められた。

 昨日とは違う人だった。


「どこへ行く?」

「えーっと、ギルドの依頼で薬草の採取です」


 ささっとギルドカードを提示。


「うむ、気をつけてな」


《スタート地点を更新》


 お! 街から出たらスタート地点が更新された!!

 ステータスを確認すると、『トセマの街・西門前』ってなってるわ。

 なんとなく法則がわかってきたぞ。


**********


 採取ポイントまでは、歩いて1時間ほどかかった。

 ギョム草ってのが、かなり群生してる場所だね。

 ただ、他の雑草も一緒に生えてるから、選別が面倒だったわ。

 鎌で雑草と一緒くたに刈って、あとで選別するのと、選別してからハサミで切るのと、効率はあんまかわらんかった。

 日暮れまで頑張って、袋3つぶんになったよ。

 なんとなくの感覚だけど、日替わりランチをワンコインランチで考えると、1G=100円くらいかな。

 今日の成果だと袋3つで30Gだから、半日で約3,000円か。

 丸一日頑張って50~60Gくらいになりそうだから、まあ日銭を稼ぐにゃちょうどいい仕事なのかな。


 とはいえ、ギルドの宿泊施設ありきの話だけどね。

 普通に宿とって寝泊まりしようとたら、全然たりねぇ……。

 いずれは魔物狩って生計立てたいよね、冒険者ギルドに所属したわけだし。


**********


 街に戻ると昨日と、おんなじくらい暗くなってた。

 門番は昨日のちょいイケメンの、えーとアディソンさんがいたよ。

 遅番とかかな、この人。


「やー、早速頑張ってるみたいだね」

「どうも。おかげさまで」

「まあ無理せず頑張んなよ」


 ギルドカードを提示したらすんなり通れたので、そのまま街に入った。


《スタート地点を更新》


 やっぱりな。

 多分だけど、街に入ったっリ、街から出たりすると、スタート地点が更新されるんだよ。

 他にも条件があるかもしれんけど、それはおいおいわかるだろう。


 ギルドに着いたら、受付にエレナさんがいた。

 この人も遅番みたいな感じなのかな。


「これ、お願いします」


 薬草の詰まった袋と、空袋、あと借りていた採取キットを返す。


「あら、ショウスケさん。早速依頼を受けてくださったのですね。おつかれさまです」


 お、名前覚えててくれた!!

 嬉しいねぇ。


「ちゃんとギョム草の葉だけ選別してくれてますね。丁寧なお仕事です」


 そうなの? こういうのってきっちりやらないといけないイメージなんだけど。


「これなら1袋12G出せますね。報酬はカードに?」

「お願いします」


 やった! なんか予定より増えたぞ!!

 とりあえず報酬が36Gで、採取キットのレンタル代1Gと、登録料の返済ぶん5Gを引かれて、30G振り込まれた。

 これで残額は35Gになったな。


 お、もしかして自分で仕事して給料的なものもらうのって、生まれて初めてじゃね?

 自慢じゃないけど、俺はバイトもしたこと無いからな!

 ホント、なんの自慢にもならないけど……。


 しかしあれだな、働いてお金を稼ぐって悪くない感覚だな。

 肩書だけじゃなく、ちゃんと仕事して報酬もらって……。

 真の意味でいま、ようやくニート脱却ってとこかな!


「あ、今日も寝台使いたいんですけど」

「はい。では……、236番の寝台をお使いください」


 カードを受け取った俺は、2階へ上る前に食事を済ませることにした。

 いろいろメニューが並んでるけど、一品もので3~10Gくらいするようだ。

 ランチタイムより値段が上がるのは元の世界と同じか。

 飲食スペースは8割ほど埋まっていて、ほとんどの客がビールっぽい飲み物片手にハムやソーセージ的なものをつまんでいる。


「何にするね」


 カウンターには、昼間とは違う、渋い雰囲気のおっさんだった。


「普通の食事で安く上がるものってありますか?」

「なら日替わりディナープレートだな。8Gだが、プラス2Gでビールかワインを付けられるぞ」


 俺にはそもそも酒を飲む習慣がないので、とりあえず食事だけにする。

 ってか、ビールもワインもあるんだな。


 出てきたのはランチとほぼ同じだったが、パンが1個多いのと、スープがビーフシチューぽいのにかわっていた。

 正直、ランチとまったく同じもので値段が上がっててもしょうがない、と思っていたので、少しでもグレードが上がっていたのはちょっと嬉しい。

 ハンバーグは、昼間と全く変わらない味だった。

 ビーフシチューっぽいのは、結構具だくさんで美味かったな。

 黒パンとの相性も良かった。


 食事を終えた俺は、2階に上がって歯を磨き、浄化施設を使ってすっきりしたあと、寝台に入った。

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