1-5 初めての街

『下流に向かってこの川沿いを歩いていれば、街が見えてくるわ』


 あの金髪エルフちゃんの言葉を頼りに、ひたすら小川沿いを歩いた。

 喉が渇けば川の水を飲み、腹が減ったらそのへんに成ってる、木イチゴとかブルーベリーみたいな果物を食べる。

 見た目通りに甘酸っぱくて美味しく、いまのところ腹痛はない。


 たまにステータスでHP確認してたけど、とくに変化はないから、飢え死にの心配はなさそう。

 いや、さっきの脱水症状のときに、HPが減っていたかどうかは未確認だから、あくまで気休めみたいなもんだけど。


 そんなこんなで日暮れ近くまで歩いたところで、やっとこさ見えてきたよ、街が。

 たぶん、街だと思う。

 まあまあ高い市壁に囲まれてる場所があって、壁の向こうに建物の屋根っぽいのがちらほら見えるから、アレ絶対街でしょ。たぶん、彼女が言ってたやつ。

 小川から離れる形になるので、最後に水をがぶ飲みして、街に向かって歩き始めた。


 20分くらい歩いたかな。

 日が落ち始めると、暗くなるのは早いね。

 塀にたどり着いたときには、もうほとんど真っ暗だったよ。

 

 塀沿いに5分くらい歩いたら、ようやく門らしきものが見えてきた。

 で、門番らしい人が立ってたよ。

 さて、話しかけられるかな、俺。

 長いこと引きこもりやってて、コンビニ店員とすら目を合わせられなかったもんなぁ。

 さっきは救出に対するお礼、みたいな流れで話せたけど、あれは異常事態だからノーカンだ。


 あー、なんかドキドキして……こないな。

 あれ、意外と平静かも。

 門番の人の格好、軽鎧っていうんだっけ? 胸当てと手甲と金属ブーツだけ、みたいな。

 遠目に見るといかつそうな感じだったけど、近くで見るとなんか若くて優しそうだな。

 俺よりちょい背が高いから、180センチくらい?

 まぁまぁイケメンだね。


「あのー、すいません」


 お、ふつーに声かけれたよ。


「なにー?」


 うわー、なんかこの人ダルそうにしてんな。


「あの、森で迷ってしまって……。なんとか森を抜けてここまでたどり着いたんですが、どこか休めるところはないでしょうか」

「ふーん、森でね。ずいぶんボロボロだね」

「はぁ……」

「身分証は?」

「いえ、ないです……」

「お金は?」

「持ってません……」

「そりゃ参ったね。とりあえず日没後は原則通行禁止だけど……、ギリギリセーフかな。持ち物は……」

「えーっと、このホーンラビットの角だけです」

「へぇ、ホーンラビットの……。とりあえず調べさせてもらうね」


 そう言うと門番の人はボディチェックを始める。

 アッー! そんなとこ……触られたら、声が……。


「ホント、何も持ってないんだねえ」

「……はい」


 門番の人が、急に真顔になってこっちを見てる。

 やだ……、ちょっと照れる……。


「魔術の方も危険なものは使えなさそうだね」


 あ、なんか試されてたのかな?

 たぶん魔法に関してなにか調べてたんだろうけど、〈魔力感知〉持ってないから反応できなかった、とかそんな感じだろ。


「よし、じゃあとりあえず門とおって街に入って」

「あ、はい」

「おーい、ここ頼むね!」


 門番の人、門の反対側にいる相方っぽい人に見張り任せるみたいだな。

 俺はそのまま門番の人に言われたとおり、門を通って街に入った。


「そのまま歩いてー」

「あ、はぁ……」


 あれ、いまなんか通知音がなったような……。


《――を更新》


 あ! お知らせ出てたのに見逃した!!

 なになに? 何か更新したみたいなのでてたよね? もっかい出ない?


「ちょっとー、なにキョロキョロしてんのー。うしろついていくから、とりあえずまっすぐ歩いてー」


 ああ、もう! 仕方ない、言われたとおりにするか……。

 それにしても、「ついてこい」じゃなくて「前歩け」なんだな。


 しかしあれだな、やっぱ昔のヨーロッパ風なんだな。

 いま歩いてるのが中央の大通りみたいな感じ?

 結構いい感じの石畳だわ。

 そういやもうほぼ真っ暗なのに、街に入ると結構明るいな。

 よく見たら街灯が結構あるわ。

 流石に電気ってことはないだろうから、ガス灯ってやつかな?

 いや、ガス灯って名前は知ってるけど、あれって燃料ガスなのかね。

 原理がわからん。

 ああ、でもファンタジー世界で魔法があるのは確定だから、魔道具ってやつかもしれないな。

 うん、そっちの方がしっくり来るわ。


「あ、そこ右に曲がってー」


 その後も、門番の人の指示に従って歩いて行った。

 って言っても、そんな複雑な道順じゃないけどね。

 基本的には街灯が立ってる広めの通りばかりだったわ。

 で辿り着いたのが……冒険者ギルドだって。


 キタね!!

 異世界に来たからには外せないよな!!

 なんでここが冒険者ギルドってわかったかって?

 看板が出てるからな!!

 よしよし、ちゃんと読めるわ。

 〈言語理解〉さんあざーっす!!

 しかし明らかに見たことない文字なのに読めるって、なんか変な感じだなあ。


「なーにニヤニヤしてんのさ。入った入った」

「あ、はい、すんません」


 実際に冒険者ギルドを目の当たりにし、どうやらニヤついてしまったらしい。

 俺は門番の人に促されて、建物中に入った。

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