最終章・【オストローデ機械工学教師・相沢誠二】
第306話、エピローグ①
オストローデ王国との戦いから、一年が経過した。
帰ることができないと知った生徒たちは悲しみ……に包まれることはなかった。というか、なんとなくそんな気がしていたのか生徒たちはあっけらかんとしていた。
チート能力を失った生徒たちは、それぞれがやりたいことを始めた。
中津川率いる男子たちは騎士団に残留。オストローデ王国の正規兵士として訓練に励んでいるようだ。もちろん、中には女子もいる。
他にも、城下町で働きたいという生徒や、冒険者になりたいという生徒たちには資金を提供し、それぞれのやりたいことを自由にやらせた。
チート能力は消失したが、鍛え抜かれた技術と経験、そしてなぜか魔術は使用可能だったのだ。生徒たち一人一人がA級冒険者並みの実力があるので、特に問題はなさそうだ。
沈没船の財宝は、保証金などで半分が消えた。
だがまだまだ残っている。これは俺が管理し、生徒たちやいざという時の資金として、これからも役に立つだろう。
オストローデ王国は、アナスタシアが正式に女王となり、統治が始まった。
ヴァンホーテン王の死に国民は悲しみ、イケメン騎士団長アシュクロフトも病に侵され死亡したと伝えられると、やはり国中が悲しんだ。アシュクロフト……アンドロイドで人間を滅ぼそうとしたけど、こんなにも国民に好かれているんだ。ちゃんと理解できれば、共存だってできたのに……。
残ったオストローデシリーズたちは、アナスタシアを影で支えている。
ゴエモンは元の身体に修理し、強者を求めて再び旅だった……というか、勝手にいなくなっていた。アリアドネはとある場所で働き、ハイネヨハイネは相変わらず城をフラフラしている……あれ、誰も支えてないわ。
俺の仲間たちも、オストローデ王国にいる。
クトネはマジカライズ王国に戻り、これまでの旅で学んだことを論文にして発表、博士号を得てマジカライズの学校を卒業し、オストローデ王国で最年少魔術講師として招かれた。毎日元気に教鞭を振るっている。
ゼドさんは、ファヌーア王の命令でオストローデ王国の技術士として派遣された。オストローデ王国の郊外には大量のスクラップがある。それを再利用したり、研究したりと毎日大忙しだ。
アルシェは、オストローデ王国を拠点に冒険者を頑張っている。今はS級冒険者の一人、『魔弾の射手』と呼ばれているそうだ。たまーにゼドさんと飲んでるらしい。
ライオットは、オストローデ王国の孤児院所長になった。
子供好きだし、なにより人気がある。ライオットの肩車は整理券が配られるほどの人気があるとか……わけわからん。
そして、三日月とルーシアだ。
ルーシアは少し特殊な立ち位置で、三日月も頑張っている。
その前に、俺がどうなったか説明しよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はい、今日の授業はここまで……ありがとうございました」
「「「「「「「「「「ありがとうございました、センセイ」」」」」」」」」」」
大学のような扇形の教室で、俺は教鞭を執っていた。
そう、俺はこの世界でも教師をやっていた。教師と言っても、普通の教師ではない。
「センセイ、質問が。この駆動部分の歯車とモーターの接触部分が」
「ああ、ここは……」
俺は、生徒に『自動車』の仕組みを説明する。
ガソリンで動くような物じゃない。魔力をガソリン代わりにした、シンプルな物だ。
俺はこの世界で、『技術講師』としてセンセイをやっていた。
「セージ、次は工場に行くぞ」
「ああ。わかった」
俺の秘書兼護衛のルーシアだ。
ルーシアはマジカライズ王国理事長ナハティガルの命令を受け、騎士でありながら俺の護衛を務めていた。本来ならマジカライズ王国の騎士であるルーシアがここにいるのはおかしいが、いろいろ気を遣ってくれたとか……。
なぜ、俺が機械講師をしているかというと……それは、いくつかの後遺症が関係している。
チート覚醒による後遺症その1、俺はとんでもなく頭がよくなった。どんな数式や計算も一瞬で答えられるし、数学どころか機械工学の知識もヤバいくらいわかる。IQ1000くらいはありそうな気がする。
俺は機械技術をこの世界に浸透させるため、車やエレベーターなど、簡単な仕組みの機械技術を作り上げ、オストローデ王国や他の領土に提供している。そして、俺の知識を学ぼうと、世界中から技術者見習いが集まってくるのだ。
「あ、そうだ。アリアドネのところに寄ろう」
「わかった。行くぞ」
ルーシアと一緒にアリアドネの研究所へ。
正確には、俺の研究所。そしてアリアドネは助手だ。
オストローデ王国の敷地内に建てられた巨大な建物……実はこれ、俺が一瞬で作ったんだよね。
チート覚醒による後遺症その2、歯車の空は消えなかった。
世界中に出現した『歯車の空』は、今も残っている。透き通るような歯車は音もなく回り、たまーに小さな歯車が落ちてくるとか。
こいつのおかげで、今も俺はあらゆる機械を一瞬で作ることができる。その気になればスマホだって作れるが……今はその時じゃない。というか、アンテナもないし通話できない。
研究所の中に入ると、助手のアリアドネ、そしてジークルーネがいた。
「あ、センセイ!」
「おう、センセイじゃん」
「二人とも、仲良くやってたか?」
「うん。アリアドネと一緒にアンテナの最終調整をしてたの。もうすぐ電波塔が完成するよ!」
「ふん。『誰でも使える通信端末』ねぇ……番号で端末を管理して、その端末から番号をプッシュして通話するか……面倒だなぁ」
「そう言うな。まずはオストローデ王国で『携帯電話』の実験をしてデータを集める。その後、大陸中に電波塔を設置して、いつでもどこでも通話できるようにするぞ」
いつか、この世界中で携帯電話を持つのが当たり前になる。
道路を整備して、車を走らせることだってできる。
知識はある。でも……まずは一歩ずつ、歩いて行く。
「センセイ、わたし、役に立ってる?」
「もちろん。ジークルーネは最高の助手だぞ」
「えへへ……」
code06ジークルーネ。
彼女は、俺の研究室の助手として、アリアドネと一緒に働いている。
情報処理はお手の物。たまーにアリアドネと喧嘩するが、今は良き仲間……友達だ。
他の戦乙女たちも、自分たちの場所で働いている。
「よし、ちょっと工場で電波塔を見てくる。二人は最終調整を頼む」
「あいよー、あ、帰りに液体燃料と飴持ってきてー」
「はいはい。アリアドネ、ジークルーネと喧嘩するなよ」
「しないっつの!」
この世界は、新しい道を進んでいる。
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