1-6 仮登録

 門番の人に促されて街を歩き、冒険者ギルドにたどり着いた俺は、そのまま建物の中に入った。

 街灯同様に、建物内もちゃんと照明設備があるらしく、かなり明るかった。

 で、意外と小綺麗な感じだわ。

 まあでもガラの悪そうなのがチラホラいるね。

 入ってすぐのところは、待ち合わせスペースみたいになってんのかな?

 4~6人がけテーブル席が20卓くらいあって、半分ほど埋まってる感じ。

 そのスペースの脇を抜けて、受付みたいなところに連れていかれた。


「やっほーエレナちゃん」


 うわー! ケモミミだあー!!

 門番の人に声をかけられたエレナさん、ケモミミだったよー!!

 あれかな、見た感じ、猫獣人かな?

 可愛いなぁ……。

 受付卓で見えないけど、尻尾も生えてんのかなぁ……。


「どうもアディソンさん……。もうすでに厄介事のにおいがしてるんだけど、気のせいかしら」


 へえ、このちょいイケメン門番の人、アディソンっていうんだ。

 っつか、語尾に『ニャ』はつかないのな……、残念。


「さっすがエレナちゃん! 冴えてるね」


 うわ、エレナさん、汚物を見るような目でアディソンさん見てるよ。

 んでそれを飄々と受け流すアディソンさん。

 メンタルつえーな、おい。


「……で、そちらの方は?」

「この人ね、森で迷子になったんだって。文なし身分証なしだけど、素材持ってるからよろしくねー。じゃ、僕は門閉めなきゃだから、行くねー」


 アディソンさんは一気にしゃべり終えたあと、さっと身を翻して歩き出した。


「ちょっと! ウチは浮浪者の引き受け所じゃないのよ!!」


 エレナさんが怒鳴ったけど、アディソンさんは手をヒラヒラ振っただけで、そのままギルドから出て行った。

 っつか、浮浪者……。

 ちょっとショック。


「はぁ……。じゃあそこに座ってください」


 促されるまま、俺は受付卓の前にある丸椅子に座った。

 エレナさん……近くで見るとやっぱ可愛い……。

 あ、なんか営業スマイルっぽい表情になった。


「お名前は?」

「山岡勝介です」

「ショウケ・ヤマオカさんね」


 あ、姓名逆になった。

 うまいいこと翻訳されて、今後はそう名乗れってことなのかな?


「ご出身は?」

「すいません……、森で何日か遭難してたらしくて、昔のことよく覚えてないんです」


 さっきエルフちゃんに提示された、記憶喪失という設定を、そのまま使うことにした。

 なんかあったら「思い出せない」で乗りきれるだろうし。


「そう……、それは大変でしたね」


 しかしあれだな、俺普通に話せてんな。

 門番の人はともかく、こんな可愛い女の人なんて、以前なら目も合わせられなかっただろうに。

 もしかして、〈恐怖耐性〉って、対人恐怖症にも効果あったりして。


「ここに来られたということは、冒険者ギルドに登録するということでよろしいですか?」

「えーと、あ、はい。たぶん……」


 ここからは簡単な冒険者ギルドの説明だった。

 登録することで、冒険者ギルドが身元を保証してくれるらしい。

 登録の際に血液――っつっても一滴だけね――を提供する必要があり、もし以前に登録の経緯があれば、そのときの情報が出てくるんだとか。

 登録情報は各地のギルドで共有されるらしく、これは冒険者ギルドにかぎらず、商業系ギルドや職人系ギルド他、主要ギルドでも共有されるんだと。


 なんか妙にハイテクだな。

 まあでもこのハイテクネットワークのおかげで、俺みたいな不審者もとりあえず登録できるんだろう。

 万が一登録後に問題起こしても、その情報がすぐに共有できるわけだし。


「とりあえず詳しい説明は後にして、仮登録という形を取らせていただいてよろしいですか?」

「あ、はい」

「字は書けますか?」

「えっと、たぶん」


 表みたいなのが書かれた紙と、ペンを出された。

 こういうのは、ファンタジーものでお馴染みの羊皮紙と羽ペンかと思ったけど、紙はなんか粗い和紙みたいな感じで、ペンは万年筆っぽいな。

 インクも内蔵なのかな?

 とりあえず書いてみたら普通にインクは出たね。

 試しにカタカナで『ショウスケ・ヤマオカ』って書いたら、勝手に違う文字で書かれたわ。

 変な感じ……。

 あといろいろ項目あったけど、年齢と性別くらいしか書けることはなかったわ。


「では次に血液登録しますね」


 なんかクレジットカードくらいの大きさの、透明なカードをはめ込んだ台座みたいのを出される。

 その台座に丸い窪みみたいなのがあり、そこに指を押し当てるように指示された。

 指を当てると、チクっと軽い痛みが走ったあと、カードが淡く光った。

 指を見てみたけど、特に傷痕はなかった。


「採血後に、自動で回復魔術がかかるようになってますから、傷の心配はないですよ」

「はぁ」


 そういうことは、先に言っといてくれ。


「……残念ながら、過去にギルド登録した履歴はないようですね」

「そうですか……」


 そりゃそーだ。

 しかし一応残念そうな雰囲気は出しておく。


「ではこれで仮登録は終了です。お時間よろしければ詳しい説明をさせていただいても?」

「あ、はい、お願いします」


 とりあえず俺は仮登録ではあるが、冒険者ギルドに加入した。

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