第307話、エピローグ②

 仕事を終えた俺とルーシアは、オストローデ城下町の中心部にやってきた。

 現在、俺とルーシアは一緒に住んでいる……と言っても同棲じゃないぞ。とある家に間借りしているのだ。もちろん部屋は別だからな!

 大きな三階建ての家の裏口に回り、ドアを開ける。


「ただいまー」

「おかえり、せんせ、ルーシア」

「ただいま、三日月」

「ただいま、シオン」


 そう、ここは三日月の家。

 さらに言うと、三日月とクラスの女子数人が住む家……宿舎みたいなものだ。

 俺とルーシアが戻ると、足下に大量のネコと、白とクリーム色のフワフワした動物が群がってきた。


「「「「「にゃあ」」」」」

「「「「「もきゅ!」」」」

「お前ら、相変わらず可愛いなぁ……と、ごま吉、ジュリエッタも」

『もきゅ』『きゅぅぅ』


 俺はごま吉を、ルーシアはジュリエッタを抱き上げる。

 足下にはたくさんの猫と、小さなアヌジンラウト……そう、ごま吉とジュリエッタの子供だ。

 ごま吉、ジュリエッタは結婚。なんと子供が12匹も生まれた。

 どれもこれも可愛い。俺がオストローデ王城で暮らせない理由その1、こいつらが増えすぎてしまったためだ。

 

 三日月も、オストローデ王国中のネコが集まってしまい途方に暮れた。そこで、オストローデ王国にある大きな空き家を買い、そこでネコとアヌジンラウトと一緒に暮らすことにしたのだ。

 さらに、三日月は高校の調理部だった女の子数人を屋敷に誘い、一階部分を大きく改装してネコカフェを始めたのである。しかもこれがけっこう繁盛している。

 たくさんのネコ、可愛らしくモフモフのアザラシ、そして調理部の女子たちが作るスイーツと飲み物。いやはや、ヒットしましたよ……。

 

「せんせ、ごはんは?」

「まだだ。食べたら少し飲みに行くけど……いいか?」

「うん。飲み過ぎて倒れないでね」

「ああ。ルーシアが付いてるから平気だ」

「……わ、私もあまり自信はないが」


 すると、奥からパタパタとエプロンを着けた白髪の少女が来た。


「あ、おかえりなさーい」

「ただいま。エレオノール」


 オルトリンデたちが仲間にした少女、エレオノールだ。

 吸血鬼で、近付く人はみんな眠らせる特殊な能力をもっていたけど、今は首から下げているペンダント、俺の作った『能力抑制装置』で押さえつけている。これも能力の覚醒した影響で思いついた物だ……俺ってすごい。


「エレオノール、ペンダントの調子はどうだ?」

「はい。大丈夫です……ほら」

『もきゅ』


 エレオノールは、アヌジンラウトの子供を抱っこする。普通なら眠ってしまうが、気持ちよさそうに身体を丸めていた。

 どうやら不具合はない。

 エレオノールがここにいるのは、装置の点検とデータ収集のためで、普段はネコカフェで働いている。人と関わる仕事が楽しくてしょうがないのか、エレオノールは喜んで仕事をしていた。


 少し前に聞いた話だが、エレオノールは吸血鬼の中でも特殊な血を持つ存在らしい。ヴァンピーア王国は神聖なる吸血鬼である『真祖』が王族として国を守ってきたが、エレオノールは全ての吸血鬼の始まりである『始祖』の血を引く吸血鬼らしい。

 本来、王族しか使えない吸血鬼の真の姿である『妖態』になれること、そして純白の髪に真紅の瞳がその証拠だとか……まぁ、どうでもいいけど。


 そんなことより、メシだメシ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夕飯は、三日月が作ってくれた。

 ルーシアと三人で食事を済ませ、俺とルーシアは近くのバーで軽く飲むことにした。明日もあるし、ほんのちょっとだけ。

 ワインを注文し、乾杯する。

 三日月に言われたので、酔わない程度にちびちび飲み、つまみのチーズを食べる。

 

「セージ。ブリュンヒルデたちは元気か?」

「ああ。スクラップ運搬の仕事してる。シグルドリーヴァが中心になってスクラップを解体したり、工場で作った製品を運んだり……みんな忙しそうだ」

「そうか……なぁ、今度みんなで集まって飲まないか? ゼド殿やアルシェ、クトネも呼んで……」

「それ、いいな……ふぁ」


 ちょっと酔ってきた。

 そろそろ帰ろうとお会計を済ませ、立ち上がると……ルーシアがふらついた。


「おっと、危ないぞ」

「す、すまん……」

「…………」

「…………」


 う、やばい……ルーシア、やっぱり美人だな。

 ルーシアを支えて店の外へ。家まで近いし、このまま支えて帰ろう。


「なぁ、セージ……」

「ん?」

「お前は、その……」

「?」

「……いや、なんでもない」


 ルーシアは、俺に寄りかかりながら歩く。

 ちょっとおっぱいが当たってるけど……まぁ役得ってことで。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ルーシアを部屋に送り、俺も自分の部屋に戻ってきた。

 部屋に入ると、ごま吉とジュリエッタが出迎えてくれる。子供たちも12匹揃い、俺のベッドを占領していた。

 ま、これはいつものことだ。なのでベッドはキングサイズ。部屋の三分の一がベッドだからな……俺の寝るスペースは楽勝であるのだ。

 

『もきゅう』『きゅぅぅ~』

「よしよし。起きててくれたのか」


 ベッドサイドに座り、2匹をモフモフする。

 子供たちは既に寝ているが、こいつらは待っててくれた。精一杯撫でてやる。


「…………ふぅ」


 オストローデ王国が復興を始めて一年……オストローデ王国の産業は急速に発達している。

 自動車の開発、電波塔を建設し携帯電話を作るなど、他にも産業のアイデアはいくつもある。あと数十年もすれば、世界中で携帯が当たり前の世の中になるだろう。

 スクラップ置き場は、ブリュンヒルデたちが厳重に管理している。カラミティジャケットやウロボロス、量産型LUKEなど、原型が残っている物もある。誰かが修理して悪用しないとも限らないので、電子頭脳を破壊し、徹底的に分解している。

 スクラップは、これからの機械開発に大いに役立っている。


「…………そろそろかな」


 俺は、悩んでいた。

 オーディン博士が遺した『戦乙女の遺産ヴァルキュリア・レガシー』、最後の一つ。

 オーディン博士が消える間際、俺に託された最後の遺産。

 戦争から一年……託すときが、来たのかも知れない。


「…………よし」

『もきゅ?』『きゅう?』


 そろそろ、ちゃんと話すときが来たようだ。

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